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第32話 アシャニスタvsキャサリン&リーザ

日が沈んだ頃、夜の礼拝に行こうと拝魔教の信徒たちは会堂に集まった。拝魔教とは、魔大陸の国教であり、大多数の者が信仰している。

会堂の中では敬虔な信徒たちが跪き、神に祈りを捧げている。


「神に感謝」


司祭の呼びかけに対し、信徒たちも復唱した。


その瞬間、会堂に大きな爆発音が響き渡った。


「キャー!」

「何事だ!?」


信徒たちはパニックになり、我先にと会堂から逃げ出そうとした。


「皆さま、落ち着いてください」


司祭の声も虚しく、皆押し合うように外に出た。

信徒たちは外の光景を見て愕然とした。会堂は爆発によって半壊滅しており、周りを見回すと他のところからも煙が上がっている。

彼らが、自分たちの町は襲撃を受けたのだ、と理解した時にはすでに多数の負傷者が出ていた。


キャサリンは、拝魔教の関連施設や広場、大通りなど、なるべく多くの人が行き交い、注目を集める場所に爆弾を仕掛けた。それをある一定の時間に起爆させ、同時多発テロを引き起こした。

効果は的面。町は見事混乱に陥った。


「よし、うまくいった。でも、本番はこれからなんだから!」


キャサリンは両手に持っていた手榴弾を城門に向かって投げ込んだ。大爆発を起こし、混乱する兵士たち。紫たちはその隙をついて城に侵入した。


「来たわね」


「ああ」


城の上層から侵入者を見ていた魔王の手下も動き出す。


「久しぶりね、勇者様?」


城の内部に侵入しようとしていた紫たちの前に、彼らは姿を現した。


「アシャニスタ…どうして生きてるの?」


紫は疑問を投げかけた。彼らのうち1人は見覚えのある人物、あの時確かに殺したアシャニスタだったからだ。


「それはね、私の自慢の飛行船を叩き斬られた後、私だけパラシュートで脱出したからよ。私の右腕の恩は返してもらうわ。さあ、今度こそ一緒に死ぬまで踊りましょう?」


「だめだ、アシャニスタ。勇者は先に通すよう言われただろう」


やる気になったアシャニスタを隣にいた男が諫めた。


「分かってるわよ。てことで、勇者様、あんただけは特別にここを通っていいわよ」


紫は迷った。アシャニスタのことは、死ぬほど憎んでいる。なんといっても彼を殺した張本人なのだから。まさか生きてるとは思わなかったが、死んでないのなら尚更自分で手を下す必要がある。しかし、目的はあくまでも魔王の討伐。親切にも魔王の元まで案内してくれるというなら、それに乗った方がいいのではないか。紫は自分の復讐心を押し隠して彼女が言う通り進むことにした。


「アシャニスタ、私はあなたを許さない。魔王の次は、あなたを殺す」


紫は捨て台詞を吐くと、先へ進んだ。


「ふふっ、面白いじゃない。あんた程度の小娘に我が君がやられるわけないじゃなーい、あはっ」


アシャニスタは心底楽しそうに笑った。その姿からは余裕が感じられる。


「よく喋るやつね。まあいい、私たちも行こ!」


キャサリンとリーザ、ラティーファも先に続こうとした。


「おっと、だめだよ。先に通すのは勇者様だけ。あんたたちは目障りだからここで消えてもらうわ!」


しかし、案の定アシャニスタが行く手を塞いだ。キャサリンとリーザは仕方なく立ち止まった。


「私は先に行く」


ラティーファは自身に幻術をかけ、姿をくらますと、彼らの目を掻い潜って紫の後に着いて行った。アシャニスタは慌てて彼女の姿を追おうとしたが、既に見失っていた。


「ちっ、一匹取り逃した。まあいい、まずはこいつらやっちゃいましょう? ねぇ、ランヴェール」


「ああ」


アシャニスタとランヴェール、と呼ばれた男は戦闘態勢に入った。


「やっぱりあんたはいいわ。私が新作武器のお披露目も兼ねて1人でやっちゃうから手出さないで」


「分かったよ。じゃあ、俺は高みの見物といきますか。」


ランヴェールは戦線を離脱した。本当に、見るだけのつもりのようだ。


「アシャニスタの能力はある程度把握してるけど、あのランヴェールとかいうやつの情報はない。べらべら喋るタイプでも無さそうだし、変に手を出されても厄介だから先にアシャニスタやっちゃおう」


「ええ、分かったわ」


キャサリンはリーザに耳打ちした。


「じゃあ、いくよ! 先手必勝!」


「あ、ちょっとま…」


キャサリンは言うが早いが飛び出すと、リーザが止めるのも聞かずにアシャニスタに向けてナイフを放った。


「無駄よ」


しかし、アシャニスタはナイフを全て右腕で弾いた。紫が斬り落としたはずの右腕。そこには、金属でできた右腕があった。アシャニスタの体はサイボーグのようになっていた。


「ランヴェール、あれを試すからなるべく遠くに避難することをお勧めするわ」


「はいはい」


アシャニスタはリモコンを取り出すと、何やら操作した。

キャサリンとリーザは、最大限警戒した。彼女がリモコンを操作して攻撃することは想定済みだった。しかし、目に見えては何も起こらない。一層警戒心を深めた、その時。突如身体中に物凄い量の雷が流れるのを感じた。


「雷属性の魔法ね」


リーザは咄嗟に魔力を放ち、雷を逃がした。しかし、攻撃は止まらない。まともに雷攻撃をくらったキャサリンは、体を痙攣させている。


「ふふ、これであんたたちを無力化できたわ。もう何もできない」


「いえ、仕組みは簡単ね。魔力を供給し、雷を作り出している機械があるはずよ。」


リーザは冷静に辺りを見回し、機械らしきものを発見した。


「見つけたわ、そこよ!」


リーザは一見壁に埋もれて分かりづらいところにあるその機械に向かって、ギリギリまで圧縮した魔力を強力なパルスに変換した攻撃を放った。プツンと電源が切れた。と同時に、キャサリンが意識を取り戻した。


「まさか、改良中とはいえ私の新作兵器が効かないなんて。あんた、小娘のくせによくやるわね。下手したらルドラに匹敵する魔術師になれるかも。なーんてね。」


アシャニスタは悔しそうな様子ながらどこか楽しそうに言った。


「ふふ、でも、本当の戦いはこれからよ?」


彼女は自らの右手首を折った。


「避けて!」


どちらかが叫び、2人は飛び退いた。その瞬間、さっきまで2人がいた場所の地面が抉れていた。


「ちっ、外したか」


アシャニスタは義手からレールガンを放ったのだ。


「でも、まだまだ仕込みはたくさんあるんだから!」


彼女はどこかで聞いたことのあるセリフを吐くと、義手を回し、再び攻撃を放った。


「通さないわ!」


リーザは自身とキャサリンを守るように氷の壁を作った。


「私に考えがある。でも、今飛び出していったら流石の私でも蜂の巣になっちゃう」


「わかったわ。攻撃は全て私がなんとかするから、気にせず突っ込んで行きなさい」


「できるの?」


キャサリンはあまりにも自信満々に言い放ったリーザに驚いた。


「ええ。攻撃はよく見ると鉄の球。ということは、雷魔法で強力な磁場を発生させれば軌道を逸らすことができる。魔力もあまり余裕はないけど、まだいけるわ」


「わかった!」


キャサリンは左手を握りしめると、本当に氷の絶対防御から飛び出した。

無論、攻撃の標的はキャサリンに向けられる。しかし、その全てが、あらぬ方向へと飛んでいった。

攻撃が当たらず、困惑するアシャニスタにキャサリンはナイフを振るった。

彼女は反射的に避けるも、キャサリンの刃は止まらない。やがてアシャニスタは追い詰められ、キャサリンは彼女の髪を左手で引っ掴んだ。


「これで終わりよ!」


「大丈夫か、アシャニスタ。そろそろ俺の手助けが必要か?」


しかし、そこでこれまで傍観に徹していたランヴェールが現れた。


「お願い…!」


キャサリンはランヴェールが参戦したのを見て、パッと手を離すと、彼らから距離を取り、リーザの元へと戻った。


「もう遅い。お前らは終わりよ! リーザ、私を守って。数秒後に、ここら辺は爆発によって跡形もなく吹き飛ぶ」


「え! わかったわ」


リーザは驚きとともに返事をした。


「きゃー! 髪になんかくっついてる!」


アシャニスタが自身の髪の違和感に気付き、大騒ぎし始めた。


「あはっ! 今更気付いてももう遅いんだから! もうすでに、C3の起爆粘土はあんたの髪に仕込んだ。3,2,1...」


キャサリンは耳を塞いだ。

瞬間、青白い閃光が迸り、世界が終わったと思えるほどの轟音が響いた。同時に爆風が巻き起こり、周りの物は皆吹き飛んでいく。後には、ただただ何もない空間が残されていた。

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