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第30話 皇女エリザヴェータ・ロマノヴァ

振り下ろされる刃になす術もなく、リーザは目を閉じた。

いつまで経っても来るべき衝撃がこないことを不審に思った彼女は恐る恐る目を開いた。すると、そこには自身を覗き込んでいるキャサリンとラティーファの姿があった。右手にちゃんと杖もある。


「どういう、ことかしら…?」


「あなたは、私の幻術にかかった」


ラティーファは赤い瞳をすっと元の茶色の瞳に戻して言った。


「幻術…」


どこから幻術にかかっていたのだろうか。リーザは考えを巡らせたが、分からなかった。


「さあ、知ってること全部吐いてもらうよ! あんたの正体から目的まで、ぜーんぶ!」


"قول حقيقة"


ラティーファは再び瞳を赤く染めると、リーザの目を見ながら言った。次第にリーザの翡翠色の瞳から光が失われていき、彼女は虚ろな表情で真実を語り出した。


「私の本当の名前はエリザヴェータ・ニコラエヴナ・ロマノヴァで、リーザは愛称よ。私はルーシー帝国の第二皇女として生まれた。幼い頃から魔術の才能を持っていたから、ブリジット王国の魔術アカデミーに留学することになったわ。でも、世界大戦が始まってしまったから、身分を隠して入学したの。卒業する頃、襲撃事件を受けて死亡した王国騎士団のかわりに魔王討伐の旅に同行するメンバーを探しているという話を聞いたわ。アカデミーでも優秀な成績を収めていた私は、それに立候補することにした。世界平和に貢献するため。でも、そんなものは表向きの理由で、本当の理由は別にあった。」


固唾を飲んでリーザの話を聞く2人。リーザは少し目を伏せ、間を置いてから言った。


「私の父、皇帝は私に極秘任務を言い渡した。それは、魔王討伐後に勇者を暗殺すること。皇帝は、魔大陸の利権がブリジットに取られることを恐れた」


2人は息を呑んだ。


「だから、魔王を倒した後、勇者を暗殺し、表向きには勇者は魔王と相討ちになったことにして私が身分を明かせば、ルーシー帝国に魔大陸の利権について口出しできる余地ができる。」


「もういい、十分わかった。」


キャサリンはリーザの話を遮った。


「つまり、あんたは背後からユカリを狙ってる敵ってわけね! あんたの身分とか、国の事情とかは知らないけど、ユカリの敵と分かった以上、このままにしてはおけない。私があんたを始末する」


キャサリンはナイフを握った手を振り下ろした。ラティーファが慌てて止めに入るが、間に合わない。リーザは、術にかかっているためか反応もできず、ただただ迫りくるナイフを見つめていた。


ナイフが、リーザの動脈を切り刻むその瞬間、カキン、と金属同士がぶつかる音が響いた。


「その必要はない。」


「ユカリ…!?」


間に入った紫が剣でナイフを叩き落とした。


「でも、この女は、ユカリを殺そうとして…!」


「話は聞いた。リーザ…いや、エリザヴェータ皇女が、ルーシー帝国のスパイで、私を暗殺しようと企んでいること。」


「だったら今のうちにやっちゃおうよ!」


ようやく術から覚めたリーザが真っ青な顔で俯いた。寒さからか、震えている。


「うん。どこの国も考えるのは同じことなんだね。魔大陸の利権、利権って、まだ戦争も終結していないし、魔王討伐も果たされていないのに。キャス、多分、フランツィア王も似たような理由であなたを送り込んだんじゃない? 政治的なことはよく分からないけど。ただ、一つ言えるのは、魔大陸の利権なんて実際に魔王を倒した勇者が手にするに決まっているじゃない。魔王を倒した瞬間、勇者は世界をも手にする。」


紫が唐突に語り始めた内容に、他の皆はポカンとした。


「でも、安心して。私は元から魔大陸の利権なんて興味がない。それで、エリザヴェータさん、あなたの処遇についてだけど、私の命を狙ってる人と共に旅はできない。流石に殺すのはかわいそうだから、手足を切り落として、誰もこないような山奥に放置する。」


ラティーファがドン引きしたような顔をした。リーザは、顔面が青を通り越して白くなった。


「お願い、お願いします…。どうか、そのような目に遭うくらいなら、一思いに殺してください。」


「それは流石にかわいそう。まだ、普通に殺した方がマシ。」


リーザは紫に跪き、ラティーファも彼女を援護した。


「まあ、それは流石に冗談だよ。わざわざ山奥まで運ぶのも面倒じゃない。」


面倒じゃなければやるのか、という問いは、心の中にしまっておいた。


「それで、あなたの今後についてだけど、予定通り旅には同行してもらう。魔術を使える人は貴重だし、これから魔王の本拠地に乗り込むことを考えると戦力は少しでも多い方がいい。こんなところで仲間割れをしている時間はない。」


リーザはほっと胸を撫で下ろし、キャサリンは不満そうな顔をした。


「魔王を討伐した後に私を暗殺するみたいだけど、まあ、好きにしたらいい。やれるものならやってみなさい、というのが正直なところよ。」


「その…本当に、いいのかしら…?」


リーザは遠慮がちに尋ねた。


「うん。そのかわり、魔王を倒すまできちんと働いてくれればそれでいい。具体的に言うと、魔王軍には魔王の他に魔王の四天王がいる。魔王は私一人でやるとして、残りの四天王のうちの2人をあなたたち3人で倒してほしい。」


「四天王って4人いるんでしょ? あとの2人は…?」


「私が殺した」


「分かりましたわ。私が、その四天王とやらを必ず倒してみせますわ」


「ふん、私はあんたより先に倒すから」


「私は…皆の支援に回る」


三者三様、様々な形で決意を表明した。


「まずは、エリザヴェータさん、医療魔術は使える?」


「もちろん使えるわ。あと、本名は長いからリーザでいいわよ。」


「わかった。じゃあ、リーザ、キャサリンの傷を治してあげて。」


「…そうね。私の魔法で、傷つけてしまったから…ごめんなさい、ちょっと診せてくれるかしら?」


リーザはキャサリンに近付き、傷口を見ようとした。


「い、いいよ治さなくて!こんなもの、唾付けといたら治るんだから!」


しかし、キャサリンはなぜか頑なに拒否した。紫はそんなキャサリンの様子を見て爆笑した。


「ははっ、唾つけとけば治るって…くっ…キャス、大阪のおばさんみたい…ふふっ」


「何笑ってんのよ!」


キャサリンは眉を吊り上げた。


「オオサカのおばさん…?」


リーザは聴き慣れない単語に首を傾げた。


「…ユカリの笑った顔、初めて見た」


ラティーファの指摘にキャサリンはハッとした。確かに、彼女と旅を続けてから一度も笑ったところを見ていなかった。


「寒いし、帰るよ。誰かが騒いで起こされたせいで、碌に寝てない。」


皆、バツが悪そうな顔をした。4人は何事もなかったかのように宿の部屋に戻り、今度こそ就寝した。


バラディのメンバーは広大な帝国内の旅を続け、ついに魔王軍が実行支配している地域の手前まで辿り着いた。

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