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第28話 スルタンのお気に入り

宮殿に軟禁されているキャサリンを救い出すため、紫とラティーファは行商人の振りをして宮殿の中に潜入した。しかし、宮殿は広く、色々な建物があるため、人一人を探すのは困難だ。そういった時にラティーファの能力は役に立つ。


「キャサリンは、ハレムにいる」


ラティーファは青い顔で呟いた。ハレム、それはオットマン帝国の皇帝、スルタンの妃たちが住まう場所であり、幼い王子が住むこともある。妃たち、と言う通り、スルタンの妃は一人ではない。複数の妃がいる上、子供の有無、褥を共にしたかどうかで妃の階級が決まる。ハレム内部では日夜それはそれは熾烈な女の争いが繰り広げられているそうだ。キャサリンがそんなハレムにいるということは、つまりそういうことだろう。皇帝の妃として選ばれたのか。今夜スルタンの元に召し上げられるのだろうか。

一度ハレムに入れば、よほどのことがない限り基本的に出られない。スルタンと関係を持ったとなれば尚更だ。自然と紫たちの足も早くなる。早く救出しなければ、大変なことになる。2人はラティーファが瞳術を使って奪った侍女服に身を包むと、キャサリンのいる部屋へと向かった。


「ここだ」


ハレムは広い。中は豪華絢爛だったが、そんなものに目を向ける余裕すらなく、紫はキャサリンが軟禁されている部屋を開けた。

しかし、中は既に間抜けの空だった。

更に進み、今度こそは彼女がいるであろう部屋の前に辿り着いた。しかし、そこには宦官が立っており、容易に侵入はできそうにない。紫が剣に手を伸ばしかけたところ、ラティーファが待ったをかけた。


「私に任せて」


ラティーファは宦官の前に歩み寄ると、何事か呟いた。すぐに彼らの目はトロンとなり、焦点が合わなくなった。その隙に扉を開け、侵入する。いくつか間を抜けると、ようやくキャサリンのいる部屋に辿り着いた。

キャサリンは、豪華な白い夜着に身を包み、長身の男性、おそらくスルタンだろう、と話していた。彼らのすぐそばには天蓋付きのベッドがあった。


「誰だ、侵入者か?」


スルタンが咄嗟に紫たちの気配に気付いた。


「そうよ。私たちのキャサリンを取り返しにきた」


「そうか、この者たちがお前の仲間か?」


「そうだよ。私は、仲間と共にやるべきことがある。だからあんたの妃にはなれない。」


キャサリンは瞳に強い決意を宿して言った。


「…今まで余の妃になれと言って断った女はいなかった。余の妃になれば、お前は金と権力を手にすることができる。それでも断るか?」


「もちろんお断りよ! 私は金と権力なんか興味ない!」


「おもしれー女。…ん、余はますますお前のことが気に入ったぞ。だが、無理強いはしない。そのやるべき事とやらが終わるまで気長に待つとしよう。」


スルタンは微笑んだ。


「まあ、気が向いたら戻ってこないこともないかもね」


「キャサリン、余…いや、俺は、君のことをよく知らないけど、でも本当に好きなんだ。今日、宮殿の外で見かけてから君のことが頭から離れない。一目惚れしたんだよ。俺は、金と権力以外何もない男だ。それでも、君のような強い女性とこの残酷な世界を生きていきたい。生涯叶わない願いかもしれないが、君のことを忘れる日は来ないだろう。」


〝seni seviyorum aşkım.〟


スルタンはキャサリンに跪き、手の甲にキスをした。彼の表情は、一国の王ではなく、まるで一人の恋に悩める青年のようであった。


“Teşekkür ederim”


キャサリンは不覚にもときめいた。さっきまでは何とも思わなかったが、よく見ると彼の顔はなかなかハンサムなことに気が付いた。2人はしばらく見つめ合い、耐えきれなくなった紫が咳払いをしたことで現実に引き戻された。


「そろそろ帰るよ、キャサリン」


「うん。…さようなら、スルタン・スレイマン」


「さらばだ、キャサリン」


3人はあるべき場所に帰って行った。


---


翌日も賞金首狩りの任務に勤しんだ。アジトを一つずつクラッシュして回り、ようやく賞金首を捕まえたのは数日後となった。ちなみに、その間にキャサリンはラティーファを鍛え、瞳術を使わなくてもある程度接近戦に対応できるようにした。今まで瞳術に頼りっぱなしでそういった方面での戦闘経験は皆無に等しい彼女は、慣れない稽古に全身筋肉痛になったりした。


「任務達成、おめでとうございます。報酬です。」


紫はギルマスから金貨がたっぷり入った袋をもらった。これで、当分活動資金で悩むことはない。紫はほっと胸を撫で下ろした。


「それから、これはブリジットから届いた魔王討伐任務のための補助金です」


「えっ」


紫は更に金の入った袋を渡された。まさか、補助金が貰えるとは思っていなかった。


「じゃあ、さっきの任務、引き受けた意味…」


「いえ、勇者様が我が町に蔓延る犯罪組織のアジトを片っ端から潰してくださったおかげで、この町の治安も良くなり、事件の数も明らかに減りました! ギルドとしても頭痛の種だったので、本当に感謝しています。」


紫としては金のためだけにやったことだが、意外に勇者らしいことをしたなと内心思った。


「そう。それは良かった。じゃあ、資金も手に入ったし、私たちはこれで…」


「少々お待ちを。実は、ブリジット王国からは活動資金の他にもう一つ送られてきたもの…いや、人がおりまして」


「人?」


「そうです。ご紹介いたしましょう。少々お待ちください」


ギルマスが一旦部屋から出て行き、再び戻ってきた。一人の女性を連れて。


「皆さんこんにちは。お初にお目にかかります、リーザと申します。亡くなってしまわれた王国騎士団の精鋭の方たちのかわりに魔王討伐の旅に同行するようにと王国から派遣されて来ました。職業は魔術師です。よろしくお願いします。」


リーザは、金髪に緑色の瞳を持つ美女だった。紫は突然メンバーが増えたことに困惑しつつも返事をした。


「私はユカリよ。私たちは今、バラディという名前のパーティーで活動している。目的はただ一つ、魔王を討伐すること。あなたを入れると4人になる。丁度小隊の人数になるね。前々から魔法使いが欲しいと思っていたし、丁度いいかも。よろしくね。」


紫は立ち上がり、リーザと握手を交わした。


「私はキャサリン・ローゼンテール。職業というか、主に使う武器はナイフと爆弾。あんたがどれだけ戦えるのかは知らないけど、まあせいぜい足を引っ張らないように頑張りなさいよ」


「私はラティーファ。砂漠の民の出身。幻術や遠見などの瞳術を使う。」


それぞれ自己紹介を終え、握手を交わした。


こうして、バラディに新しいメンバーが加わり、小隊になった。

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