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第23話 灼熱の国

「あつーい」


『バラディ』のメンバーは、旅を続けた。スペランツァ王国を出国すると、船でマグリブ王国へと渡り、港に降り立った。マグリブ王国はスペランツァとは打って変わり、灼熱の太陽が大地を照りつける、砂漠の国だ。ただでさえ暑い上、この国の風習で女性は皆、髪を隠さなければいけない。それは外国人であっても例外ではない。紫は薄紫色のスカーフを、キャサリンは真っ白なスカーフを頭に巻いていた。周りの女性は黒いスカーフを巻いていたり、服装まで黒いワンピースのようなものを着ていたり、目だけ出していたりとバラエティに富んだスタイルをしていた。


「我慢しなさい」


暑さに慣れていないキャサリンは早速文句を垂れ、それを紫が諫めた。しかし、こんな暑い国に長居はしたくないと、2人は早々に移動を開始した。魔王城に行くためにはルーシー帝国に入国する必要がある。そして、ルーシー帝国に入るルートはいくつか存在するが、紛争地帯を回避するとなるとマグリブ王国から砂漠を突っ切る必要がある。紫は、今は亡き副団長セオドアの提案したルートを辿る予定だった。砂漠超えの準備をするため、2人は情報収集に向かった。


「で、どうだった? 何か情報はあった?」


情報収集を終えた2人は適当なカフワに入り、ミントティーを飲みながら情報を交換した。


「あったあった。で、結論から言うと砂漠超えはほぼ不可能に近い。まず、砂漠は素人じゃ渡れない。普通はキャラバンで行ったり、部族単位で移動したりするから。行ったとしても迷って干からびて死ぬだけよ。 ただ、渡る方法がないわけではない。砂漠の民の案内があればいける」


「ただし、砂漠の民は閉鎖的で保守的だから、まず見も知らぬ他人に協力することなんてない。強力なコネクションでもない限り」


「そう。じゃあ、やっぱり自力でコネクションを作るしかないのね。スークに行きましょう。そこにいけば、砂漠の民の関係者もいるかもしれない」


紫はミントティーを飲み干した。ミントのほのかな香りが広がる。暑い日に飲む冷たい飲み物は控え目に言って最高だ。


---


マグリブ王国の都市ラバトの中心部にスークはある。食料から日用品、全てが揃っていて、地元の人間だけでなく観光客も多い。

スークの中はスパイスの香りで溢れていた。通路がたくさんあり、迷いそうなほど広い。外国人、それも女性の2人組は珍しいのか、行く先々でじろじろと見られた。


"السلام عليكم!"


ロクムの店の人にアラム語で挨拶された。


"وعليكم السلام"


紫はアラム語で返した。キャサリンは意味が分からなかったのか、目をパチクリさせている。


「元気? アラム語話せるの? すごいねー。どこから来たの?」


ロクム屋の店主は興味津々といった様子で話しかけてきた。


「ブリジット」


「遠いね。ちょっと見てく?」


「いえ…」


紫は会話もそこそこに先を急いだ。

それからもやはり行く先々で声をかけられた。ふと、絨毯屋が目に入った。緻密でとても綺麗な柄に惹かれ、紫は思わず店内に入った。キャサリンも興味深そうに見ていた。早速店番の若い男の子に挨拶された。


「2人はどこから来たの? 銀髪なんて珍しいね。とっても美しいよ」


彼はキャサリンの髪の毛を見ながら言った。彼がなかなか彫りが深くてハンサムな顔をしているせいか、褒められたキャサリンも満更ではなさそうだった。


「なんたって私は女神なんて呼ばれてたからね」


紫は暗殺の女神だけど、と心の中で付け加えつつ、絨毯の物色を続けた。


「ああ、君はまさに女神だよ。輝くような銀髪、星空のような瞳、精巧にできた人形のような顔立ち…。ところで、今日は2人で来ているみたいだけど夫はいないの?」


「夫どころか恋人もいないよ」


「ああ、僕の女神! 僕と結婚してくれ」


紫は思わず物色をやめ、彼らの方を振り向いた。そこには、跪いてキャサリンに求婚している男の姿とドン引きしている彼女がいた。


「え、嫌だけど。」


「じゃあ僕の恋人になってくれないか? 君の連絡先を教えてくれ。どこの宿に泊まっているんだ? この国にはいつまで滞在する? 僕の女神、今夜会えないか?」


キャサリンの額に青筋が浮かび上がった。紫はそっと距離を取る。


「さっきから調子乗ってんじゃねーよ。結局、ただの◯◯◯◯じゃねーかよ」


キャサリンは口にするのも憚られるような下品な言葉を発した。


「キャス、もう行きましょう」


紫は有無を言わせずキャサリンの手を取ると、店を出て行こうとした。絨毯の柄は好きだったのに、残念だ。


「まって、僕の女神」


しかし、男に止められた。


「本当に、君が好きなんだ。一目惚れしたよ。せめて、名前だけでも教えてくれ」


紫たちの進路を阻むように男が立ち塞がった。


「キャサリンよ。どいて、邪魔」


「キャサリン…僕のキャサリン、キスしてくれ」


男はキャサリンに迫ると、彼女の頬に自らの顔を近付け、接吻しようとした。

次の瞬間、男は吹き飛ばされ、通路に投げ出された。キャサリンは仁王立ちで男を見下ろした。何事かとスークにいた人々が集まり始める。


「ふざけんじゃないよ。私を誰だと思ってる? 命があるだけ有り難いと思いなさいよ、この◯◯が」


「いった…この女、よくも!」


男から甘い表情が消え、キャサリンを睨みつけた。


「おい、何事だ」


隣の店の店主が騒動を聞きつけてやってきた。


"فعلت أشياء سيئ!"


男はアラム語で何かを叫んだ。


"حقا!"


隣の店主の男が避難の眼差しをキャサリンに向けた。野次馬たちも彼女を責めるように取り囲んだ。


「なに? 私が悪いの?」


キャサリンは言葉は分からなかったが、自分が悪者にされているらしいということは感じ取った。紫は彼女を守るように立ちはだかった。


「お前、うちのサミールによくも手を出してくれたな。女のくせに!」


店主は激昂し、キャサリンも彼を睨みつけ、一色触発の空気が漂った。誰もが固唾を飲んで成り行きを見守っている。


その時、1人の少女が割り込んできた。

アラム語はアラム語です

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