第22話 バラディ、結成!
「最初に言っておくけど、もし嘘を言ったりデタラメを話したらすぐにあなたの首は飛ぶ。そのことを忘れないで」
「わ、わかった…」
紫は実際にナイフをちらつかせ、殺気を放った。マリーはそれだけで怯えた小鹿のようにブルブルと震えた。
「まず、あなたは…名前はマリーでいいのよね?」
紫は一応確認するつもりで聞いた。ところが、マリーは首を縦には振らず、目を泳がせた。
「違う…、私の本当の名前…キャサリンっていうの」
「そう。マリーは偽名だった訳ね。ファミリーネームは?」
「キャサリン・ローゼンテール、それが私の本当の名前よ」
紫は息を呑み、握っていたナイフを取り落とした。キャサリンが何かまずいことでも言ったのかと怯えたように紫を見る。
「ブリジット貴族のあのローゼンテール一族と関係あるの?」
キャサリンは頷き、しばらくして自身の生い立ちを語りはじめた。
「私はローゼンテール本家の娘として生まれた。でも、幼い時に当時敵対していた他の家に雇われた組織に誘拐されて、身代金を払う時に色々ゴタゴタがあったり、組織内で分裂が起きたりして結局国境を超えて別の組織に売り飛ばされた。私、こう見えて結構美少女だから、逆に売り手がつかなくて色々な組織を転々として、そのうち暗殺の腕を買われて今の暗部組織に落ち着いたってわけ」
「それでこんな仕事をしているのね。それに、あなたが強い理由もわかった。じゃあ、次の質問。私を暗殺する任務を依頼したのは…いえ、国はどこ?」
「そこ聞いちゃうー? 別に依頼主に忠誠誓ってるとかそういうわけじゃないけどさ、一応組織の…いや、暗部世界の暗黙のルールとして、依頼人に関する情報を喋ったら消されちゃうんだよねー。」
「だから何? ここで沈黙を守ったところでどうせ私に殺されるんだから、結果同じじゃない。ここで喋って組織に殺されるか、秘密を守って私に殺されるか。好きな方を選びなさい」
「…こんなところで死にたくない。人生を奪われ、さんざん組織にこき使われて、たった一回の失敗で死ぬなんて嫌だ! まだ組織への復讐も果たせていない。どんなに世界が残酷でも、私は自分で選んだ道を生きたい! そのために、どんな手を使ってでも生き残ってやる。…フランツィア王アンリ4世よ、あんたの暗殺を依頼したのは」
紫はそこまで驚かなかった。フランツィア王と謁見した際に他の今は亡きメンバーから彼には気をつけるよう言われていたし、実際に部屋に盗聴器を仕掛けられたという前科もある。しかし、やはり一国の王が暗殺を仕向けたというのは衝撃だった。
「そう。でも、フランツィアはブリジットの同盟国だったはず。背後から刺されるとはまさにこのことだけど、なぜ?」
「さあね、フランツィア王に直接聞けばー?私はあくまで依頼を受けただけだからしーらない。本当に、知らないから!」
紫の目が光ったのを見てキャサリンは慌てて否定した。
「本当は依頼主を始末しに行こうと思ったけど…。一国の王となるとちょっと面倒くさいね。それに、目的のために遠回りするわけにもいかない。とりあえずこの件は置いておく。というわけで、マリー、まずはあなたを始末する」
紫はゆっくり剣に手を伸ばした。それを見たキャサリンは慌てたように暴れ出す。
「ちょ、ちょっとまって。情報を吐いたら命は助けてくれるんじゃ…」
「そんなこと言ったっけ? 情報は引き出したし、一度は命を狙われた人物を生かしておく理由なんてないでしょ。」
紫はすっとぼけたように言うと、ゆっくり剣を構え、彼女に向かって振りかぶった。もはやなす術も無く目を瞑ってその時を迎えたキャサリン。しかし、いつまで経っても衝撃がこない。彼女が恐る恐る目を開くと、そこには剣を振り下ろした紫がいた。
「どういうつもり? やるなら一思いに…」
「やった。私は、暗殺の女神マリーを殺した。キャサリン、これからは自分の本当の名前を名乗って生きなさい。誰からもこき使われず、自分で選んだ道を歩きなさい。あなたは自由よ」
紫はマリーを、キャサリンを解放した。物理的に自由になったキャサリンだったが、どこにも行かず、ただそこに立ち尽くした。
「…そんな、急に言われたってわからないよ。もう戻る場所もないし、行く当てもない。自由になったところで一生組織から逃げ続けないといけないし、仕事つったって結局似たようなことをやるしかない。私は、これからどうすればいいの…」
「キャサリン、どうしても行くあてがないのなら、一緒に魔王を討伐する旅をしない? あなたの実力は確かだし、丁度雑用係が欲しかったんだよね」
「…雑用係? この私を雑用係にするなんて、さすが勇者様は考えることが違う。でも悪くない。私、『掃除』は得意よ?」
キャサリンは得意げに笑った。彼女が言うと掃除も別の意味に聞こえる。というか、そっちの意味だろう。
「じゃあ掃除係にしようかな。決まり。私たちの目的はただ一つ、魔王を討伐すること。そうだ、私の名前は勇者様じゃなくて、ユカリだから。」
「ユカリ」
「うん。よろしくね、キャサリン。」
こうして新生勇者パーティーが誕生した。
翌日、2人は早速パーティー登録をしにギルドに行った。紫たちは直接応接室に通された。
「パーティー登録をしたいんだけど」
「分かりました。お連れの方のお名前は…」
「キャサリン・ローゼンテール」
「キャサリン様ですね。わかりました。パーティー名はどうなさいますか?」
紫は考え込んだ。肝心のパーティー名を考えてくることを忘れていたからだ。キャサリンの方を見ると、ノーアイディアという風に首を振られた。
紫は少し考え、答えを出した。
「バラディ」
「分かりました。とりあえず勇者様のパーティー『バラディ』はSランクパーティーにしておきますね。」
「ありがとう」
こうして、Sランク勇者パーティー『バラディ』は結成した。
--
ちなみに、パーティー名の由来が気になったキャサリンはあとでこっそり紫に聞いてみた。すると、こんな答えが返ってきた。
「バラディは、私の国…いや、厳密には私のいた世界の国の言葉で『私の故郷』という意味なの。私たちは目的を達成し、自分たちの故郷に帰る。そういう意味を込めてつけたの」
「へぇー。バラディね、良い名前じゃない。」
バラディ=
Baladi
アラビア語で「私の故郷」




