表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/37

第2話 勇者召喚

ブリジット王国 謁見の間


急に眩い光に紫の視界がホワイトアウトした。次に彼女が目を開いた時、そこにはまさに異なる世界が広がっていた。

紫は、まるで西欧の宮殿のような豪華絢爛な広間に立っていた。前方に玉座があり、華やかなドレスを纏ったいかにも高貴な身分の女性が座っていて、周囲にはまるで中世の騎士のような格好をした人々が控えている。そして、目の前には巫女のような格好をした黒髪の若い女の子が跪いていた。


「Brava...」


彼女が何事か呟いたが、聞き取れなかった。ここは異世界。言葉が通じなくて当たり前である。


「Ahran wa saharan ya brava.」


彼女が今度ははっきりと紫の顔を見て話した。


「…?」


だが、紫は自分に言ってることは分かっても意味までは分からないため、首を傾げた。

そんな紫の様子を見た巫女の彼女は後ろの高貴な人を振り返り、何事か囁いた。すると、高貴な人は玉座から立ち上がり、紫の方に向かって言葉を放った。


「Ya brava, Ana malika of Great Bridget, Victoria.」


彼女はとても気品があり、若いにも関わらずその場を支配するような、威厳のある話し方をした。紫は殆どの言葉は聞き取れなかったが、彼女の名前がヴィクトリアであるらしい、ということは分かった。


「3ndi muhaba. Yalja iieta alkhalas dah 3alam.」


ヴィクトリアは、必死に何かを言い募った。それに同意するように巫女も頷いている。そして、何か反応を紫に求めていた。

紫はよく分からなかったが、とりあえず頷いた。そして後からヴィクトリアがこの国の女王であることを知るのだった。


その後、紫は広間に控えていたお仕着せを着たメイドらしき人物数人に連れられ、宮殿の一室に通された。


後日、翻訳の魔導具によって紫は自分の置かれている状況を完璧に把握した。


曰く、今、世界は魔王によって危機に晒されている。この地上の実に4分の1が魔王の支配下に置かれ、多くの難民が発生している。このままだといずれ世界は魔王によって滅ぼされる。それを阻止するために、今紫がいるブリジット王国は勇者召喚の儀を執り行い、紫を呼び出した。世界の存亡に関わるので、なるべく早く魔王討伐の旅に出発する必要がある。


大体このような感じだった。紫は、翻訳機があるのなら最初から使えばよかったのに…と密かに思った。

それはそうと、世界は思ったよりも危機的な状況にあるらしい。


「どうか、紫様のお力で悪しき魔王を倒してはいただけないでしょうか」


巫女装束を着た少女、伊予が紫に頭を下げる。


「もちろんよ。この世界の人たちが困っているのに、見捨てることなんてできない。私にそんな力があるのかまだ分からないけど、でも、皆が期待している通り、必ず魔王を倒すから」


紫は決意を目に宿して言った。


「ありがとうございます…!」


伊予は紫の返答に感極まったように感謝を述べた。


「その、魔王を倒した暁には、どのような報酬を…」


「報酬なんていらない。魔王を倒して報酬を貰う勇者なんて聞いたことがないから」


「それは、なんと…」


伊予は驚いたように紫を見た。


その後も話し合いによって今後の方針が決まり、早速特訓が始まった。魔法の訓練でも、戦闘訓練でもなく、語学の特訓が。


---


「それでは発音練習をしましょう。“Haza el3alam„」


「Haza elaalam」


「3はもっと強く」


翻訳の魔導具があるとはいえ、いつまでも翻訳機に頼ってるわけにはいかない。ということで、紫は語学の習得に全力を尽くした。元々紫は語学が好きで、日本にいた頃は密かにアラビア語やロシア語、フィンランド語などの語学書を買っては独学で学んでいた。そういった経緯もあり、異世界語、いや、イングレ語の習得はそれほどまで難しくはなかった。英語など、第1外国語を習得するのは大変だが、第2、第3と学んでいくうちに言語の習得は容易になる、という法則は異世界にも当てはまったようだ。


「リングア先生、質問があります。先生は以前イングレ語は世界、いや、大陸の共通語だとおっしゃっていましたが、この世界には他の言語もあるんですか?」


紫の質問に先生は大きく頷いた。


「ええ、数え切れないほどたくさんあります。まず、ブリジット王国の公用語はイングレ語、これは以前お話しした通りです。他にも、ブリジット王国の同盟国であるフランツィア王国はフランツィア語を公用語としていますが、宮廷や公の場で使われるのはイングレ語です。といっても二つの言語は共通する語彙も多く、実は方言レベルの差しかないのですよ。」


では、なぜ言語として分かれているのか、その原因は民族や歴史、政治的な理由にあるらしい。


「他にも、大陸の北西からマグレブ王国がある亜大陸東にかけてはアラム語圏が広がっていて、更に南に進むとそこには様々な言語が入り乱れている国や、種族ごとに異なる言語を話す地域もあるようです。また、大陸の北東から南東にかけては広大なルーシー帝国の公用語、ルーシー語が話されています。」


そこまで説明するとリングア先生は一息つき、紅茶に口をつけた。


「ですが、やはりイングレ語は世界中で共通語として話されているので、よほどの田舎でない限り通じるでしょう。」


「では、イングレ語を習得すれば大陸の端から端まで旅することもできるんですね!」


紫は興奮を抑えきれない様子で言った。しかし、リングア先生は紫の言葉に表情を曇らせた。


「それは現実的に難しいでしょう」


「なぜですか?」


「それは…今、大陸は世界大戦の真っ最中だからです。」

地球の某言語に似てますがあくまで異世界語です

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ