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第19話 復活

ひんやりした空気を感じ、紫は少し気怠さを感じながらも目を覚ました。辺りは真っ暗で、空には無数の星が散らばっている。紫は現世に戻ってきたことを理解した。軽く起き上がって辺りを見回すと、少し離れたところに男性の姿を見つけた。彼は、ずっと焚き火を見ていた。


「ここはどこ?」


「国境付近の山の中だ。とはいえ、あの大爆発で国境もクソもねぇけどな。あんた、よく死ななかったな。よっぽど悪運が強えよ」


(実際は一回死んだけど)


「そう。あなたが助けてくれたの?」


「ああ。すげぇ爆発があって、なんか妙な予感がして現場に行ってみたらあんたが一人で倒れてたから介抱してやったのさ」


「…ありがとう。…っ」


紫は立ち上がろうと試み、体に激痛が走った。


「あまり無理しねぇ方がいいぞ。」


「…うん。ねぇ、私はこれからどうしたらいいの」


「…さぁ? 好きに生きたらいいんじゃねーの」


彼はぶっきらぼうに言った。


「好きに、生きる…」


紫は小声で彼の言葉を反復した。彼はそんな紫の様子を黙って見ていた。

しばらく2人の間に沈黙が広がる。時々焚き火の火が爆ぜる音や、木々が風に揺られてさわさわと動く音が響いた。


「そうだ」


男は急に思い出したように立ち上がると、スタスタ歩いてどこかに行ってしまった。ものの数秒もしないうちに彼は戻ってきた。手に紫の宝剣、ピエリアの剣を持って。


「それは…」


紫は剣を見て驚いた。あの大爆発で失くしてしまったと思い込んでいたからだ。


「これ、あんたの剣だろ。ピエリアの剣のレプリカ」


紫は息を呑んだ。百歩譲って宝剣の正体がわかったのは頷ける。しかし、なぜこの男はそれが贋作だと見抜いたのか。


「どうしてあなたがそれを…」


「俺が本物のピエリアの剣を持ってるからさ」


男は軽く手を振り、何らかの術を発動させると、何もない空間から一振りの剣が出てきた。それは、紫が所有していたピエリアの剣にとてもよく似ていたが、輝きがまるで違った。


「どういう経緯で偽物が作られたのかは知らねぇ。だが、それは確かに本物の剣だ。かなり扱いにくいが、使いこなせれば最強の武器になる。これはあんたにやるよ。俺が持っていても仕方ないからな」


男は紫に剣を寄越した。


「あなたは一体何者なの?」


「俺か? 俺は…魔王討伐に失敗し、人々の記憶からも忘れ去られた出来損ないの元勇者、ダンだ。」


---


翌朝、紫が目を覚ますとダンの姿は消えていた。しかし、本物のピエリアの剣は残っている。それが、昨晩の出来事が夢ではないことを証明していた。さらに、袋に包まれた幾ばくかの金銭が置いてあった。これでしばらくの間生活していけという意味なのだろうか。

結局、ダンがどういう人物だったのかはよく分からなかったし、口も悪かったが、意外といい奴だった、それが紫の彼に対する評価だった。


これからどうしよう。紫はたっぷり考えた末、とりあえずこの世界で生きていくために金銭を稼ぐことにした。そのための一番手っ取り早い方法として、紫はスペランツァ王国の方向に山を降り、近隣の町に向かった。冒険者になるために。

紫は一日中歩き、ようやく冒険者ギルドがありそうなほど大きな町、グラナードに辿り着いた。町に着いた時にはもうお腹がペコペコだった。というのも、時に道無き道を進み、多少の金銭を持っていてもご飯が食べられるところがほとんどなかったからだ。当然、紫は野営の設備も経験もなかったため、その辺の動植物を食べることもできなかった。そのため、紫は町に着いてすぐに目に入った飯屋に行った。実は町に入る時に関所があり、そこで多額の賄賂を支払った。身分を証明できるものを何一つ持っていなかったからだ。しかし、それでも僅かに残ったお金でお腹を膨らますことにした。


国が違えば料理も違う。食材も、調理方法も全く異なる。他の客が食べている料理を見る限り、スペランツァ料理は少しフランツィアに似ている部分もあるが、全く未知の料理もある。紫はとりあえずメニュー表の一番上にある店のおすすめ的な料理を選んだ。

しばらくして料理が出てくる。パサパサしたお米に野菜や肉、魚介類が混ざり合っているご飯料理だった。香りも良く、食欲が唆るままに一口食べてみた。魚介の旨みが口いっぱいに広がり、幸せな気持ちになる。紫は匙を進め、あっという間に平らげてしまった。

腹ごしらえもすみ、満足した紫は今日は休むことにした。外はもうすでに暗く、彼女自身も歩き続けたせいか疲労が溜まっていた。まだ、一晩泊まれるくらいの現金は残っていた。飯屋の二階に部屋があるというので、紫はそこに泊まることにした。中は簡素なベッドと机があるのみで、殺風景な部屋だった。紫はどことなく寂しい印象を抱く。実際は小さな小部屋なのに、部屋がやけに広く感じられた。それは、まるでこの世界に自分しかいないような孤独感を浮き彫りにさせた。

紫は着替えもせずにベッドに横たわると、静かに目を瞑った。あの襲撃があった日から1日か2日しか経っていないのに、随分長い時を過ごしたような気がする。それほど、密度が高く、濃い経験をした。失うものが多すぎた。もし、彼らがいれば今頃…、と紫はそこまで考え、思考を放棄した。今更過ぎたことを想っても仕方がない。彼らを失ったのは自分が非力だったせいだ。紫は心の中で懺悔した。レオンのことを思い出すと心がチクリと痛む。意図せずに自然と涙が出てきた。まるで心に大穴が空いたように苦しく、切ない。こんな感情は生まれて初めてだ。それだけ自分はレオンを本気で愛していたのだと、気付かされた。しかし、全ては遅過ぎた。既にレオンは亡き者で、もう二度と戻ってこない。紫はその事実にさらに涙が溢れるのを感じた。もっと早く自分の気持ちを伝えておけばよかった。もっと一緒に過ごしたかった。もっと彼と生きたかった。様々な後悔が胸の中に押し寄せてくる。紫は布団の中で人知れず号泣した。


(誰かのためでなく、自分のために生きろ)


紫はふと彼が最期に残した言葉を反芻した。自分のために生きろと言われても、今更どう生きていけばいいのか分からなかった。

紫は優等生だった。日本にいた時は勉強はもちろん、スポーツもでき、何事も卒なくこなした。そのため、紫の両親は彼女に期待をかけた。大きすぎる期待を背負った紫は、決して彼らの期待を裏切るまいと頑張った。紫は高校生だったが、行く大学も親の意向に応じた。そのため、自分自身の進路は何一つ自身の意志が反映されていなかった。それでも志望校合格のための努力を続け、道半ばで異世界に召喚される。異世界にきてからはこの世界の人々の期待に応えるため、勇者として出来る限りのことをやった。結局、彼女が今まで歩んできた道はいずれも他人の敷いたレールの上だった。

レオンの言葉によって紫はそれに気付かされた。他人の期待に応えるために頑張って、結果がこのザマだ。大切な人を失い、一度は自身の命さえ失った。

紫は何が正しいのかは分からない。もしかしたら、自分のする選択は間違っているかもしれない。でも、これからは自分の歩く道は自分が決める。例えそれが酷く険しい道だとしても、もう後悔という楽なレールには乗りたくない。紫はそう決意した。

一つだけ、人生の中で自分の意思で決めたことがあった。それがアテナとの約束であり、アテナの世界を救うことだ。そのことに思い至った紫は、唯一交わした約束を守るため、人々の期待に応える勇者としてではなく、アテナの唯一の親友として、彼女の世界を救う道を選んだ。

そこまで決意したところで紫は眠気が限界に達し、眠りの世界へ飛び立った。

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