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第17話 残された者たち

閑話なので読み飛ばしても大丈夫です

閑話 残された者たち


上泉家


夕方、日が落ちかけている頃。上泉桃子はリビングの椅子に座り、ぼうっとしていた。最近、日が短くなったなと思いながら。

リンリン、と固定電話の着信音が響いた。桃子は弾かれたように椅子から立ち上がり、電話を受け取った。


「はい、上泉です。…お世話になっております。…はい、…はい、…そうですか。ありがとうございます。…はい、よろしくお願いします。…失礼します」


一通り話を終えると、彼女は浮かない表情で受話器を置くと再び椅子に座った。


「誰からだった?」


電話の音を聞きつけた白がリビングに降りてきた。


「…探偵の方からよ。進展はないって」


「…そっか。もう、紫がいなくなって三ヶ月か。どこに行っちまったんだろうな」


紫の消息は最後に美術室付近で目撃情報があった後、途絶えている。あの日、学校から帰ってこない紫を心配に思った母は近所や紫がいきそうな場所を探し、それでも見つからなかったため、翌日、捜索願いを出した。警察だけじゃ頼りにならないと、探偵も雇った。学校の方にも事情を説明し、一時は大騒ぎになった。しかし、それでも信用できそうな目撃情報すらなく、今に至るまで見つかっていない。最後に居たと思われる美術室には誰が描いたのか分からない不気味な紫の肖像画が残っているのみ。誰もが、紫の生存を絶望視していた。


「紫は、絶対にどこかで生きている。待っててね、すぐに見つけるから」


紫の母親の桃子を除いては。

突然、パリン、とマグカップが割れる音が響いた。桃子は驚いてマグカップを見た。何もしていないのに、不自然な亀裂が入っていた。


「びっくりした。それ、確か紫がお土産で…」


白はそこまで言って口をつぐんだ。そのマグカップは確かに紫が修学旅行のお土産で買ってきたマグカップだったが、それが割れるということに不吉な予感を感じたからだ。桃子は割れたマグカップを見て真っ青になった。


「ただいま」


その時、玄関の扉が開き、紫の父親が帰ってきた。


「どうした? 何かあったのか?」


彼はリビングに漂うあまりに重苦しい空気を感じ取った。


「探偵の方から連絡があったのよ。捜査に進展はないって」


「そうか。大丈夫、紫は生きてるよ。あの子は強い。なんたってこの上泉家の血をひいているんだから」


彼はリビングの雰囲気に似つかわしくない明るい声で言い放った。


「なんであなたはこんなに楽観的でいられるのよ!」


「捜索願を出し、探偵を雇い、やれることは全てやった。あとは、紫の帰りを待つだけだろ。それより、桃子はもう少しちゃんと寝た方がいい。じゃないと、体力が持たないぞ」


「…そうね。警察も事件性はないって言ってたし…あの日も、あの子に色々言った後だった。私はあの子の人生に色々口出ししすぎたのかもしれない。今はもう少し、あの子を信じてみる。そうよ、あなたが言う通りあの子は強い。」


母はすっきりした顔で言い切ると、椅子から立ち上がった。


「お夕飯の支度をするわ。」


上泉家の日常が、動き出した。


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