第15話 勇者死す
レオンの仇をうつと決めた瞬間、紫は頭痛が治るのを感じた。どこからか膨大なパワーが湧いてくる。まるで世界が変わったかのように見えた。
紫は立ち上がり、ルドラと仲間の女を真っ直ぐ見据えて言った。
「殺し合いをするなら、まずはお互い名乗るのがこの世界の流儀じゃない?」
「それもそうね。私は魔王の四天王の一人、武器のアシャニスタよ」
「私も魔王の四天王の一人、殲滅のルドラだ」
「へえ、二人とも魔王の手先なんだ。私は上泉紫。」
3人は名乗り終えると、戦闘態勢に入った。
「まだまだ仕込みはたくさんあるんだから!」
アシャニスタは楽しそうに叫ぶと、手元にある端末を操作した。飛行船から細長い筒状の物体が何個か落下してくる。紫は本能的に飛び退き、岩陰に身を隠した。刹那、地面に落ちた物体が轟音と共に爆発する。熱風が紫の頬を撫でた。
「外したわね」
アシャニスタが悔しそうに言う。
「ああ。動きが読まれてる」
ルドラが述べた。実際、アシャニスタが端末を弄り始めた時に紫はすでに攻撃を察していた。アシャニスタは仕方ないと、次の一手を考える。端末に視線を落とし、操作しようとした時にはもうすでに遅かった。
「え…?」
気配を感じて後ろを振り向くと、こちらに向かって視認が難しいほどの速さで剣を振り下ろす紫の姿が視界に入った。紫はコンマ何秒の間に岩陰を飛び出して木々の間を伝って移動し、アシャニスタに奇襲を仕掛けたのだ。
「アシャニスタ!」
焦ったようにルドラが叫ぶ。彼女に紫の攻撃を回避する術はなく、辛うじて指一本動かした。だが、次の瞬間、突然アシャニスタの前に土の壁が出現した。ルドラが急いで錬成したものだ。アシャニスタは助かったと思った。しかし、紫は止まらない。彼女は土の壁ごとアシャニスタを斬りつけた。
「…いたっ、」
腕が飛んだ。紫は本当は首元を狙っていたが、急遽現れた土の壁に狙いは外れ、かわりにアシャニスタの右腕が飛んだ。
「痛い、痛い、痛い! こんな痛み、久しぶりよ! ルドラ、ちょっと、治してよ!」
腕を切られたアシャニスタが大騒ぎする。
「あとでな」
紫は追撃しようと態勢を整えたが、不意に飛行船から何かが飛んできたのを見て、距離を取った。
(また仕込み…?)
アシャニスタは飛行船から飛んできたワイヤーを空中でキャッチすると、左手で巻き取って飛行船の中に飛び込んだ。
「また機会があれば会いましょう。今回は残念だわ、条件が悪いし、そもそも私に上泉紫を殺す必要はない。右腕取られたけど。ただし、次会う時は手加減しないわ。どちらかが死ぬまで、一緒に踊りましょう? うふふ、新しい兵器も実験できて丁度良かったわ。じゃあ、またね。マアッサラーマ!」
アシャニスタは軽い調子で挨拶すると、飛行船を操作して飛び立った。
「逃すか!」
紫は走って飛行船の後を追うと、地面を抉れるほど蹴って跳躍し、斬撃を放った。遅れて飛行船が真っ二つになり、墜落した。
ルドラは驚愕した。まさか、防御力に優れているであろうアシャニスタ手製の飛行船が堕ちるとは思っていなかったからだ。そして、改めて勇者の脅威を再確認した。
「やはり、勇者は危険すぎる。ここで始末する他ない。…にしても、魔力もあまり余裕がないな…」
次の瞬間、ルドラの姿が消えた。
「いない…!?」
紫は辺りを見渡してルドラを探す。
「前、右、左、後ろ、上、どこにもいないとなれば…下!」
紫が地面に向かって剣を振り下ろそうとしたその時、足元から閃光が突き抜けた。
「…!」
紫は咄嗟に回避するが、不意打ちの一撃に確実にダメージを受けた。
(そこか!)
しかし、ダメージをものともせず、地面に剣を振り下ろすと斬撃を放った。轟音とともに地面が割れる。紫は割れた地面を一瞬で駆け抜けた。
「これでもう逃げられない」
心臓ごと剣で貫かれ、木に縫い付けられた状態のルドラを見て紫はヤンデレみたいなセリフを吐いた。紫はあの一瞬でルドラの心臓を突き刺し、そのままの勢いで木に衝突し、逃げ場を塞いだのだ。
「心臓を一突きか…。確かにこれじゃ空間転移もできないな」
「まだ生きてる!?」
驚くことに、ルドラは口から血を吐き出しながらもまだ話せる状態にあった。止めを刺そうと紫は手を上げる。
「いや…もうじき死ぬ…」
ルドラの弱々しい言葉に彼女は拳を下げた。
「そう。なら、最後に聞くけど、あんたたちの目的はなに?」
「…勇者を、殺すことだ…」
「なぜ」
「あの方を御守りするためだ。勇者をあの方の元に向かわせるわけにはいかない。そのために、私は勇者が滞在している町を突き止め、魔物を使役して襲わせた。確実に勇者を仕留めるために町にいた人々を一人残らず粛清した」
ルドラは淡々と動機を語った。彼の言葉に耳を傾けていた紫は、あまりの衝撃に思わず叫んだ。
「まさか! 私一人を殺すために町の人全員を犠牲にしたというの!?」
「そうだ」
「狂ってる…。ということは、副団長も、ジェイミーも、ヒュドラと戦ったオリヴィアもエドワードも全員もうすでに…」
「死んでいる」
ルドラは平然と言って退けた。彼の言葉の意味を理解した紫は、今まで感じたことがないほどの怒りが沸沸と湧き上がってくるのを感じた。
「あんただけは絶対に許さない! あのアシャニスタとかいう女も許さない! あんたの仕えてる大事な『あのお方』も、私、上泉紫が、どんな手段を使ってでも殺す!」
「それはどうかな。私はもう死ぬが、ただで死んでやるつもりはない。異世界から来たという上泉紫がなぜそうまでして戦うのか私には分からない。だが、戦う理由が、私にはある。私を救ってくれたあの方を御守りし、私の故郷を守るためだ! そのためなら、私は命尽きる最期の時まで戦う!」
ルドラは残りの力を振り絞って叫んだ。
「これ以上あんたに何ができるっていうの?」
対して紫は冷徹に彼を見る。
「準備は整った。私がただベラベラと喋っているだけだと思ったか? 全ては時間稼ぎのためだ。ありったけの魔力を練り、自爆するための」
(…しまった!)
紫は焦ったように目を見開く。逃げるにしても、ルドラが相当な魔力量を有しているであろうことは今までの戦いから容易に推測でき、威力は未知数。従って逃げ場所がない。魔術師でない紫に大爆発を防ぐ手段もない。
「終わりだ。」
「まっ…」
「さらば」
ルドラは最期に笑みを浮かべると、練り終わった魔力を圧縮し、大爆発を引き起こした。
その日、アンデラの町は壊滅し、山は大爆発によって吹き飛んだ。
紫は、爆発に巻き込まれて死亡した。




