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第14話 記憶

このお話はフィクションです。実在の登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

永禄9年 箕輪城 


私は、燃え盛る本丸をただ見つめていた。2万を超える敵軍にもはやなす術もなかった。それでも、私は主の最期の願いを叶えるべく、御前曲輪に向かった。


「信綱、頼みがある」


持仏堂に到着すると、既に沐浴を済ませていた我が主人、業盛様は私の目を見て静かにおっしゃった。


「はい。」


「我は自刃するから介錯を頼む。お前の腕を見込んでの頼みじゃ」


「御意」


いつか、この時がくると思っていた。覚悟もしてきた。この戦国の世において、自刃することは珍しいことでもなんでもない。それでも、私は我が主人を、主人の城を守ることができず、このような結果になってしまった。


白装束を纏った主人はご自身の刀を手に取った。


「あなたは死ぬべきではない。今からでも降伏を…」


「できぬ!我は絶対に武田に屈さぬと父上に誓った!」


主人は私の言葉に激昂した。


「申し訳ありませぬ。かようなことをも申すべきではございませんでした」


「よい。例え父上に誓はずとも我が降伏することなどありえぬ。我は箕輪ともに朽ちることが本望じゃ」


主人は23、家督を継いでまだ6年だというのに、立派なことをおっしゃった。


「春風に 梅も桜も散り果てて 名のみぞ残る 箕輪の山里」


主人は最期に和歌を詠まれた。


「いつか、争いのない、平和な時代がくるといいな。」


最期に主人はそうおっしゃると、今度こそ刀に手をかけ、自らの腹を斬った。

私はなるべく主が苦しまずに逝くことができるよう、首を跳ねることしか出来なかった。


主人の体が倒れる。この手で、自分は守るべき主人の首を跳ねたのだと理解した瞬間、私は理性を失った。

ただ、何度も絶叫した。


「業盛様、業盛様!」


「この世界は無慈悲で、残酷すぎる! 強者しか生き残ることが許されないのか! なら、私、上泉信綱は戦う。この残酷な世界を変えるために、戦う!」


私は主人を手掛けたその刀を握りしめた。本来なら、主人の後を追う予定だった。でも、それでは何も変わらない。もう守るべき主人はいなくなってしまった。それでも、私は世界を変えるために動き出す。


私は持仏堂を飛び出すと、搦手口から城を脱出しようとした。ところが、既にかなりの数の敵に回り込まれている。


「ひ、ふ、み…」


敵の数を数える。そして、物陰から飛び出すと奇襲を仕掛けた。


「何者だ!」


相手も交戦する。しかし、全てが遅く見えた。いや、世界が今までとは異なって見える。体のどこかの蓋が開いた感覚がする。五感全てが今までとは比べ物にならないほど研ぎ澄まされ、どこをどう動かせば効率よく敵を斬れるのかが手に取るように分かる。


気がついたら周りにいた敵は全滅していた。私は刀をしまうと、搦手口から箕輪城を脱出した。


箕輪城が落城してから、私は唐突に得た力を使いこなすために数人の仲間とともに諸国放浪の旅に出た。武田から臣下の誘いを受けたこともあったが、当然全て断った。


---


(私の名前は上泉…。そう、そういうことだったの。記憶の中の人は戦国時代のご先祖様ね)


唐突に舞台が変わり、見覚えのある群馬の祖父母の家で私は縁側に座ってスイカを食べていた。隣には懐かしいひいおじいちゃんの姿もある。うだるような暑さの夏の日だった。


「紫、夏休みの宿題は終わったか」


唐突にひいおじいちゃんが話しかけてきた。


「まだ終わってない。」


「あと何が残ってるんだ?」


記憶の中とはいえ、久しぶりにひいおじいちゃんに会えたようで嬉しい。


「うーん、親せきの人に、戦争体験を聞くっていう宿題なんだけど…」


私は戸惑いながら言った。小学生ながらに悲惨な戦争体験を実際見てきた人に聞くというこの手の課題に疑問を覚えていた。うちは戦地にも行ったひいおじいちゃんがいるけど、他のおうちの人もそうとは限らない。それになんだか、憲法の話も絡んできて、政治的な意図を感じてしまう。


「そうか。俺もいつまで生きていられるかわからないからな、今のうちに紫に話しておくのも悪くないかもしれん」


私は急いで紙と鉛筆を取りに行き、ひいおじいちゃんちゃんは自身の戦争体験を語り出した。


「俺が18の時、赤紙がきてビルマに召集された」


「ビルマ?」


私は聴き慣れない地名に聞き返した。


「今でいうミャンマーだ。当時は民間の飛行機なんてなかったから、日本からは船と鉄道で行った。」


私はメモを取りつつ世界地図を頭に思い浮かべた。ミャンマーは、東南アジアの国だったか。


「あれは丁度今日みたいな暑い日だったな。雨の中、俺たちは行軍した。軍では劣悪な衛生環境の中マラリアや赤痢などの伝染病も流行っていてまさに地獄だった。だが、本当の地獄は戦場に着いてからだった。」


ひいおじいちゃんは少し沈黙し、再び語り出した。


「本土に戻ったら共にエビ漁を始めようと約束した戦友がいた。今は靖国にいるが。孝利はいい奴だった。あの残酷な世界で唯一の…希望だった。だが、あの日、敵が放った砲弾にあいつは呆気なく倒れた。ついさっきまで普通に会話を交わしていたのに、生きて故郷に帰ろうと話していたのに…。だが、悲しむ間もなかった。あいつが倒れた後も当然敵からの攻撃は続くからな。その時、俺はまるで世界が変わったかのような奇妙な体験をした。自分でない誰かの記憶が頭に流れ込んで、何かの蓋が開いたような感覚がしたかと思えば底からものすごい力が湧き上がってきた」


私は思わず鉛筆を止めた。


「そこからは、まるで戦い方を知っているように体が勝手に動いた。孝利の仇を取ろうと迫り来る銃弾を軍刀で叩き切って一人で敵陣に突っ込んだ。夢中で刀を振るい、気がついたら敵は全滅していた。だが、戦況は変わらず、撤退することになりそこで終戦を迎えた」


私はただ、ひいおじいちゃんの語った内容に驚いた。彼はどこか遠くを見ていたが、おもむろに自身の白髪に手をかけ、引っ張った。


「え…?」


私は思わず驚愕した。ひいおじいちゃんの白髪はカツラで、地毛が真っ黒だったからだ。それに、カツラを外したひいおじいちゃんはとても90代とは思えないほど若かった。


「あの力を得てから不思議と歳を取らない。力の正体はわからないが、おそらく血縁に由来する能力だろう。かといって普通に歳を取って死んだ親族もいる。まあ、普通はそうだけどな。紫も何かのきっかけで力を得るかもしれないな」


「うん…」


(どうして、こんな大事なことを忘れていたんだろう。こうやって古い記憶が蘇ったのは、私も上泉家の能力?を得たから?いや、今はそんなことどうでもいい。あの女を倒して、レオンの仇をうつ!)

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