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第12話 騎士の誇り

アンドラの城壁

セオドア・ヴェインは、城壁に向かって一目散に飛んでいた。先ほど自身のかわいい部下が殺され、怒りで目の前が真っ赤になっていた。


「お前がジェイミーを殺したのか」


彼は城壁の上に立って町を見下ろしていた男を見つけ、糾弾した。


「ジェイミーというのが誰だかわからないが、先ほど確かに1人粛清したな」


フードを被った男は淡々と告げた。


「お前の、目的はなんだ? なぜこの町を襲った?」


セオドアは怒りで我を失いそうになるのをなんとか耐えながらも相手の目的を探る。


「威力偵察だ。とある高貴な方の命をうけて勇者を探しにきた」


「お前の目的が勇者だというのなら、俺はお前を通すわけにはいかない」


セオドアは静かに剣を抜いて構えると、男の前に立ちはだかった。


「そうか。であれば私はお前を倒す必要がある」


男は魔法を使おうと右手を掲げ、それが戦闘開始の合図となった。


セオドアが鋭く踏み込み、男の首元を狙って剣を振り下ろした。男は距離を取って回避し、刹那魔法で熱線を打ち込む。セオドアは剣で閃光を受け止めた。


「私の攻撃を回避するか」


男は僅かに目を見開いた。

対してセオドアはいきなり地面に剣を突き刺した。男は彼の不可解な行動に眉を寄せたが、すぐに表情を戻す。

攻撃を再開しようとした瞬間、不意に足元が揺らいだ。不思議に思って地面を見ると、亀裂が走っている。彼は先ほどの行動の意味を理解したが、衝撃でバランスが崩れる。

その隙をセオドアが逃すはずもなく、音速すら超えた動きで斬りつける。

男の腕が宙を舞う。彼は続けて攻撃しようとしたが、男は空間ごと転移して回避した。


少し離れた場所で男は自身のなくなった腕を見つめる。


「ほう、人間にしては上出来だな。私も本気を出すとしよう」


男は確かに斬られたはずの自身の腕を魔法で瞬時に再生させた。


「私は魔王の四天王の1人、殲滅のルドラ。」


「俺はブリジット王国騎士団副団長のセオドア・ヴェインだ」


二人は正々堂々名乗り合うと、再び戦闘を開始した。


ルドラは重力を操って宙に浮くと、無数の光線を放つ。セオドアは超人的な動きで回避しつつ反撃の機を窺う。避けきれなかった光線が頬をかすった。


「私がなぜ殲滅と呼ばれているかわかるか?」


ルドラは唐突にセオドアに語りかけた。しかし、攻撃の手は緩めない。


「さあ」


セオドアは無難に返事をしつつも一つ一つが致命傷となるであろう攻撃を回避することで精一杯だった。


「それは、魔物を操り、都市…いや、時には国すらも一晩で壊滅させることができるからだ」


「それがどうした?」


不意に全ての音が止んだ。呼吸の音すら聞こえず、まるで、世界が止まってしまったかのようだった。ルドラは目を瞑り、まるで歌を歌うように口を開く。そして、普通の人間には聞こえない、優美で少し切ない、ラフマニノフのヴォカリーズを彷彿とさせる美しい旋律を紡ぎ出した。


セオドアは急に嫌な予感がした。次の瞬間、世界に音が戻り、四方八方から先ほどまで都市部を襲っていた魔物が彼目掛けて集ってきた。


「これで終わりだ」


ルドラは静かに呟いた。セオドアは急に現れた魔物に対応するが、数の多さに対処しきれず、致命傷は避けたものの確実にダメージを蓄えている。


「さらば」


ルドラはマントを翻すと、颯爽と去っていった。彼の目的はあくまで勇者を探し出すことであり、セオドアを倒すことではない。


「待て」


セオドアは焦ったように言い、足止めに向かおうとする。しかし、大量の魔物がそれを許さず、容赦なく襲いかかってくる。すでに刃は欠け、疲労も限界に近い。倒しても倒しても魔物の数は減ってくどころか増えている。

勝機はないと悟ったセオドアは、左手で腰に巻いてあるベルトに触れ、魔導具アブバクルを起動した。


彼は最期に、騎士として死ぬことを選んだ。


---

広場


「さて、ゆきますか」


紫とレオンを見送ったオリヴィアは、覚悟を決めて呟くと、自身のスカーフを口と鼻を覆うように巻き直した。ヒュドラの脅威はなんといっても毒性だ。少しでも毒を含んだ空気を吸ってしまうと、たちまち死に至る。解毒する方法もない。


「エド、私が首を斬るから魔法で援護して」


「わかった」


オリヴィアはエドワードに指示を出すと、早速ヒュドラの9つある首を狙って斬りかかった。一切無駄のない動きで一つ、二つと確実に仕留める。そこに間髪入れずにエドワードが魔法で炎を打ち込み、切断部を焼き払うという見事な連携を披露した。広場から避難していた町の人たちも息を呑んで見つめている。


「3…4…!?」


4つめの首を落とした後、不意にヒュドラの中央の首が動き、オリヴィアに襲いかかった。彼女は身を捩って回避したが、ぎりぎり回避しきれずに足を齧られた。


「っ…!」

「オリヴィア!」


エドワードは焦ったように叫び、魔法で加圧した水を放って首を切断し、オリヴィアを救った。


「ありがとう、エド。助かったわ」


オリヴィアの足からは血が流れていたが、本人は今まで培ってきた精神力で何事もなかったように振る舞った。


「あまり時間がない。早く倒さないと」


先ほど切断されたヒュドラの中央の首は既に再生されていた。他の首も徐々に回復されている。ヒュドラは怒ったように首を振り、オリヴィアたちがいる方向に向けて猛毒ブレスを放った。

彼らは横に跳んで回避する。


「オリヴィア、まだ動ける?」


エドワードはオリヴィアの患部を見て言った。


「ごめんなさい、実はもう立ってるだけで精一杯なの。」


そう返事をしたオリヴィアの顔色は確かに悪い。傷口も魔法で癒しているが、治るどころか悪化している。


「わかった。今度は僕が斬るから魔法で援護をお願い」


「了解」


作戦会議を終え、エドワードは剣を抜くとヒュドラの残りの首を斬り落としにかかった。オリヴィアが魔法で的確に炎を放ち、再生を防ぐ。ヒュドラは硬直したままだ。


「7…8…9…やった…!」


ついに全ての首を斬り落としたエドワードが喜びを露わにしつつ華麗に着地する。


「後ろ!」


オリヴィアが叫ぶ。


「え…?」


エドワードは慌てて振り返るが、もうすでに遅かった。そこには、先ほど倒したヒュドラの残骸と、無傷のヒュドラがいた。そう、ヒュドラはあの短期間で脱皮し、倒したのは皮の方だった。

脱皮し終わったヒュドラの首が油断していたエドワードを襲い、彼の首を食いちぎった。

遅れて彼の胴体が倒れる。


「エド!」


オリヴィアが悲鳴を上げる。先ほどヒュドラに噛まれたところから既に全身に毒が回っていて、もはや一歩も動けない。しかし、そんなことはお構いなしにヒュドラは襲いかかってくる。

オリヴィアは魔法で風を纏い、動かない体を無理やり巻き上げて攻撃を回避した。


「お父様、お母様、勝手に家を出て行ってごめんなさい。思えば騎士になってからは1度も帰ってなかったわね。こんなことになるのなら、1度くらい顔を見せておけばよかったわ。でも、私は自分の選択を後悔していない。あなたたちの娘は、王国の騎士として、最期まで戦ったことを誇りに思ってほしい」


自身の敗北を悟ったオリヴィアは最期に言い残すと、ありったけの魔力を圧縮し、ヒュドラを巻き込んで大爆発を起こした。


このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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