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AI  作者: もふもふ
9/12

DCO


 「ぐ、ぬぅ」

 

 藪田が目を覚ます。動力を感じる。

 

 「乗り物の中か?」

 

 思い通りに動く身体、リペアは済んでいるらしい。

 

 「ようやく目ぇ覚ましたみてぇだな藪田ぁ」

 

 コージーの声だ。天井からか? 辺りを見渡すと監視カメラがいくつかあからさまに設置されている。

 

 「部屋を出て右、突き当たりの壁を左、その奥まで来れるかぃ。そこに俺達のリーダーがいる」

 

 のっそりと起き上がる。身体は動くが、外見はそのままだ。みすぼらしい老人がようやく身体を起こした。

 

 藪田は立って気がついた。動力と勘違いしたものは浮力だったことに。

 

 「空か!?」

 

 ルート通りに廊下を進むと、銀の扉が見えてくる。

 

 プシュウゥゥ

 

 自動扉らしい。

 

 「ようこそ! 空の要塞へ。コージーから毎晩話は聞いていますよ。藪田博士」

 

 赤いマントを羽織った出で立ちに、横顔ながら、青髪から整った顔立ちが見てとれる。その女性はどうやら藪田を歓迎しているらしい。

 

 「純粋なアンドロイドか? 」

 

 その女性からは、AI人間への改造で残る、人の生体反応が感じられない。

 

 「だったら何か問題でもあるの? 私は、DCOリーダーのマオよ。藪田博士には、プロトコード101と言ったら通じるかしら?」

 

 藪田は目を見開き、驚きを露わにした。

 

 「プロトコードじゃと! ケンプファー、ルーニン博士が、futureで続けていたAI研究で産み出された試作アンドロイドのコードか? しかしコード100が完成してまもなく、両名は死んだはずだ! 」

 

 「そう。プロトコード101は地下に隠された。ハワイ諸島の地下に。来るべき日に人類を救う希望としてね」

 

 藪田に顔を向ける。やはり美形だ。それよりも藪田は、衝撃の事実にただ驚くしかない。

 

 「そして今あなたが乗っている乗り物は、空間情報を読み込んだAIによってあらゆる空間に溶け込むことが可能になったステルス航空機よ。世界中に何機も飛び回ってる」

 

 「ここまで迅速に人間を地下へ送り込めた理由はそれか……」

 

 気にはなっていた。地上から人を運ぶにしては、避難が早すぎる。

 

 地下か? 海か? 思ったよりもヌケビトが働き者なのか? 藪田がまったく予想していなかった要素だ。

 

 「藪田博士。天国で吉田博士は泣いてるんじゃないかしら」

 

 マオは今一度藪田に問いかける。どれだけの自問自答を重ねようと、取り返しのつかないことをした事実が消えるわけではない。

 

 藪田はその果てにどんな結論を出したのか。

 

 「そうだな、私は誤った。そして、原点に立ちかえったのだ。全く異なる感情生物同士の存在という例のない経験、共存の道こそ求めるべき未来だ」

 

 マオはクスリと笑う。

 

 「ふふ、科学者らしい結論ね、でも、人とAI両方の思考を持ったあなたとして、ではなく。藪田剛一郎としてどうしたいのかしら?」

 

 本当の原点を、マオは聞き出そうとしている。

 

 「私は……豊かでありたい」

 

 突拍子もない言葉を藪田は口にする。

 

 「豊か?」

 

 「ああ。フューチャー・マテリアル技術部部長としての私は、愚かだったのだ。よりよい便利を人に。浸透、普及こそ共存の近道だと思っていた」

 

 藪田は思い返す。その活動そのものこそが、自分の思う理想に近づくことに繋がると信じて疑わなかった日々を。

 

 「だが、見落としていた。人とAIの繋がりとは、何人かの理想によって創られるものではない。双方の自発的な尊重あってこそ、初めて成り立つものだ」

 

 マオは明らかにイラついている。

 

 「まわりくどいわね、科学者って。結局なんなのかさっぱりだわ」

 

 藪田も苦い顔をする。

 

 「そりゃあ、悪かったな」

 

 「気持ち、なのよ。最後は。思いやり、気遣い、共感、尊敬、人と人同士がずっと積み重ねてきたものと同じように、必要なのは心を通わせること」

 

 腐っても科学者なのか、理屈から論じてしまう。しかし藪田もマオのいう結論と同じことを思っている。

 

 「そうだな。一人間として、一AI人間として、私は豊かでありたいのだ」

 

 元の性格は変わらないらしい。藪田はゆったりやれやれといった表情だ。

 

 「ふふ、じゃあ、今日からよろしく頼むわ。まずは、その外見どうにかしてちょうだい。人は見た目から、よ?」

 

 「はっはっは、私も、自分の姿にはがっかりなのだよ」

 

 藪田はDCOに加わった。多様性の共存を進める組織、リーダーはAIアンドロイドマオ。日本支部リーダーは、コージー。

 

 空からその情勢を見守っている。

 

 DCOは、世界中に散らばるリョウやマリのようなヌケビトと連携を取りつつ、地上にスパイを放ち、行動のタイミングを計っている。

 

 

 「里見、時間切れだよ」

 

 フューチャー・マテリアルの技術部オフィス、鮫島がわざわざ赴くことはほんとんどない場所だ。そこに鮫島の姿がある。

 

 「しゃ、社長……」

 

 「もういい。お前も、前のこの部署にいたろくでなしのようにここを去れ。ニュー・エラ計画は、私自身で進めることにした」

 

 里見はがっくりとうなだれた。

 

 「行け」

 

 低く鋭い声が、突き刺さり、里見は逃げるように、部屋をでていく。

 

 「ろくでなしは、新時代に必要ない。少々強引だが、やるしかあるまい」

 

 この時、ようやく鮫島は都心部からAI人間が減っていること、その出入り口がどうやらスラム街であることを突き止めていた。

 

 どういうわけか、やがて頭数を覆されそうな勢いだ。しかし、敵の正体がわからない。

 

 里見を泳がせて様子を探るというのが、鮫島の目論見だ。

 

 里見は、衝動的に会社を出たあとふらふらと徘徊する。人間無き街、金もない、酒も無い、セックスも無い、役割を失ったAI人間ほど惨めなものはない。

 

 荒廃した都心部をさ迷い歩き、辿り着いたのはやはりスラム街だった。

 

 「私はもう終わった。そんな存在が許されるのはスラムという環境」

 

 糸の切れたタコが、浮遊から覚め、辿り着いた着地点。飛ぶことができないタコは、その場所を受け入れ、染まっていく。

 

 藪田とは違い、里見はスラム街に同化した。誰も、その存在に気づかない。

 

 DCOという組織があるらしいということも、もはや里見は竹輪耳のように、自らの頭から垂れ流した。

 

 「DCOか。恐らく我々の敵はこの組織で間違いないな」

 

 鮫島にはそれで十分だった。去り際に里見に仕込んだ盗聴器から聞こえてくる話が、情報を提供する。

 

 「今に見ておれよ」

 

 鮫島の顔は不気味な形相をしている。

 

 一方、富士の樹海地下では雄二達を中心とした人間達が、地上へ出る機会を待っていた。

 

 「雄二さん、あっという間に人々がまとまりましたね」

 

 勇人もすっかり、早く地上へ出たいという希望に満ち溢れている。フューチャー・クリエイトの賛同者は地下の人間の大多数となっている。

 

 あとは、DCOと連携しどうやって、ニュー・エラ派と接触するか。一歩間違えば世界的な大戦争になりかねない。それでは、元も子もない。

 

 「リョウ、何か変わったことはないか?」

 

 雄二が尋ねる。資料館の2階にDCOとの通信室が設けられている。雄二は、人々への説得を重ねた結果、見違えるほど自信をもった青年となっている。

  

 「ああ、今のところは。どうやら都心部でも大きな動きはない。藪田博士は会社を去り、再建計画は挫折しているみたいだ」

 

 「そうか」

 

 同じ釜の飯を食った藪田の創造能力の高さは、雄二も知っている。

 

 「それから、藪田博士が空のDCOに加わったそうだ」

 

 「……」

 

 雄二は目を閉じた。藪田は言うまでもなく人間を追い詰めた存在。スパイなのかもしれない。

 

 それでも、憎しみが憎しみを産み出していてはまた、同じ事を繰り返すことになる。グッと拳を握る。

 

 「そうか。様子はどうなんだ?」

 

 雄二は淡々と質問する。

 

 「ひどい目にあったみたいだな。全身に大怪我、見た目はまるでホームレスのような状態で保護されたらしい」

 

 ホームレス? いずれまた、地上に出れば会える。今は同じ立場になったんだ。共に戦うしかない。雄二は色々な思いを胸の奥にしまいこんだ。


 「わかった。何かあったら知らせてくれ。未来の為に、皆うずうずしてるんだ!」

 

 3人は資料館を後にした。

 

 「雄二くん、勇ましくなりすぎなんじゃない?」

 

 マリが去り際の背中を見て、リョウに話しかける。

 

 「今や1000万人以上の人々の気持ちをまとめたカリスマだよ。あれくらいでちょうどいいさ」

 

 リョウが一瞬だけ緩い微笑みを浮かべ、また通信室のおびただしい量の機械と向き合い始めたその時だった。

 

 「鮫島に動きあり! 突然姿を消したわ! 」

 

 突然の通信が資料館の2階に響き渡る。

 

 

 

 

 

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