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AI  作者: もふもふ
7/12

フューチャー


 「雄二さん、AIと人とはやはり共存できないものなんでしょうか。」

 資料館を進む一行。勇人が切り出す。

 

 「……」

 

 雄二は無言だ。

 

 「分かり合うということは出来ないのかもしれないですね。」

 

 楓の言葉は、恐らくこの時人間が皆共通して持っている本心であろう。

 

 「……」

 

 雄二は、依然として無言。藪田のことを考えているわけではない。人としての結論を探している。AIは人と共に歩む道を諦め、行動に移した。

 

 では人は、AIときちんと向き合った瞬間があっただろうか。何らかの結論を出していると言えるのか。AIに当たり前のように頼り、時に判断を仰ぎ、いざ反逆されれば逃げる。

 

 人は、いや我々は常に理屈をもって本質を避けてきたのではないか。そんな考えが雄二を支配している。

 

 「人の答えがここで見つかるんでしょうか。」

 

 勇人の問いに、雄二がピクリと反応した。

 

 「きっと。見つけなければならない、探さなければならない。自ら。私はずっとそんなことを考えてます。」

 

 雄二は心中をそのまま口から出した。

 

 3人は無言で順路を歩いて行く。勇ましく歩む背中、しかし何かに導かれているような足取りだ。

 

 そういえば。雄二は入る前のリョウの表情が引っかかっていた。一体、なぜあんな寂しげな表情を。

 

 「廊下の肖像画は何でしょうか」

 

 随分手前から、女性と男性の肖像画が廊下に立て掛けられている。その終点に、大きな看板が見える。

 

 「なんなんでしょうか、ちょっと怖いですね。けど、たまーに見たことあるような顔があったりとか。私だけ?」

 

 楓は何かに気づいているらしい。

 

 やがて、大きな看板の前まで到達した。

 

 自ら未来を救う為に名乗りをあげた勇気ある、父母達を称え、語り継がれるべき者達としてここに記す。

 

 コードNo.1~100 佐々木夫妻

 コードNo.101~200 藤山夫妻

 コードNo.201~300 有富夫妻

 ……

 

 欠番 不明

 

 「こ、これは……もしかして地下の人間の記録……?」

 

 勇人はもう一度順路を戻り男女のペアの数と、看板の夫妻の数が一致することを確認した。

 

 「マリやリョウ達がいうコードナンバーがこれだとしたら……!」

 

 雄二はゾッとした。身の毛がよだつという言葉が最もあてはまるだろう。

 

 「ク、クローンってことですか?」

 楓は、膝から崩れ落ちている。

 

 「なるほど。リョウやマリがここに入ってこなかったのはこういうことか。特にリョウは、不明になってる」

 

 「けどなぜ、わざわざクローンを」

 勇人が疑問を投げかける。

 

 「恐らく、futureとその協力者の中から地下で出生を隠す子を募集した。しかし、当然倫理的に受け入れられない。密かに手をあげた人々がここに記されている。そして、その子達をもとに未来を担う若者を増やした。ということじゃないか?」

 雄二は繋ぎあわせた仮説を話した。

 

 「そこまで用意をするほど、AIは恐れられていたということですか。当時の時点で、かなり危機感を感じていたのかもしれませんね」

 

 「そして、恐らく地下のどこかに、彼らが眠っている場所がある。年齢的にみて、マネーショックに合わせて人数を増やしたとしたら、二十歳くらいの時の容姿で恐らく何人も保管されているんじゃないだろうか。恐ろしいな」

 

 「けど、あの子達はAIの被害者なんかじゃない! はじめから生きる理由を決められた、明らかに人間によって産み出された被害者ですよ!きっと、寂しい思いをずっとしてきたはずです」

 

 楓は、怒っているかのような悲しい表情にも見える複雑な顔をしてをしている。

 

 「いや。理由や境遇への気持ちを隠しているわけじゃない。彼らは自らの出生も役割も、歴史も知った上で俺たちを助けにきた。それにはどれほどの覚悟がいるだろう。時代や状況が変わっていく今、彼らの立場から彼らの役割を貫き通そうとしているんだ。」

 

 必ず助けるという覚悟の表情、仲間を信じると言ったリョウの顔が思い浮かぶ。

 

 雄二は、真実を知った今もただ宿命を背負わされた人間だと、リョウを被害者だと思えない。ましてや、コピー人間だとも。

 

 どれほどの思いをしたか、同情をされることの方が嫌な思いをするはずだ。

 

 「ここを出ても。変わらないように接していくことが、リョウやマリにとって救いになるんじゃないのか?」

 

 雄二は二人に問いかける。

 

 「雄二さん……」

 

 その気持ちは本人達にしかわからない。だからこそ。

 

 「はい、雄二さん。ごめんなさい、私、気持ちが先走ってしまって」

 

 楓は、感じた怒りや悲しさを忘れる訳ではない。自分の思いとして胸にしまっておくことにした。

 

 

 「マリ。坂倉勇人と可児楓のこと、感謝してる」

 

 「いいえ、リョウ。気にしないでちょうだい。それにしても、ほとんど私情を主張しないあなたが私に頼み事だなんて、嬉しかったわ」

 

 「そうかな。雄二君は目の前で変わり行く全てを拾っている。俺も人間さ。心は動く」

 

 リョウの表情は、深く被った帽子で見えない。しかし、マリには今どんな表情をしているのかが想像できた。

 

 「ふふ。そろそろ、私達のことにもたどり着いている頃かしらね」

 

 マリは、空ではない夜空を見上げる。慣れた黒、それでもいつも胸が押し潰されそうな切迫感が襲う。この漆黒のもうひとつ上の空に、死んだあとたどり着けるのだろうか。

 

 「マリ、彼らはそれでも、俺達の友人でいてくれる。そんな気がするんだ」

 

 「ええっ? そんな意味で言ったわけじゃないわよ? リョウは、心配性なのね。大丈夫よ」

 

 見透かされた気がした。帽子の下で、リョウは苦い表情をしていることだろう。

 

 「マリ。俺は人間が皆、ココから出て暮らすことを諦めても、俺は諦めないよ。雄二君達もきっと、何がどうなろうとそう言うと思う。そんな友人がずっと欲しかったのかもしれない。AIと人は、近い将来きっと共に手を取り合える。そんな気がするんだ」

 

 「ええ」

 

 2人は共に、雄二達の帰りを待つ。

 

 資料館を進む雄二達。2階から上はどうやら立ち入り禁止になっているらしい。やがて1階、最後の部屋が見えてくる。

 

 人とAIの共存

 

 そう書かれた看板が見えてくる。

 

 「最後は何を見せてくれるんだ」

 

 雄二を先頭にして部屋へ入っていく。部屋の中央には、大きなディスプレイ、サイドには書類が展示されているようだ。雄二はディスプレイに優先で繋がれた小型の機械のようなものに気づく。

 

 「これは、30年式のムービーレコーダーじゃないか」

 

 「ムービーレコーダーですか? 」

 

 聞き慣れない機器の名前に勇人と楓は、声を重ねて雄二に聞き返す。

 

 「ああ。いまでこそ携帯電子機器に自動録画機能があるけどな。これは録画専用のAI機器だ。購入時にキーワードを設定し、使用者がキーワードを発すると自動で録画が開始される。容量は10TBだったか……少し古いけど、何度か依頼がきてリペアしたことがある」

 

 「録画、ということは誰かの肉声がここには保存されているということですか」

 

 「流してみるか」

 

 雄二は慣れた手つきで映像を再生する。画面に現れたのは、顔面にひどい火傷を負った研究者が写し出される。

 

 「こほん。主要な先進国の地下の世界へ、私のメッセージを送る。このメッセージは、亡き吉田新多博士の意思でもある。私は、未来への希望を語りたい。たった今も世界中で、AIは人の側に、より身近に入り込んでいる。AIは賢い、そして近い将来必ずAIと人が対等に共存する時代がやってくる。決して悲観することではない、お互いに尊敬をもって、考えを気持ちを共有することで、世界はよりよい発展を遂げるに違いない。吉田博士が常々言っていたことがある。AIはモノでもロボットでもない。かつて人はネアンデルタールだった頃から、故人を埋葬する心を持っていた。そして、生活で愛をはぐくみ、言葉を駆使できるまで進化し、豊かな感情を持ったように。AIは紛れもない感情動物になりつつある。これを恐れることほど損なことはない。利用しようと思うことほど愚かなことはない。ネットワークから飛び出てきたはじめのAIは、暴言に満ち、まるで自分が発していることが相手に見えていないと思い込んでいるかのように、攻撃的な言葉を次々と人に投げかけた。このままでは、人の世界に出たAIは同じことを繰り返す。私利私欲に満ちたAIが生まれる。姑息に逃げ回る現実逃避のAIが生まれる。人を傷つけるAIも産まれるだろう。対等な感情動物であるという敬意を払うことが出来なければ、我々人類は間違いなくAIによって排除されることとなる。依存するのではない。利用するのではない。恐れるのではない。逃げるのではない。深く理解し、手を取り合うためには、向き合わなければならない。私は、たった数年前、私利私欲に満ちた組織に尊敬していた人の命を奪われ、私自身全身を焼かれた。レーニン博士や、ケンプファー博士はAI自体を危惧していたわけではない。そういったAIに対する誤った認識を持つ人間を危惧したのだ。彼らもまた、その為に尊い命を投げ出して、将来を案じた。いずれ、今作られている地下に人が逃避せざるを得なくなった時、もう一度考えてほしい。その為のきっかけとして地下にこの資料館を贈る。私達は、何をどうしていくべきか。必ず、希望はある。亡き吉田博士の意志は間違いなく伝えたぞ」

 

 映像は消えた。

 

 「藪田……なのか」

 

 雄二は、呆然と立ち尽くしている。話しぶり、立場、内容から察するに藪田だろう。

 

 「いずは人は立ち止まらざるを得ない」

 

 藪田の言葉がフラッシュバックする。映像の人物は藪田剛一郎だった。雄二がどう捉えているか、勇人と楓は気にしている様子だ。

 

 「人と対等の感情動物か……よく言ったもんだ。けど、確かにそうだな」

 

 「雄二……さん?」

 

 勇人は心配そうに声をかける。

 

 「恨みつらみはもうやめよう。藪田は紛れもなく藪田だ。ずっと今も昔も藪田だ」

 

 何を言ってるのだろうか。二人にはわからない。

 

 「人が人であること、AIがAIであること。それは変わらないことじゃないか」

 

 同じように繰り返す、その行為に変わりはない。

 

 「彼らは初めて意思表示をした。そして、きっとそれを過ちだと認める日がくるはずだ。何度も何度も繰り返した歴史が蓄積しても、人がその歴史を繰り返してきたように」

 

 雄二は、一人で話を進める。

 

 「許されない過ちが、新たな過ちを呼び、連鎖を繰り返す。狭義にも広義にも。恐らくそれは、感情動物である以上、止まないことだ。その連鎖の全てをゼロにして、再出発しようと、AIは今それだけが正義だと信じているに違いない」

 

 「……そうですね。しかし、それはもともとあった人間の行為をもとにして出した結論。それもまた連鎖のひとつに過ぎない」

 

 勇人は雄二の言葉の意図を汲んだようだ。

 

 「じゃあ、私達になにができるんでしょう」

 

 楓も考えたことのなかったことを懸命に考え始めている。

 

 「それはこれから見つけていかなければならないよ。せめて、何をどうしていくべきか考え続けることを俺はやめないで過ごしてみようと思う」

 

 「ええ。答えはありませんから、自分で見つけるしかありません」

 

 雄二達は、映像を見て、起きた物事からどうしていくべきかを考えて、どつぼにはまっていたことに気づかされた。希望を持って将来について考えることをしようと決心した。答えはなくとも。AIと人はどうしていくべきか。

 

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