スペクター
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「ボブ、いつものくれ……」
「あいよ!」
いつものカウンター席に座った俺の前にこの店の店主ボブが作る特製のチリビーンズホットドックとコーヒー、そしてアスピリンとミネラルウォーターが差し出された。
俺の名はジム・キャリガン。
ニューヨーク市警の刑事だ。
刑事になって二十五年。
新米の刑事の頃からこの店の顔馴染みだ。
女房とは去年離婚した。
十六になる娘の親権は女房がもった。
女房は今ボーグの編集長をしている。
仕事はキツいらしいが年収は俺の三倍はあると娘は言っていた。
この店のチリビーンズホットドックは格別に旨い。
女房と別れてから食べる回数が格段に増えた。
深夜、仕事が終わってからの酒の量もまた格段に増えた俺の二日酔いの為にアスピリンを用意してくれるボブの心遣いも嬉しい。
その旨いチリビーンズホットドックの最後の一口を食べ終えアスピリンを飲んでいたところで俺の携帯電話が着信音をならした。
「警部!大変です!ニューヨーク市警が爆弾テロにあいました!至急本部へ来てください!」
「わかった!すぐ行く!」
「どうした?」
「ニューヨーク市警が爆弾テロにあった!ごっつぁん!」
「気をつけろよ!」
俺は急いで本部へ愛車のキャデラックを飛ばした。
現場に到着すると救急車や消防車が何十台も来ていて騒然としていた。
「警部!」
馴染みのトムに案内されて半壊した本部の中へ入り、対テロリスト班の部屋へ行くと部長をはじめ皆仲間達は無事だった。
「部長!一体この有り様は何です?」
俺が部長のモーガンに尋ねるとモーガンはスチュワート・マグエルからの犯行声明の電話と共に大爆発が起きたことを話した。
スチュワート・マグエルといえば昨年セントラル中央金塊銀行を狙って俺にぶち殺されたジェームス・マグエルの兄の名だ。
「これは弟を殺された恨みからの犯行かな?」
「いや、連中はただの復讐為のだけにこんな派手な騒ぎは起こさないと思う。これは何かの伏線に違いない!目的は何だ!」
俺が始末したジェームス・マグエルは中央金塊銀行を狙っていた。
おそらく……、兄のスチュワートも……。
「部長!中央金塊銀行に異常がないかどうかすぐに確認してください!」
「わかった!」
そして、案の定中央金塊銀行からの連絡は何者かによって遮断されていた。
「緊急配備だ!中央金塊銀行に全パトカーを集結させろ!」
「行くぞ!」
各方面へ指示を出す部長を尻目に俺達は中央金塊銀行へ急行した。
到着すると俺が予想していた通り警備の警官達は皆殺されていた。
金庫につまれていた金塊もなくなっていた。
「死体がまだ温かい!」
「警部!マグエル建設というトラックが今しがたここから出て行ったそうです!」
「すぐに追うんだ!緊急配備!全パトカーでマグエル建設のトラックを追え!」
「はい!」
連絡係を残して俺達全員もすぐにトラックを追った。
セントラル通りを猛スピードで走っていくと偶然にも数台先に走っていくマグエル建設のトラックが見えてきた。
俺のキャデラックはサイレンを鳴らしながら他のパトカー達と共にトラックのすぐ後ろに追いついた。
するとトラックの後ろの扉が開きガトリング機関銃を構えた男が俺達全員に向かって銃弾をバラまき始めた。
バラまかれた銃弾は何台かのパトカーに当たりパトカーは蛇行して電柱にぶつかって炎上した。
俺は窓を開けてマグナムを機関銃を構えた男に連射した。
俺の銃弾をくらい機関銃を構えた男が倒れると俺はさらにトラックのタイヤに向けてマグナムを連射した。
トラックは大きく蛇行して中央通りの銃器店の店舗に突っ込んだ。
「さあ!出て来い!」
キャデラックから飛び降りた俺はトラックの運転席で額から血を流して気絶している男に張り手を喰らわして叩き起こした。
「お前が向かおうとしていた場所はどこだ!」
「ア、アスペック、飛行場……」
駆けつけてきた警官達に後を任せると俺達テロリスト班全員はアスペック飛行場へと向かった。
「遅い!予定の時間はとうに過ぎているぞ!予定変更だ!今回は金塊は諦めて離陸する!」
スチュワート・マグエルはあまりに時間のかかる事を懸念して離陸体勢に入るようにパイロットに指示を下した。
「了解しました!離陸体勢に入ります!」
俺達が飛行場に着いた途端に機は離陸を始めていた。
「畜生!間に合わなかったか!」
「まだだ!こいつが役に立ってくれるぜ!」
俺は先程トラックが突っ込んだ銃器店から拝借してきたロケットランチャーを取り出して機体に向かって迷う事なく発射した。
機体が滑走路を離れた瞬間を狙い定めたロケット砲が見事に的中し機は大破爆発炎上して滑走路にバラバラと落ちてきた。
こうして無事に事件は解決され、俺は翌朝また同じようにボブのチリビーンズホットドックに手を伸ばしていた。
俺はニューヨーク市警の刑事、ジム・キャリガン。
さあ!今日も悪党共をぶちかましに行くか!
「完」




