目の前に勇者が現れた! ②
♢2♢
「きゃーーーーーーーーーっ!」
バニーちゃんが割れんばかりの悲鳴を上げる。
近くにいるから耳がキーンってなる。
バレないようにちゃんと元に戻したはずなのに、バレたらしい。
「脱がせたわね。この外道共! やっぱり勇者になんてついてくるんじゃなかった! 全員死ね!」
「──そうじゃ、勇者! お前ら何をするつもりなんじゃ! 大人しく吐け!」
思い出した。目的を尋ねてたわ、儂。
すっかりバニーちゃんに夢中じゃった。
「えーーっ、魔王が責任から逃れた。俺だけじゃない! お前らだって……」
勇者の仲間の男2人は、スッと儂の後ろにつく。
人望ないなコイツ。まあ、眠る女をひん剥くくらいだからな……。
「パーティ解散よ、解散。訴えてやるから! 勇者に、いらやしいことされましたって」
「勇者くん、さいてー。お前らもそう思うよな?」
うんうんと、後ろの遊び人2人も頷く。
よし。このまま責任を全部、勇者に被せよう。
「忘れたのか。俺たちには夢があったじゃないか! まだ、始まったばかりだろ。解散なんて言うなよ!」
「……勇者。クソヤロウでも、あなたは勇者になったんだものね。クソヤロウでも」
本当になっただけじゃがな?
しかし、目的を言いそうだから黙っとこう。
「誓っただろう! 俺たちの故郷。カジノが禁止されているドヴァイにも、カジノを作ろうって! その収入で一生遊んで暮らそうって! カジノも遊び放題。金も入ってくる。みんなで楽をして暮らそうって!」
…………はっ?
「お前、そんなことのために勇者になったのか?」
「そうだ! 平和を語り、働かせようとしてくる魔王たちに嫌気がさした。俺は働くたくない! 一生遊んで暮らしたい!」
「だから、儂を倒して一山当ててカジノか」
「お前が俺たちの世界を征服したから。平和を語り働くことを迫るから、──俺たちはこうするしかなかったんだーー!」
ダメだコイツ。殺そう。世界のために。
そうしなきゃダメたわ。勇者とか嘘だ、嘘。
平和が生み出したモンスターだわ、これ。
隠居した儂は、ちゃんと優秀な部下を後任にした。
そいつは上手く世の中を動かしていった。平和な世界だったはずだ。
こんなモンスターが生まれるくらいには。
「今や世界中でカジノは規制され、健全に働けなんてなんたる外道。そんな世界は間違ってる! 自由があっていいはずだ! それを魔王を倒して手に入れるんだーー!」
そう言って勇者は木刀を振りかぶる。
うん、コイツらは装備もおかしい。
男は木刀だし女は何も持ってない。
遊び人には剣も魔法もないか……。
ならば、大人しく死ねーーーー!
急に天候が変わり雷が鳴る。
大地はひび割れ、ザコたちは威圧感に呑まれる。
「お前らに勇者を語る資格はない! 一思いに、跡形もなく消滅させてやろう!」
ぐふふふふっ、久しぶりだなぁ。この感じ。
なつい! あー、また世界ごとやっちゃいそう。また、怒られるかなー?
「──い、いやだ。こんな幼女に殺されたなんて、死んだ後も笑われる」
また急に雷も大地の揺れもピタリと止む。
「い、いま、なんと言った。もう一回。いってみ?」
辺りの生き物は逃げ出した。
「死んだ後も笑われる?」
「ちゃうちゃう。その前、その前」
「──い、いやだ?」
「そのあと……」
「幼女に殺されたなんて?」
──ブチっ!
これから起きることを察知し何もいなくなった。
「誰が幼女じゃーーーーーーーー!!」
比喩ではなく世界が割れる。
このまま半分になるのは時間の問題だ。
「儂にそう言って生きてるやつはいない。人が一番気にしていることを……」
ビリビリと圧が上がっていく。
勇者たちは、この世にこんなに恐ろしいことがあるのか。心の底からそう思った。
「お前ら、わかるか? ツルペタの苦しみが? 好きで幼女とちゃうわ! あー、もう無理。この星ごと吹き飛ばしてくれる」
「「星ごと!」」
「きっと来世では真人間に生まれろよ? なに、星ごと無くなるんだ。みんないっしょ。こわくない」
いいおっぱいだった。もったいない。
しかーし。幼女と呼ばれることだけは、許さん。
『ストーップ。先代ストップ! 何やってんだ、アンターー!』
空から声が聞こえる。
まあ、どーでもいい。さらばおっぱい。
『この天変地異をやめて! せっかく頑張ってるのに、星ごと無くなるとかやめて!』
「誰じゃコイツ? まあ、どーでもいい。さらばおっぱい」
『漏れてるから。心の声漏れてるから! それに誰って、魔王ですよ。忘れないでください!』
相変わらず細かい男だな。
引っ越してこいと言うから来てやったのに、挨拶にもこんくせに……。
なんか、魔王もムカつくわー。
『今日も大変可愛いです。世界広しといえど、先代に敵う美少女はおりますまい。褒めろ! 貴様らも褒めろ! あの言葉を使わずに先代を褒めろ!』
なんだその忖度。
儂、そんなんで誤魔化されんし。
「最初から可愛いと思ってました」
……。
「こんな可愛い美少女が魔王だなんて信じられない!」
……!
「こんな可愛い子になら、イタズラされてもいい……」
────!?
『それだ! 女、世界を救え! 貴様の乳に世界がかかっている!』
イタズラしてもいい? 本当に? 嘘つかない?
「じゃあ、ぱふぱふしてくれたら考えてもいいかなー」
『やれっ、すぐやれ。それで世界が救われる』
「い、いや。ムリ……」
「──さらば世界。次はお菓子の国にしてあげるからね」
再び世界が崩壊を始める。
強すぎる力に悲鳴を上げるように。
ゴゴゴゴっと大地が唸り、嵐がおき、太陽すら隠れる。
『そんなファンシーな世界は嫌だーー! 先代には大変お似合いですけど?!』
「そ、そうか? お菓子の国かー。儂、お菓子似合うかー」
『先代! 女が木の陰に。きっと恥ずかしかっただけです! 待ってますよ』
全然、気がつかなかった。
恥ずかしがるとか。なにそれ可愛い。
儂より可愛いかもしれん。
待たせてはあれだし、いっきまーす。
「バニーちゃんといえば、これじゃろ! あっ、ヤバいこれ……」