短編「心に届く物語」
※エッセイ風の創作です。
※小説『心に届く物語』を、短編化編集したものです。
この物語は、フィクションであり、実在する人物・団体とは関係ありません。
----- 第一話 「心に届くアドベンチャー」 -----
18禁ゲーム、美少女ゲーム、
俗称エロゲと呼ばれるゲームがある。
俺の名前は、麻榎准太郎。
そんなゲームのシナリオライターだ。
できたーーーーー!!!
たった今、そのゲームのシナリオを完成させたところだ。
共同で開発をしているネットワークサーバーに悪戯で
うんこフォルダを階層的に作成し、
消されないよう階層深く作っている所で見つかってしまった。
うんこフォルダの作成と削除の攻防で、
うんこフォルダが削除できなくなるという障害も乗り越え、
ついにシナリオ完成へとこぎつける事ができた。
こんな悪戯をする俺だが、
ゲームを作る情熱は誰にも負けないと思っている。
今、作っているこのゲームのコンセプトは、
『心に届くアドベンチャー』だ。
コンセプト自体は、
最近見たアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』というヒット作に
感銘を受けて思いついたものだ。
このアニメは、
視聴する事で心を補完するというメタフィクション構造になっていて
視聴者の心の成長を促がすというオチになっていたが、
それは完全なものではなく
アニメの途中から中途半端に作られたものだった。
しかし、俺はこれをゲームで実現するというコンセプトのもと、
このゲームを作り始めた。
シナリオは二人で共同で作成し、
ヒロインキャラごとにシナリオを分ける感じだ。
もう一人のシナリオライターの名前は、久林直太郎。
ヒロインを可愛くキャラ付けするのが上手いシナリオライターだ。
今作のシナリオは、久林のキャラが、
『えいえんの世界』に行ってしまった幼馴染を待つ女の子。
聾唖者でいつもスケッチブックを持ち歩く女の子。
盲目の女の子。
そして、俺の受け持つシナリオは、
健気な強い母性を持つメインヒロイン。
知的障害のある女の子。
勝気なツインテールのツンデレヒロイン。
この企画を通すため、本来エロ目的であるはずの購入者に
感動を売るという冒険に出るため、シナリオ書きなら
禁じ手にも近いシナリオとして障碍者を出す事になった。
ストーリーとしては、『えいえんの世界』に憧れる少年の主人公が
ヒロインとの絆を得て現実に帰ってくるという話だ。
ギミックとしては、この『えいえんの世界』というものが、
ゲーム中の世界そのものだ。
このゲームを遊んだプレイヤーはゲームでの経験を
得て現実できっと強く生きてくれる。
俺は、そう思ってゲームを構築し、シナリオを書いた。
これから、久林の作ったキャラとの矛盾点の修正など統合を行う。
俺は久林へ問題点がないか、自分のシナリオをメールで送り
久林の書いたシナリオを読む。
『えいえんの世界』へ消えた幼馴染を待つ女の子のシナリオの
消えてしまった幼馴染が気になる。
どういう設定にしてあるんだろう?
久林へメールを書く。
「消えた幼馴染の設定ってどうなっているの?」
しばらくしてメールが返ってきた。
『麻榎へ。消えた幼馴染は、俺自身だよ。
問題点は特になさそうだ。フォフォフォ v(^^)v』
絵文字の顔が気になったが、良かった。これで行けそうだ。
そして、ゲームは発売された。
ネットでの評判もなかなかいい。
『感動した。涙で前が見えない』
しかし、思わぬ感想が出てきた。
『もう、このゲームの世界から出たくない』
俺の予想に反してゲーム世界にどっぷりとつかり、
まるで正反対の効果になってしまっている。
どうしてこんな事に……。
久林からメールが来た。
『上手くいったな、麻榎! 二次元こそ、俺達の住む世界!
フォフォフォ v(^^)v』
おまえが原因かーっ!!
相方のシナリオライターとの連携を正しく取れなかった俺にも責任はある。
俺は何て事をしてしまったんだ……。
また、久林からメールが来た。
『隠しシナリオ、麻榎も自分の分身キャラを登場させていたんだな。
隠しシナリオをクリアして友情を示している人もいたぞ。
良かったな! フォフォフォ v(^^)v』
そう、俺は自分の分身をキャラを登場させていた。
全てのシナリオをクリアした後、
全てのヒロインをふって俺の分身に会いに行くと、
俺との友情シナリオになるのだ。
今回の失敗を糧に、友情を示してくれた人のために、
俺は、『心に届く物語』を作り続けるっ!!!
----- 第二話 「願いの叶う街」 -----
俺は今、次の作品に取り掛かっている。
次の作品も久林との共同で作る事になった。
久林は天才だ。
キャラの個性を出すのが上手い。
口癖に「うぐぅ」や鯛焼き好きなど人気が出る要素を自然に
組み込んでくる。
前作で人気のあるシナリオを書いた久林へ
作品のコンセプトを譲る事になった。
ストーリーは、
『願いの叶う街』という冬の雪の降る街での話で
7年ぶりに訪れた街で1つだけ願いが叶うという設定だ。
コンセプトは特になく、
幻想的なハッピーエンドになるという
とにかく人気になりそうな話を作るという事になった。
前作ではシナリオの人気で負けてしまった俺だが、
今作では負けるつもりはない。
久林の良いところをマネして、
俺もキャラの口癖や好物設定を盛り込む事にした。
今作の俺のシナリオのキャラは、
肉まん好きの女の子が7年前に捨てられた恨みで襲ってくるが、
女の子がやりたかった願いを
叶えるという話と、
和食好きの女の子と7年前に仲が良くなり
不器用すぎる生き方と
優し過ぎる性格に離れられなくなるという話だ。
俺は書いたシナリオを久林へメールで送った。
「シナリオを添付した。
久林のシナリオとの整合性の確認をお願いします」
しばらくして久林からメールが返ってきた。
『特に問題は、なさそう。フォフォフォv(^^)v』
また意味有り気な顔文字が気になるけど良しとしよう。
そして、『願いの叶う街』は発売された。
前作が好評な事もあり、今作もヒット作となった。
前作と同じくシナリオのすり合わせがイマイチで、
作中のヒロインと7年前に
4人と仲良くなっているという、
どんなエロゲキャラだよ。
っとエロゲキャラだった。
久林の作ったシナリオのメインヒロインの女の子は、
かなりの人気キャラとなった。
ヒロインとの出会いは、
俺もかなり工夫したが、久林には負ける。
鯛焼き食い逃げするヒロインと出会ったシナリオにした
作品は、久林が最初だろう。
この作品は、業界にかなりの影響を与え、
感動系シナリオが流行となった。
噂によると世界的に鯛焼きが流行するほどだとか。
本当かよ。
----- 第三話 「本当の幸せ」 -----
前作がヒットしたにもかかわらず、
久林は会社を辞めてしまった。
俺は空を眺めていた。
この空の下には、
願いをかなえたくて頑張っている人間が大勢いる。
叶えられなくて集積した願いはどこへ行くのだろう。
大勢の願いが集まっていつまでも空に留まっているのだろうか。
久林が辞めた事もあって、
本当は俺が身を退いて別ブランドを立てるつもりだったが、
仕方なくそのまま現ブランドで
シナリオライターを続ける事になった。
シナリオライターには新たに、
発売されたシナリオに共感して入社してくれた小説家と
別ブランドから応援に呼ばれたシナリオライターなど
4人ほどで行う事になった。
今作のコンセプトは、また俺がやる事になった。
今作のコンセプトは、「本当の幸せ」だ。
『心に届く物語』を究極まで極めたいと思っている。
極端な話をすると、
仏教で言うところの悟りの領域まで
この物語を遊んだ人を高めたい。
シナリオライターで集まりどのようなストーリーにするかを
話し合った。
「仏教で言うところの悟りの領域まで
この物語を遊んだ人を高めたいんだけど、
どんなストーリーにしたら良いと思う?」
俺は、どのくらいのものを作りたいかをぶっちゃけた。
悟りまで行くのに簡単に数年でいっては、
説得力に欠けるから長くしてはどうだろうという事になり、
今年がちょうど西暦2000年という事もあって
1000年という時間を経て完成させられる物語に
しようという事になった。
それでもただの人間では説得力が足りないかもという事で
世界各地に存在する伝説の巨人を神に近い存在として取り入れては
どうだろうという事になったが、
これはキャラクターデザインを行うデザイナーから
絵になりにくいから嫌だと言われた。
それなら、空、空を飛ぶ翼の生えた人間で翼人はどうだろう。
キャラクターデザイナーに問い合わせて、
了承の返事をもらった。
翼人を神に近い存在として物語に取り入れる事になった。
また、人により幸せが違うという意見も
ゲームの仕様を利用していくつかの種類のエンドを
選べる事で納得してもらうという事になった。
シナリオの設定は、
プレイヤーに知らせる表向きの情報と
知らせず比喩表現にする裏の情報で設定した。
話し合った結果、
やはり全ての人を悟りの領域まで高めるのは
不可能だろうという事で、
そういう感覚を感じ取れる人だけが
感じ取れるような作りにしようという事になった。
大まかな設定は、こうだ。
翼人は、星の記憶を引き継ぐもの。
過去に滅びた恐竜。
現在形で滅びた翼人。
未来で滅びるだろう人間。
星の記憶のバトンタッチの話。
星の記憶を継ぐものは、森羅万象の知識を得る。
また、星の記憶は全ての生物の記憶で
全ての魂は前向きに良い方向へ向かうべきなのだと。
◇
The 1000th summer
1000年目の夏をイメージしたオープニングも作成した。
作詞は俺だ。
オープニングに入れない部分の歌詞には
この作品で不完全燃焼となった俺の皮肉がわずかに入ってしまった。
『本当の幸せ』をコンセプトにしたこの作品は発売された。
前作のヒットもあり、
最初からかなりの数が売れ大ヒットとなった。
感想は、
感動したという人や泣けたという人が多く、
俺が本当にやりたかった事まで受け取れた人は
わずかのようだった。
話し合って保険をかけ、万人受けになるよう作った事は、
結果的にみて成功だったといえる。
まだ、俺には実力が足りていないという事か。
わかり辛いという意見も多かったが、
この作品は後にアニメ化され大ヒットとなった。
----- 第四話 「☆☆☆☆☆(幸せの欠片集め)」 -----
新作は、一つの家族に焦点を合わせその家族の主人公の人生を描き、
街自体が大きな家族で、街を擬人化し多くの人の幸せを集める事で
奇跡が起こる。タイトルもそれにちなんだものにした。
新作のコンセプトを決める会議で俺は、
プレゼンをする。
新作のコンセプトはずばり、「☆」だ!!!
『えーと、ヒトデ?』
ズコー、俺はずっこけた。
俺は、もう正攻法で『心に届く物語』を書く限界を感じていた。
だから、超常現象や魔術に頼る事にした。
ドラゴンボールの玉集めのように集めると願いが叶う。
ドラゴンボールの悟空の元気玉のようにみんなの元気を
少しずつわけてもらって大きなエネルギー玉を作るようにして
集めるのは、人の思い、優しさの欠片だ。
言わば願掛けにも近い。
ストーリーのギミックにも、
☆(人の思い、優しさの欠片)を
集めるギミックを盛り込む。
☆を集めて集めて集めて、
何か奇跡が起こる事を期待するのだ。
人の思い、優しさの欠片が集まると、
この場所の神様か何かが
きっと願いを叶えてくれる。
コンセプト会議の結果は思わしくなく、
社内の空気も悪くなり
小説家だったシナリオライターはスランプになり、
別ブランドからきた応援のシナリオライターは、
雑誌インタビューでブランドのアンチを掲げ、
ゲーム制作するという状況になった。
この新作は何度も中止になるかと
思われる事態になりながらも
なんとか4年たって完成させる事ができた。
思えば無茶な企画だった。
フィクションである物語の上なら奇跡を起こすのも簡単だ。
俺はそれをさらにメタ化して、
現実世界へと実体化させようと、
ただ奇跡が起こる事を願ったゲームを作ろうとしている。
言わば願掛け、もう神頼みなのだ。
あまりのめちゃくちゃさに俺は恥ずかしくもあり、
この願掛けの説明を、
物語クリア後の☆(ヒトデ)好きの
女の子に代弁させる事にした。
彼女のクリア後のムチャクチャさは、
彼女にあるのではなく
実は生みの親である俺自身にあったのだ。
元からムチャクチャなキャラ付けだったので、
誰も本当の事だとは思うまい。
きっとプレイヤーも大笑いして
ギャグだと思ってくれている事だろう。
俺はさらにこの新作の現実世界への実体化のダメ押しに
ある事を思いついた。
☆集めをコンセプトにした新作は発売された。
なかなか評判がいい。
俺の最後のギミックが炸裂した。
この新作はクリアすると
インターネットで評価サイトと繋がり
この作品の評価をする事になる。
そこでの評価は、
☆をいくつか並べ多いほど評価が良く
5段階で評価される。
そして、ほとんどが☆☆☆☆☆だった。
『感動した』『泣けた』など
そのサイトの評価は、☆で埋め尽くされた。
やったやったぞ!!!
俺の☆集めは大成功だった。
後は、この結果が現実世界へと
影響してくれる事を願うばかりだ。
この☆集めをコンセプトにした作品は、
アニメ化され泣ける感動するアニメに
名を連ねる名作となり大ヒット作となった。
----- 第五話 「理想のヒロイン」 -----
前作の「☆集め」をコンセプトにした作品が大ヒットした事もあり
自分の好きな作品を作って良い事になった。
俺はファンサービスも兼ねて、
『☆集め』の作品で人気だったキャラの
アナザーストーリーを作る事にした。
このキャラは、
自分にとっての理想をヒロインにしたようなキャラで
このキャラとの恋愛を上手くできるかどうか不安だったが、
かねがね好評だった。
昔からやってみたかったRPGをミニゲームにして入れたり
色々好き勝手に作る事にした。
RPGは、ダンジョンもので
装備を選んで配置し、後は自動戦闘で勝敗が決まる。
ドロップするアイテムの名前をギャグにするなど
気楽に遊べる作りだ。
変わってシナリオは前半はギャグやほのぼの恋愛などで
家族感や日常の楽しさなどを書き、
中盤では、感動にもっていく。
しかし、中盤以降には、
ヒロインにとてつもない悲劇や試練が待っている。
だが、理想のヒロインはそんな苦難や悲劇に
見まわれようとも真っ直ぐ正しく強く生きる。
それこそが俺の理想のヒロイン像だ。
作品が発売された。
RPGの評判がなかなか良い。
シナリオの前半の評判もなかなか良い。
ギャグの評判もなかなか。
エロの評判もやり過ぎなくらい良いと評判だった。
しかし、シナリオの後半の評判は恐ろしく悪かった。
『なぜ、主人公が酷い目にあわなければいけない!?』
『ヒロインがかわいそう』
などなど酷い評判だらけだった。
俺は落ち込んだ。
ファンが望んでいたシナリオではなかったのだ。
いつもどおり感動させるシナリオを盛り込んだつもりだった。
でもファンの目にはそうではなかったらしい。
俺のメンタルは、それほど強くはなかった。
酷い評価に俺は、その後かなり落ち込み自信をなくした。
----- 第六話 「セルフグラフィティ」 -----
俺には、もう新しいシナリオを生み出す引出し、
アイデアが枯渇していた。
だが、こんな逆境でも、めげるわけにはいかない。
俺には、一つアイデアがあった。
それは、ずばり『セルフパロディ』だ。
これに手を出すのは、
はっきりいってネタにつまった創作者が最後に
行き着くパターン化の手口だ。
新人ライターが、この作品に参加する事になった。
俺の今までの作品に感銘を受けて入社してくれた、
『心に届く物語』に影響され憧れて自分も同じような作品を
作りたいと言ってくれたシナリオライターだ。
新作のコンセプトを一緒に作る事になった
新人シナリオライターと相談した。
新人の意見は、
『青春グラフィティ』を作りたいという事だった。
俺は、ネタにつまったので『セルフパロディ』
を作ろうと思っていたと話した。
他のシナリオライターと会議を開き、
色々話し合った結果、
セルフパロディと青春グラフィティをプラスして
『セルフグラフィティ』を作る事になった。
ストーリーは、
今まで俺がやってきたゲームデザインを
新作のゲームに落とし込む。
俺は主人公を助ける兄貴分の役だ。
俺はゲームの中でプレイヤーに苦楽を与え
成長を促がす事を目的にゲームを作ってきた。
今回は、セルフパロディでもあるので、
俺自身が登場し、
主人公に苦楽を与え成長してもらう。
言わば、今まで作ってきたゲームデザイン、
構造のネタばらし的なゲームと言える。
何人かのシナリオライターを加え、
もう一つのコンセプトである、
『青春グラフィティ』をシナリオとして盛り込む。
シナリオはほとんど完成し、
俺はラストをどう作るか迷っていた。
俺の案では、
最後に残ったヒロインと主人公の二人で
強く生きていく話だった。
新人にこれでどうだろうか聞いてみる。
新人にダメだしをもらった。
最後はハッピーエンドにするものだと。
俺は、当初の案からシナリオを分岐し、
ラストから更に主人公に頑張ってもらい
ハッピーエンドにする話を新人ライターと一緒に考え追加修正した。
新作は発売された。
シナリオの各キャラクターの話の評価は、
まちまちだった。
ギャグはそれなりに受けている。
メインシナリオの方は友情やギャグもなかなか評判が良い。
最後は、ハッピーエンドにして間違いなかったようだ。
この作品は、後にアニメ化され、評判はまあまあだった。
俺は、やりきったのだろうか?
もうシナリオを書くアイデアは尽きている。
そんな俺にオリジナルアニメの脚本をやらないかという話がきた。
----- 第七話 「成仏」 -----
アニメを作らないかとプロデューサーに
さんざん説得、泣き落としにあい
オリジナルアニメを作る事になった。
テーマは、
プロデューサーからいつものように泣かせる
感動する話を作ってという依頼だった。
アイデア枯渇になっていた俺は、
なぜかさらに自分に制約をかける事に
挑戦したいと思っていた。
批判的な意見として、
誰かの死によって読み手を泣かせるという手法を
使っていると。
俺は、この批判に対して、
誰かの死によって読み手を泣かせるという手法を
使わない事にした。
そこから導き出された新作の舞台は、
死後の世界という事になった。
死後の世界に行って、仲間達とのやりとりで、
前向きに生きる事を選び成仏していく話だ。
俺は、アニメ脚本家として
テレビでインタビューを受ける事になった。
カメラの前では緊張して顔がひきつり、
身体もガクガクとしていた。
アニメを作る事になった経緯や
プロデューサーとのやりとり、
創作に対する熱意などをアピールした。
「誰かの人生に影響を与えられる作品にしたい」
「ただの娯楽作品ではなく、心に響く作品にしたい」
監督やプロデューサー達と
作品の世界観について会議を行った。
死後の世界という事は決まっていた。
魂には時間の概念が無いというのが一般的だが、
それだと原始人や江戸時代の人まで大量に登場してしまうので、
作劇上、現代の魂が大量に集まって
共同幻想が生み出す世界という事になった。
もう一つ監督からの提案で、
死後の世界に憧れる視聴者が出ないよう
細心の注意を払って、
自殺者はこの作品の世界には行けないという
設定となった。
なんと、
このアニメの音楽プロデュースや、作詞作曲もやりたいなら
やっても良いという事だったので、
この機会に長年の夢だった
音楽プロデュースもやらせてもらう事になった。
このアニメに出てくる歌の歌手である子悪魔的な女の子は、
アニメ放映後に売れっ子のアニソンシンガーとなった。
レコーディング当時は、
プロデュースした女の子達にとって自分の作品の歌が
一番ヒットした歌になってしまう可能性を憂慮していたが、
杞憂に終わった。
長い間シナリオを書けずにいたが、
自分の好きなバトルをとっかかりに突破口が開け、
シナリオが書けるようになった。
ストーリーは、こうだ。
死後の世界で、神がいると仮定し、
神に逆らう事で死後の世界で
いつまでも暮らし続ける男女。
そこにイレギュラーな主人公が現れ魂を成仏させていく。
アニメ放送が始まった。
評判はあまり良くない。
俺が面白いと思っていたバトルはあまり受けていない。
ギャグの受けもイマイチだ。
作画の評価は、まあまあ良い。
制作会社も頑張ってくれている。
オープニング、エンディングの歌の評価はなかなか良い。
アニメの放映が進むにしたがって作品の評価は、別れていった。
作中の挿入歌を歌う重要人物のキャラが早い話数で
成仏する展開は、賛否両論を巻き起こした。
某掲示板で、1クール作品のアンチスレッドが歴代最速で
伸びるほどだった。
逆に、作詞作曲した歌の方は評価もよく、CDもヒットした。
ギャグ回である野球回や授業でのテストの回のギャグは評判が良く
少し人気を持ち直した。
最終回をどうするか悩んでいた。
俺は、全ての魂の救済を願っていた。
だから、魂がゾンビ状態で死後の世界で次の生に向かわない事にいらだつ。
主人公が残ってこれから死後の世界にくる魂を成仏し続ける
というシナリオにしようかと監督に相談したところ反対されてしまった。
このアニメのコンセプトである、
『生きる事は素晴らしいんだと言い続ける』を見失う所だった。
監督に諭される。
「君が間違ってどうする。
この作品は、生きている人が成仏できるよう怨念に
ならないための人生賛歌です。
君はストーリーで、生きる事は素晴らしいんだって証明するんです」
ラストは、監督に諭され、当初の案に少しの修正で行なわれた。
アニメの評価は、インターネット掲示板などでは、
シナリオライターの心のぶれが表れたのが視聴者にも伝わってしまったのか、
良いという評価は少なく、悪評が多いように見受けられた。
しかし、アニメのブルーレイディスクやCDの売り上げは良く
一定のファンを得られたようだった。
----- 第八話 「帰ってくること」 -----
『成仏』をコンセプトにしたアニメの悪評を大量に読んで、
次の作品にいかそうと思っていた俺は、気分が滅入ってきた。
このアニメでフォローできなかったキャラをゲーム化して販売したり
できる限りのフォローをしてきたつもりだ。
4年経って、
同じアニメ制作会社の社長から
また一緒にアニメを作らないかと話がきた。
俺はぜひやりたいと悪い評価だった人を見返したいと
再度アニメを作る事になった。
次のアニメを作るため、関係者とブレインストーミングを行った。
視聴対象者を幅広くとりたいため、
主人公を我欲の強い怠惰な色欲の強い
見栄っ張りなキャラから始め、だんだんと成長し、
ありえないほど強くなる事で思春期の全能感を満たす
キャラ付けのシナリオを書く事になった。
これらの要件を満たすため、
過去の様々なアニメやドラマ、映画などを視聴する事を求められた。
創作のアイデアが尽きていた俺は、
過去の創作物の資産から
新たなアイデアを強奪しなければならない。
俺は覚悟を決め、
過去の創作物の資産から全てのアイデアを
奪い新しいものを生み出す覚悟を決めた。
◇
「我思う故に我あり」は、昔の哲学者の言葉だ。
「我思う、他人あり。なぜ他人は自分じゃないのだろう」は、
主人公の冒頭の言葉だ。
大学の心理学卒業だからと言う訳じゃないが、
人と人は深層心理、無意識の内に繋がっている
という事を俺は、信じている。
それは、今まで俺が作ってきたシナリオにも、
そう感じられる部分があるはずだ。
前作は、キャラが多過ぎて、
キャラの多くを掘り下げる事ができなかったため今作は、
キャラの数を絞る事にした。
シナリオの整合性については、仲が良く信頼のおける
キャラクターデザイナーに相談し、綿密なチェックを行った。
アニメは完成し、テレビで放映された。
ストーリーは、自身の心情とシンクロしたような
設定と能力になってしまっていた。
超能力をもつ少年が自分のために悪さをしつつ能力を使うが
他の能力をもつ仲間達と出会い、友情や恋愛、優しさを深めて
ムチャクチャな試練を乗り越え、能力を使い世界平和を
もたらし、ハッピーエンドだ。
どこかで見たようなストーリー。
世界平和も、自分の周りの都合だけを考えた独善的な
ハッピーエンドになってしまっていた。
序盤の評価は、まあまあだった。
中盤は、いつもの俺のシナリオだという評価が多かった。
後半は、『期待と違う』『感動させてほしかった』
などなど、あまり良い評判は得られなかった。
以降、アニメの仕事はやっていない。
◇
俺は、自分がプロデュース、作詞作曲したアルバムを
出そうとしていた。
体調が悪く、なかなか作業がすすまない。
完成目前で倒れ、入院する事になった。
病名は、特発性拡張型心筋症。
心臓移植しなければ助からないと言われた。
だけど俺は助かった。
詳しい事はわからないが、大まかにはこうだ。
弱った心臓を取り出し、
人工心臓を付け、自分の心臓は薬などで
休ませ回復をはかり、再度自分の心臓を移植する。
医者からは、助かったのは奇跡だと言われた。
何かよくわからない力に生かされていると、
普通はオカルトなど信じないという医者から、
助かったのは奇跡だからと。
復帰後、
俺は、第一種身体障害者心臓機能障害一級となった。
内容は、
心臓の機能の障害により日常生活活動が極度に制限されるもの。
完成目前のアルバムは無事完成し、発売する事ができた。
アルバムには、おまけで闘病記やアルバム制作の話もつけた。
アニメ放映から4年ほどたった頃、
冬季オリンピックの銀メダルを取った少年が
このアニメを好きだと言っていた。
俺の努力は、報われていた。
数は少ないかもしれないが、
俺のアニメを好きだと言ってくれている人がいる。
そんな、俺が、まだやりたい事がある。
それは、自分で作詞作曲し、『心に響く歌』を届ける事だ。
近々、CDを発売し、
シンガーデビューを果たすっ!!!
完




