■RINK_005_彼女の闇■
◆AM09:13◆
授業中の学校の廊下には誰もいない。
聞こえるのは教室からわずかに聞こえる各教科の先生の声・・・。
——タ・・・タ・・・タ・・・——
そして僕の前方5M前を歩く、アオイさんの上履きの足音。
僕は自分の足音を消すように後をつける・・・。
——ピタっ——
「!」
階段の前で立ち止まるアオイは、
右、左と辺りを見渡す。
僕は廊下の壁に背を向け、その様子を伺う・・・。
——「何をしてるんだろう?」——
体調が崩して保健室に行くのか?と僕は思っていたがどうやら違うらしい。
あの時トイレの前で見た、アオイさんの表情——————
ジンギの頭の中には、アオイの冷たい目と、
表情が頭にこびりついて離れない・・・。
死んだ魚の目、指名手配犯の目。
1度見たものを瞬時に記憶するジンギにとって・・・
あの一瞬で目に飛び込んだアオイの表情は、
鮮明に脳内ディスプレイに描写された。
その鮮明に描写されたアオイの表情を
何度も再生したジンギはある事に気づく。
いや・・・違う・・・。
何かを悟った・・・
—————決意の目だ—————
———タ・・・———
再び歩き出すアオイの歩みは、上に登る階段へと進んだ。
ジンギは戸惑いを浮かべた表情で後をつける。
「上に登った・・・授業中なのに なんで上に?」
ジンギは階段を登るアオイの後をつける。
そっと壁に沿うようにゆっくりと。
「エレベーターも使わずに・・・上に・・・?」
3階には1年生の教室しかない。
その上の4階には3年生の教室・・・。
その上の5階と6階には各授業で使う教室・・・。
仮に5階と6階に用があるなら、なおさらエレベーターで————!
————「エレベーターを使いたくないのか!?」—————
「なんで?」
ジンギは階段を登るアオイのパンツがチラッと見えた事にも気づかないほど、
アオイの思想を紐解いていた。
「・・・!」
「監視カメラ」
監視カメラだ!校内のエレベーターには全部監視カメラが設置されている。
防犯上の理由もあるが、
多感な僕達にとって密室は不貞行為を行うには絶好の場所。
取り締まる意味でも、
エレベーターと下駄箱と校門には監視カメラが設置されている。
————でもなぜ監視カメラを避ける必要が?————
僕が知っているアオイさんは監視カメラを警戒するような人間ではない。
小、中、高と同じ学校に通う僕にとって、いや・・・全生徒にとって
アオイさんは学校のヒロイン!
もちろん友達も多い・・・。
中でも中学からの友人9人は、アオイさんと同じ高校に行きたくて、
この高校に進学した。
成績も優秀で、高校は学校推薦で入学するほど先生の評判もいい。
中間期末ともに学年トップ10には必ず入っているし。
部活動では剣道部で、個人では都大会準優勝。
まさに才色兼備だ。
もちろんそんなアオイさんを男子がほっておくわけがない・・・。
だが、アオイさんに告白した男子—————年間12.75人。
13歳〜17歳で合計51人。
驚異的な数字だ。
—————だがアオイさんは、処女だ!—————
告白した男子は全員フラれた・・・
学校1のイケメン3年生の先輩の告白も断った。
理由はいつも同じ
「嬉しいです・・・でも大学までは勉強と部活に集中したいから・・・」
どんなブ男に告白されても、いつもこのセリフだ。
お察しの通り、僕は51回の告白を全て監視していた。
その都度・・・「よかったぁ」とホッと胸をなでおろす・・・。
最近では、どの男子が告白しようとしてるのかさえ分かるようになった。
そんなアオイさんを僕は小学5年生からずっと監視している。
アオイさんの事は全て熟知している自信があるし、
思い出は全部僕の脳内メモリに、
フルHDのmp4レベルで記憶されている。
だが、僕の脳内メモリには、
トイレの前で見たアオイさんの表情は書き込まれていない——————。
僕はその真相?原因?を確かめるため階段を登るアオイさんの後ろ姿を追った。
4階・・・5階・・・上下左右、360度全ての視界に注力した。
この時、アオイさんの目指す先はもちろん気になったが、
その反面。僕はもう一つ気なった?いや気づいた事がある・・・。
———「僕は尾行がうまい!」————
アオイさんが警戒するように立ち止まる度、僕は半歩下がる。
そして階段の手すりや壁、アオイさんの死角ゾーンに入れる事に気づいた。
おそらく・・・。
————「リアルフィールドのおかげだ!!」—————
VRスコープの世界は、リアルに再現された戦場と街並み。
リアルフィールドで何百回も極秘ミッションと
戦場を生き抜いてきた僕にとって———————
アオイさんの尾行は、とてもイージーな極秘ミッションだ。
そして、6階にアオイさんは到着した。
僕はアオイの死角ゾーンに入るようにポジショニングを固め、
アオイの腰辺りを見つめた。
————「さぁ・・・右、左、どっちに行く!?」————
————スタ・・・スタ・・・————
アオイの足が動くのが見えて、僕も同じ歩幅で階段を登ろうとしたが。
「!?」
アオイさんは階段の手すりをそっと掴み、さらに階段を登る。
————「え!?その上は・・・」—————
————ガチャガチャ・・・ガチャンーーー
鍵を開ける音と、扉を開ける音がリンクする———————?
僕は足早に6階に登り、階段の上の扉を見つめる・・・
扉は開いている。
「屋上・・・?なぜ屋上に」
屋上に続く階段を僕は今まで以上に警戒して、一歩一歩慎重に登る・・・。
なぜなら・・・僕は屋上に行った事がない。
いや、生徒で行った事のある奴なんていない。
立ち入り禁止の屋上の扉は、普段は鍵がかかっているからだ。
——————「なぜ アオイさんが鍵を持ってるんだ?」—————
そんな疑問が脳裏によぎったが、
そんな事より尾行している人間の姿が見えないのは、
尾行している人間にとって・・・とてつもなく不安だ!。
その不安に押しつぶされ、鍵を持っていた疑問はすぐに消え去った。
そして僕は自分に言い聞かす・・・。
—————「焦ったらダメだ!。」—————
僕はゆっくりと壁に背を向けた。
そして階段の壁と自分の背中が同化するほどぴったしともたれかかり。
中腰で階段を1段・・・また1段と老化した吊り橋を歩くように
慎重に登った・・・。
薄暗い屋上に続く階段には、開かれた扉の日光が差し込む。
その日光に目を細めながら、僕は・・・扉の前に着いた。
そして初めて見る屋上を僕はそっと見つめる・・・。
そこには見慣れたアオイさんの後ろ姿。
だが、1つ見慣れない光景が目に飛び込んだ—————!?
アオイさんは・・・
——————屋上のフェンスの向こう側に立っていた———————
その見慣れない光景を僕は呆然と見つめる・・・。
そして、僕の耳にかすかにアオイさんの声が聞こえた・・・・
——「もう死んでも いいよね・・・」——
—「おねぇちゃん?」—
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「まだまだ続きます」