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魔法学園94

 

「やあ、ヴィヴィアナさん。また一年――いや、二年かな? とにかく、よろしくね」

「こちらこそよろしくね、ジェレミア君」


 生徒会執行部の第一回部会で、ジェレミアに声をかけられたヴィヴィは笑顔で答えた。

 放課後は研究したくもあったが、決まってしまったのだから仕方ない。

 腹をくくってやるべきことはちゃんとやろうと決意したのだ。


 それから始まった会議では、まず自己紹介から始まったのだが、ヴィヴィの予想は外れて、ジゼラがいることはなかった。

 去年の委員決めの騒動を聞いていたので、今年の家政科は異例ではあるが、ソニアではなくジゼラが執行部に入ってくると思っていたのだ。

 だが家政科の担任の先生は厳しくも公正な人なので、きっと例外を作ることなく退けたのだろう。

 そちらの予想は、会議が終わったあとにソニアから聞いて当たっていたことを知った。


「大変だったわね、ソニア」

「まあ、でも先生だけじゃなく、マリルやクラスのみんなも私を推してくれたから」

「そうだったのね。よかった」


 当初、家政科はジゼラの専制状態になるかと思われていたのだが、意外とそうではないらしい。

 もちろんジゼラの取り巻きたちも多くいるが、マリルなどそれなりに力ある家の出身者たちが流されることなく自分の意見を持ち、また平民出身者たちを尊重しているからだそうだ。


 ヴィヴィはソニアと寮へ戻りながら、これからの生徒会活動について話した。

 すぐに新入生歓迎交流会があるのだ。

 正直に言えば、今回の生徒会長は少々影が薄いが、仕事はできるので大丈夫だろう。


 そして部屋に戻ったヴィヴィは着替えると、さっそく出された課題に取り組んだ。

 最近は治癒魔法の保存方法に気を取られていたが、やはり授業も面白い。

 幸いなことに七回生からは、手芸などの選択授業はほとんどないのだ。


 ただ、次の日の魔法学室での授業は少々つらかった。

 闘技場にいつもランデルトがいたわけではないが、もう二度と見ることができないと思うと寂しすぎる。

 それでも遅々として進まないように感じた時間も、どうにか流れていたようで、長期休暇の時期が再びやってきた。

 しかし、楽しみなはずの長期休暇が憂鬱なのは、またランデルトに会えないからだろう。

 思わずため息を吐いたヴィヴィに、ジェレミアが声をかける。


「ヴィヴィアナさん、どうしたの? もうすぐ長期休暇だというのに、浮かないね?」

「長期休暇だからかな。昨日、ランデルト先輩から手紙が届いて、この休暇も会えないって書かれていたの」

「あー、それは……」


 ヴィヴィが答えると、励まそうとしてかジェレミアが言葉を探す。

 しかし、なかなか見つからないようで、ヴィヴィは苦笑した。


「慰めてくれなくても大丈夫よ。だって、それも魔法祭の時期にまとまった休みを取ってくださるためだから。でも、ありがとう」

「いや、何もしてないけどね。だけど、そうだな……いっそのことヴィヴィアナさんから会いにいってみたら?」

「実はそれ、もう断られたの」

「え……?」

「往復で六日もかかるのに、せいぜい数刻ほどしか会えないからって」

「そ、それなら仕方ない、よね……」

「気を使わないで、ジェレミア君。余計に悲しくなるから」


 気まずそうに言うジェレミアがおかしくて、言葉とは逆にヴィヴィは笑った。

 ジェレミアのこんな態度はめったに見られないだろう。

 いつも悔しくなるくらい余裕があるのだから。


「元気が出たようでよかったよ」


 ジェレミアはわざとらしく不満げに言うと、一緒になって笑った。

 それから二人は生徒会室を出て教員室に鍵を返しに向かう。

 八回生は一回生の行事に一緒に参加しているためいない。

 今日はたまたまヴィヴィとジェレミアだけ担当の仕事があったため、二人きりだったのだ。

 だがそれほど時間は遅くないため、ジェレミアと教員室前で別れたヴィヴィは寮へと戻ろうとして急に思い立ち、闘技場へと向かった。


 もちろん闘技場に用事があるわけではなく、その前の広場にある木々が目的である。

 放課後は、治癒魔法の自主練習のために訪れる生徒も少なくないのだが、今日は珍しく誰もいなかった。

 お陰でヴィヴィは力を抑えることなく思う存分練習できるので喜んだ。

 ちなみに、騎士科の生徒の自主練習は禁止されている。


 ヴィヴィはさっそく傷ついた木を見つけて近づいた。

 かなり酷い裂傷だが、ヴィヴィは周囲を確認してから、上級治癒魔法の詠唱を小さく呟いた。

 途端に淡い光がヴィヴィの両手から放たれ、柔らかく傷を包む。

 すると、逆再生の映像を見ているかのように、木の傷が塞がっていった。

 体内の魔力の消費はそれほどにない。

 きっとこのレベルならあと十回はできる気がする。


「よし、いい感じ」


 一人呟いて、ヴィヴィは次の癒すべき木を探した。

 魔法騎士科の生徒たちは授業前などにここで準備運動がてらに模擬剣を振るうそうなのだが、調子に乗って攻撃魔法を放ったりもするらしい。

 それを防御魔法で防ぐはずの相手がつい避けたり、手元が狂ったりとするために、木々がとばっちりを受けるのだそうだ。


「本当に、あなたたちにはいい迷惑よね……」


 また新たな傷がついた木を見つけ、幹を優しく撫でながら話しかけた。

 当然だが、返事はない。

 ただ、この木はいつも傷ついていて、気の毒になるのだ。

 ヴィヴィがこの木を治癒したのも数度目になる。

 そこでふとヴィヴィは気付いた。

 何度も治癒する木と、まったく治癒したことのない木があることに。

 ぐるりと広場を見回せば、それらの木は全て種類が同じに見える。


 ヴィヴィはよく治癒する木と同じ種類の木を一本ずつ見ていった。

 予想通り、それらは全て何らかの傷がついている。

 次に、よく治癒する木――一種類だけではないが、それらに挟まれていながら一度も治癒したことのない木を確認し、先ほどと同じように一本ずつ見ていく。


(やっぱり全然傷ついていないわ……)


 一度も治癒したことのない木は二種類あった。

 そのうちの一種類は、全て同じような幹の太さと高さである。

 しかし、もう一種類の木は成長速度がばらばらだった。

 びっくりするくらい太い幹なのに高さはそれほどでもなかったり、とても高いのに幹の太さは普通だったり。

 日照時間などの条件の問題なら、周囲の種類の違う木々にも、それぞれ差があってもいいはずだった。


「まさかこれって……。いや、でもそんな……」


 一人呟いたヴィヴィは、胸の高鳴りを抑えながら、無傷な木の一本に近づいていった。




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