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魔法学園91

 

「今日は一段と綺麗だ」

「……ありがとうございます。先輩もとても素敵です」

「ありがとう」


 正装姿のランデルトを目にした途端、よくわからない感情がこみ上げてきて、ヴィヴィはどうにか声を絞り出した。

 明日になるとランデルトは退寮する。

 もちろんヴィヴィは見送るつもりではあるが、それから当分会えなくなってしまうのだ。

 次はいつ会えるのかとそれとなく訊いた時には、わからないとしか返ってこなかった。

 やはりまとまった休みは取りにくいらしく、魔法祭までは帰れないかもしれないと言われている。


 もちろんヴィヴィだっておとなしく待っているつもりはない。

 ランデルトが帰ってこれないのなら、ヴィヴィが会いに行けばいいのだ。

 そう考えてはいるものの、やはりヴィヴィも長期休みまでは動けない。

 だがこの長期休みに会いに行っては、我慢が足りないと思われるだろうかとちょっとだけ心配していた。


「……卒業式はどうでしたか?」

「あ、ああ。やはり少々緊張したかな。やはり、これが最後だと思うと答辞を読むときに変に力が入ってしまっていた」

「そうなんですね」


 少しの沈黙が落ちて、何か話さなければとヴィヴィが口にした話題はありきたりだったが、それでも雰囲気は和んだ。

 会場となっている体育館まではパートナーを迎えにいく男子生徒とすれ違ったり、他のカップルも近くにいたりと二人きりではないが、やはりしんみりとしてしまっていた。

 やがて会場に到着すると、その明るさに救われた気がする。


「すごい、綺麗……」

「本当だ。生徒会のみんなが頑張ってくれたんだな。なんだかちょっと悔しいが」

「去年もとても素敵でした。クラーラ先輩たちもすごく喜んでくださっていましたもの」

「そうだな」


 卒業パーティーの趣向は毎年変わる。

 会場の準備はもちろん外注するが、新生徒会が主導するのだ。

 去年はヴィヴィも手伝ったので知っていたが、今年はまったく知らなかったので、感動してしまった。


 そして始まったパーティーは、学園長や新生徒会長の挨拶などのどうしても外せないものはあったが、あとは楽しむだけだった。

 パーティーが始まってからしばらくして、ランデルトに阻止されながらも、ダニエレがダンスを申し込んでくる。

 笑いながら申し込みを受けたヴィヴィは、ダニエレのパートナーについて尋ねた。

 ダニエレのパートナーはまさかのメラニアだったのだ。

 しかし、二人は従姉であるらしく、婚約者がいれば既婚者であるあの従姉に頼まなかったのにと、ダニエレは嘆いていた。


(全然似ていないのに、なぜか血のつながりを感じる……)


 意外な事実を知って、ヴィヴィは驚きつつも納得した。

 さらには、ダニエレも第五部隊に配属されたらしく「腐れ縁だよ」とまた嘆いていたが、ヴィヴィにとっては羨ましい縁である。

 どうやら成績優秀者は第五部隊に配属されることが多いらしい。


 またリンダとともに特別な料理を――主に甘い物を食べてパーティーを楽しんだ。

 思いのほか緊張しなかったのは、主役である卒業生がみんなリラックスしていたからだろう。

 無事に卒業できた安堵と、将来への希望、少しの寂しさや不安。

 それらが混じり合って先輩たちはみんなキラキラ輝いて見えた。

 そしていよいよラストダンス。


「ヴィヴィアナ君、踊っていただけますか?」

「――はい」


 ヴィヴィはわざとらしく気取ったランデルトの手を取り、笑いながらダンスフロアへと出た。

 初めて踊ったのは、二年前の新入生歓迎交流会だ。

 それから魔法祭の舞踏会ではパートナーとして踊り、こうしてランデルトの卒業パーティーで踊っている。

 次に踊れるのはきっと来年の魔法祭の舞踏会になるはずだ。

 そもそも今までのように会えることも、闘技場を覗くことすらできなくなってしまう。


 途端に涙がこみ上げてきたヴィヴィは、どうにか微笑んだ。

 せっかくの先輩の門出なのだから、明日も頑張って笑って見送るのだ。

 それでも泣いている女生徒も多く、ヴィヴィもつられそうになる。

 だからランデルトを見上げたまま改めてお祝いの言葉を口にした。


「先輩、ご卒業おめでとうございます」

「――ありがとう、ヴィヴィ。だが……寂しくなるな」

「それは言わないでください」

「そうだな」


 ヴィヴィの目は潤み、声は震えたが、それでも笑ってみせる。

 ランデルトも優しく微笑んで、ダンスが終わるまで二人は見つめ合ったままだった。

 しかし、楽しい時というのはあっという間で、パーティーは終わってしまい、ヴィヴィとランデルトはゆっくりと会場を出た。

 寮までの帰り道は、行きよりもかなり足取りが重くなる。


「ヴィヴィ……今日はありがとう。ちゃんとした婚約もできていないのに――」

「私もありがとうございました。すごく楽しかったです。あの、卒業パーティーだけの特別メニューも食べることができて、すごく……嬉しかったです」

「そうか……」


 ランデルトは正式に婚約もせずに卒業式のパートナーに申し込んだことを、やはりまだ気にしているのだ。

 今夜も当然のように婚約を祝福されたが、二人とも訂正することなく笑顔でお礼を返してはいたが、ランデルトは心苦しかったのだろう。

 だからヴィヴィは気にしていないとばかりに、パーティーを楽しんだことを口にした。


 だが、それからはしばらく沈黙が落ちる。

 女子寮がすぐそこまで迫っていて、一緒に過ごせる時間もあとわずかなのに、言葉が何も見つからず、ヴィヴィは焦った。

 すると、ヴィヴィの手をぎゅっとランデルトが握る。


「明日は……昼前に出るよ……」

「――お見送り、させてくださいね」

「ありがとう。だが……三日後の出発は何時になるかわからないから……」

「……はい」


 ランデルトの言いたいことを察して、ヴィヴィは素直に頷いた。

 きっと王都を出発する姿を見てしまったら、本当に泣いてしまう。

 ヴィヴィはランデルトの手を強く握り返し、寮の少し手前で立ち止まった。


「先輩、もうここで大丈夫です。ありがとうございました」

「……うん。じゃあ、明日……出発前に使いを出すよ」

「はい、よろしくお願いします。それでは、また明日」

「ああ。また明日な。おやすみ、ヴィヴィ」

「おやすみなさい」


 ヴィヴィは精一杯の努力で笑顔を浮かべると、ぐずぐずせずに勢いよく踵を返した。

 そして足早に寮へと向かい、入口で振り返る。

 案の定、ランデルトはまだその場にいて、ヴィヴィを見つめていた。

 そこでヴィヴィが元気よく手を振ると、振り返してくれたランデルトに背を向けて寮へ入り、部屋へと急いで戻った。


 時間が経つのは早い。

 だからきっとこれからの一年もあっという間なのだ。

 ヴィヴィはそう言い聞かせ、翌日にランデルトが退寮する時も最後まで笑顔で見送った。

 しかし、その強がりも部屋に戻るまでで、ヴィヴィはミアに抱きついて思いっきり泣いたのだった。




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