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魔法学園89

 

「あら、ヴィヴィアナさん、お久しぶりね」

「そうね、ジゼラさん」

「もうすぐ八回生は卒業されるけれど、ヴィヴィアナさんの婚約の知らせをまだ聞いていないのよね。どうなさったの?」

「どうして私の婚約をジゼラさんに知らせなければならないのか、私にはわからないからよ」


 寮で久しぶりに会ったジゼラに嫌みを言われ、ヴィヴィも嫌みで返した。

 ランデルトからは卒業パーティーのパートナーにもちろん申し込まれているが、婚約を発表していないために皆が不思議に思っているようだった。


 ヴィヴィにとって、それは別にかまわない。

 ただランデルトがかなり気にしているのが、逆に申し訳なかった。

 ヴィヴィの父が許してくれないのだから、ランデルトは悪くないのだ。

 ただ猶予として、パートナーになることには反対されなかっただけ良しとするべきだろう。

 とにかく、卒業パーティーでは最高の装いをして、ランデルトを祝うつもりだった。


(本当は寂しいんだけどね……)


 ランデルトの見習い期間の配属先は、第五部隊と先日告知されたのだ。

 ちょうどレンツォと入れ替わる形になり、ランデルトと上った壁の頂面から見た街道を通って行ってしまう。

 休暇はもらえるのでまったく会えないというわけではないが、距離的には簡単に帰ってくることができる場所でもない。

 だが、魔法祭の時期にはまとまった休暇をもらい、舞踏会にはパートナーとして出るとは約束してくれた。


(でもそれって、いったいどれだけ先なのよ……)


 いっそのこと学園を退学してついていってしまおうかとも思ったが、それでは父が許してくれないだろう。

 そうなると、ランデルトにまで反対されてしまうこと間違いない。

 もちろんヴィヴィだって勉強は続けたいのだ。


(ああ……スマホ。ううん、せめて電話があれば……)


 今までに何度も思ったことだが、ここまで切実に願ったことはなかった。

 会えないのなら手紙で我慢するしかないのだが、写真さえこの世界にはない。


(そういえば、カメラって確か割と簡単に作れるって聞いたことがあるような……って、知らないし! 私のバカ。せめて前世で作り方を覚えておけば……)


 食事をとってから部屋に戻り、課題をしようと思っても、なかなか手につかない。

 思わず大きなため息を吐くと、ミアが心配そうに声をかけてきた。


「お嬢様、お茶が入りましたので、少し休憩されてはどうですか?」

「――ええ、そうね。ありがとう、ミア」


 課題で疲れていると思っているらしいミアに、違うとは言えず、ヴィヴィは素直に頷いて机を離れた。

 そして、寮に入ってからの習慣になっているミアとテーブルを挟んで一緒にお茶を飲む。

 最初は辞退されたヴィヴィだったが、一人で飲むのは寂しいからと、子供らしく甘えて納得してもらった習慣だった。


「ねえ、ミア……」

「何でしょう?」

「伝書鳩って、寮でも飼えるかしら?」

「はい!?」

「やっぱり屋根裏部屋のような場所で飼うべきなのかしら? それに一羽だけじゃ可哀そうよね? でも糞とか大変そうだし、そもそも目的の場所にどうやって飛んでくれるの? 訓練が必要なのかしら? 訓練ってどれくらいの時間が――」

「お嬢様、――お嬢様!」


 ヴィヴィの突然の発言に、ミアは驚いたようだったが、ヴィヴィは次々と浮かんでくる疑問に夢中になっていた。

 そこに、ミアが止めに入ってようやく我に返る。


「あ、ごめんなさい。質問しておきながら、私ばかりしゃべっていたわ」

「いいえ、それはかまわないのですが……。その、伝書鳩というのはやはりランデルト様へお手紙をお届けするために?」

「ええ、そうよ。だって、今のところ、それが一番早く届けられるわよね?」

「それはそうでございますが、残念ながら伝書鳩で手紙を交換されるのは難しいかと思います」

「やっぱり不確かだから?」

「いえ、ランデルト様が軍部に所属されるからでございます。個人的な手紙は全て検閲されると伺いました」

「検閲!? 戦争中でもないのに!?」


 検閲という言葉がもうヴィヴィには驚きだった。

 しかも、ランデルトからはまったく聞いていない。


「さようでございます。友人が軍の方とお付き合いしているのですが、ぼやいておりましたもの。ですから、その……愛の言葉などは、合言葉を決めていると」

「愛だけに、愛言葉……」

「はい?」

「う、ううん! なんでもない! とにかく伝書鳩は諦めるわ」

「そうしてくださいませ」


 ヴィヴィはショックのあまり変なことを口走ってしまっていた。

 ミアに聞かれなくてよかったと思いつつ、頻繁な手紙のやり取りはできそうにないなと諦める。

 一年間は離れ離れになるけれど、正騎士になった時には運よく王都に――第一部隊に配属される可能性だってあるのだ。

 むしろ伯爵家出身ならその可能性のほうが大きい。


「よし! くよくよ考えても仕方ないし、私は私で頑張るしかないわ!」

「はい」

「あ、でもね、ミア。申し訳ないんだけど、今度の長期休みもまたレンツォ様のところに通いたいの。付き合ってくれる?」

「もちろんかまいませんとも」

「ありがとう」


 ヴィヴィが気合を入れて宣言すると、ミアはにこにこしながら答えてくれた。

 そこで、レンツォの下で勉強するには、ミアに付き合ってもらわなければならないことを今さら思い出し、慌てて確認する。

 当然、ミアは了承してくれた。

 実のところ、ヴィヴィだけでなくミアも同様に学んでいたため、魔法の力が増しているらしい。

 それならそれで、もっといい職にも就けるのに、ミアはヴィヴィの侍女のままでいいと言い張るのだ。


 おそらくヴィヴィを一番に甘やかしてくれているのはミアだろう。

 自分のことばかりヴィヴィは考えてしまっていたが、ミアはヴィヴィのために結婚まで遅らせてくれている。

 それならばやはりくよくよせずに早く一人前になって、ミアが心残りなくお嫁にいけるように頑張ろうと、ヴィヴィは改めて誓った。




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