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魔法学園86

 

「おはよう、ヴィヴィ。長期休暇はどうだった?」

「久しぶりね、アルタ。休暇はとっても有意義だったわよ。薬師の勉強もすごくできたし」

「できたし……? 他には?」

「それは秘密」

「ええ? 意地悪。でもわかっているわ。きっとランデルト先輩からプロポーズされたんでしょう?」

「さあ? どうかしらね」


 新学期になり、久しぶりに会ったアルタから長期休暇のことを訊かれて、ヴィヴィは思わせぶりに答えた。

 ヴィヴィは昨日の夜に寮に戻ったので、アルタにはまだランデルトのことをちゃんと話していなかったのだ。

 ただ他にも聞いているかもしれない人がいるなかで、詳細を語るつもりはなかった。

 アルタも後できっちり話してもらうわよとの視線を向けただけで、それ以上の追及はせず話題を変える。


「まあ、とにかく新学期といえば魔法祭よね。実行委員や生徒会ほどじゃないけど、委員長もかなり手伝うことがあるから、ちょっと気が重いわ。学年も上がると責任も増えるから……」

「でも、クラスのみんなも慣れてきているし、手際もよくなっているんじゃない? 私も去年の経験を活かして手伝うわ」

「本当に? ヴィヴィの言質は取ったわよ?」

「ええ……。お手柔らかにお願いします」


 アルタの冗談交じりの脅しに、ヴィヴィもわざとらしく怯えながら答えた。

 それから二人で笑い、授業の準備をする。

 長期休暇が明けたばかりだというのに、さっそく一限目から魔法基礎理論の授業なのだ。

 基礎と言いながらも難しくて、ヴィヴィは苦手な授業だった。

 それが、始まってみればなぜか理解できる。

 ヴィヴィは不思議に思い、教本の今まで習った部分に簡単に目を通した。


(あれ? 何となくわかる……?)


 学期末の試験では赤点ギリギリで、先生には面談で実技はいいが、座学のほうはもう少し頑張りましょうと言われたのだ。

 そこでヴィヴィは休暇の間に課題をする時に、それほど苦労しなかったことを思い出した。


(ひょっとして……)


 思い当ることがあったヴィヴィは、休み時間になると座学系の教本を手に取り、ぱらぱらとめくった。

 すると、やはり何となくだが理解できるようになっている。

 もちろん課題をしっかりしたということもあるだろうが、この理解力の向上はおそらくレンツォのお陰だろう。


 自分では気がついていなかったが、今思えば薬草に関する話の中にたくさんの魔法的観点からの話が含まれていた気がする。

 薬草の種類や効能を教えてくれる時、乾燥させたり煮詰めたりする作業の時の問答。

 あれらには薬草だけではなく、魔法ではといった要素を含めて話してくれていたのだ。


(そうか。これが先輩のおっしゃっていた、家庭教師より教え方が上手かったってことね……)


 ヴィヴィは感動しつつ、この興奮をランデルトにすぐに伝えられないことを残念に思った。

 今日からさっそく生徒会は魔法祭を前にして忙しくなる。

 ただし、教室は同じ棟にあるので偶然に会えるかもしれない。

 それだけが楽しみだった。


 だが、世の中そう簡単にはいかず、数日経っても魔法学室から闘技場を覗くくらいしかランデルトを見かけることができない。

 そのため、必ず窓際に陣取るのだが、ふと視線を感じてそちらに向けば、家政科と政経科が入っている棟のとある教室の窓際にいたジェレミアと目が合ってしまった。

 ジェレミアは一瞬驚いたようだったが、授業中にもかかわらず手を振ってくる。

 思わず振り返してしまって、はっと我に返り、慌てて先生のほうを見た。

 幸い先生は黒板に向かっていたので気付いていない。

 そこでもう一度ジェレミアに目を向ければ、意地悪そうな笑みを浮かべていた。


(なんか悔しい……)


 そう思い、これ見よがしにふんっと顔を逸らしたものの、ジェレミアが楽しそうに笑っている姿が目に見えるようだった。

 おそらくジェレミアのクラスは自習なのだろう。


 その日のお昼休み。

 アルタと昼食を食べていると、ジェレミアがやって来た。

 珍しくフェランドはおらず一人である。


「やあ、ヴィヴィアナさん、アルタさん。ここいいかな?」

「ええ、もちろんよ。アルタもいいわよね?」

「はい。どうぞ」

「ありがとう、ヴィヴィアナさん、アルタさん」

「それで、フェランドは?」

「え? 席に座るなり、その質問?」


 ヴィヴィとアルタは向かい合わせに座っていたので、ヴィヴィの隣にジェレミアが座った。

 そこでヴィヴィが問いかけると、ジェレミアは笑いながら返す。


「だって、いつも一緒にいるからいないと不思議な感じがするんだもの」

「まあ、なぜか一緒になってるんだよね。で、今は実行委員の仕事があるらしくていないんだよ。後でくるんじゃないかな? ひょっとして、フェランドがいなくて寂しい?」

「いいえ、全然。ジェレミア君がいるだけで十分よ」

「……十分かな?」

「そうよ。思わず手を振ってしまうくらいに、ジェレミア君は魅力的なんだもの」

「だと思ったよ」


 白々しくジェレミアが偉そうに頷く。

 ヴィヴィはため息を吐いて、アルタに魔法学室でのことを話した。


「それは先生に見つからなくてよかったわよね。あの先生は厳しいもの」

「でしょう? 酷いわよね、ジェレミア君は」

「いや、たとえ怒られても僕のせいだけじゃないよね?」


 いつもの冗談交じりの会話に三人で笑う。

 アルタも初めの頃はジェレミアを前にすると緊張していたが、今はかなり慣れてきたらしく、普通に会話できるようになっていた。

 やがて話題は魔法祭のことに移る。


「そういえば、もうすぐパートナーの申し込み解禁日だね?」


 ジェレミアがパートナーのことに触れ、ヴィヴィは知らず笑顔になっていた。

 その表情を見て、ジェレミアは察したらしい。


「どうやらヴィヴィアナさんには必要ない話題だったみたいだ。アルタさんは決まった相手はいるの?」

「え? いえ、まだです」

「そうなんだ。では、昨年のように申込者が殺到するね?」

「そ、そのようなことは……」


 話を振られたアルタは真っ赤になって口ごもった。

 確かにアルタはモテる。

 まだ仲良くなってそれほどの時間を過ごしたわけではないが、たまに男子から呼び出されているのをヴィヴィも知っていた。

 その後はジェレミアのパートナーについて触れることができないうちにフェランドが合流し、話題は流れたのだった。




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