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魔法学園75

 

「ヴィヴィアナさん、僕と踊ってくれますか?」

「――はい、喜んで」


 休憩時間が終わり、ダンス再会の音楽が流れ始めると、ジェレミアがヴィヴィの許へ迎えにやって来た。

 そして芝居がかった仕草で、ヴィヴィをダンスへ誘う。

 一緒にいたアルタやリンダはきゃあっと黄色い声を上げた。

 本物の王子様が誘いに来たのだから、ヴィヴィも傍観者なら同じように興奮しただろう。


「生徒会の仕事はもういいの?」

「担当は前半だからね」

「じゃあ、これから終わるまでずっとダンス?」

「そうなるかな」

「人気者は大変ね。よければ手を抜いてもいいわよ?」

「……ヴィヴィアナさん、それは僕への気遣いのようで、挑戦だね。最後まできちんと踊りきるぐらいの体力はあるよ」

「っちょっと! もう、だからいきなりはやめてって言ってるじゃない!」


 ダンスフロアに出てから始めた会話はいつものようなやり取りだった。

 そして、ジェレミアはヴィヴィの言葉を挑戦と受け取ったらしく、難しいターンをしてヴィヴィを振り回す。

 驚きながらもどうにか対応して、ヴィヴィは怒りながら笑った。

 考えてみれば、例年の交流会でのジェレミアは、最初から最後までほとんど踊っていたのだから、後半をずっと踊っていても平気なのだろう。


「ヴィヴィアナさんは、ランデルト先輩と踊らないの?」

「ラストダンスを約束しているの」

「ああ、なるほど。ラストダンスなら会長職で忙しい先輩も、間違いなく踊れるからね。それにしても、例年なら会長は政経科の生徒ばかりだったのに、ランデルト先輩は騎士科だから、これからも演習と会長職の仕事で大変だろうな。すごいよ」

「そうよね。昨年のジュリオ先輩を見ていたからわかるけど、会長職は本当に忙しいものね。だから、怪我をされないか心配で……」


 ヴィヴィもジェレミアも、本部席でアンジェロと話しているランデルトに視線を向けた。

 すぐに他のカップルに視界を遮られて見えなくなったが、ヴィヴィが小さく呟くと、ジェレミアが励ますように言う。


「僕もみんなも、できる限り手伝うから大丈夫だよ。まあ、先輩は責任感が強すぎるところがあって頑固だから、なかなか頼ってくれないけどね」

「でしょうね。それで先日、ケンカをしたわ」

「ケンカ? ヴィヴィアナさんと先輩が?」

「えーっと、ケンカと言うには大げさだったかもしれないけれど、私が怒ったの」

「ヴィヴィアナさんが?」

「そんなに驚くこと?」

「いや、普段のヴィヴィアナさんなら全然。ただランデルト先輩に対してってことに驚いてるんだよ」

「なぜかしら? ちょっと複雑な心境だわ」


 ジェレミアの驚きの理由を聞いて、ヴィヴィは不満そうに呟いた。

 それから二人で笑って、ヴィヴィはひと呼吸置いてから再び口を開いた。


「長期休暇の間にちょっとした不満があって、それなのに私は先輩に遠慮して何も言えなかったんだけど、新学期が始まって先輩に会ったら、我慢できなくなって結局は不満をぶつけてしまったの。でも先輩は先輩で遠慮していたみたい」

「ああ、それはもどかしいね」

「そうなのよ。だけど、もう解決したわ。お互い遠慮はなしにしようって約束したの」

「……うん。それならよかったよ」


 ジェレミアとランデルトの話をしていたヴィヴィは、ふとあの時の疑問を思い出した。

 曲も終盤にさしかかり、もうすぐダンスも終わる。

 本来ならフェランドに訊こうと思っていたことだが、クラスが違ってからなかなか会えず、もう五年も付き合いのあるジェレミアになら遠慮しなくても大丈夫だと思えたのだ。


「ねえ、ジェレミア君」

「うん、何?」

「ジェレミア君は、×××って知ってる?」

「……は?」

「だから――」

「いい! 言わなくていい!」


 ヴィヴィの腰に添えられていたはずのジェレミアの手が、ヴィヴィの口を塞ぐ。

 みんながステップを踏む中で、いきなり足を止めたヴィヴィたちは注目を浴びたが、ジェレミアはすぐに気を取り直したのか、ヴィヴィを再びリードし始めた。

 しかし、その顔は赤い。

 あまりの反応に、ヴィヴィはよほど汚い言葉だったのだろうかと考えた。


「今の……ひょっとしてフェランドから聞いた?」

「え? い、いいえ。その……ランデルト先輩が……」

「先輩が!?」

「あ、えっと、ダニエレ先輩のことでちょっと……。その時におっしゃっていたんだけど、知らない言葉だったから気になって。先輩は謝ってくださったんだけど、意味は教えてくださらなかったし、きっと女性には聞かせたくない言葉だったんだろうなって思って……」

「だったら、僕にも訊かないでくれ……」

「だって、気になるじゃない」


 がっくりしながらも、しっかりリードしてくれるところはさすがだなと感心しつつ、ヴィヴィはぼやいた。

 これはやはりフェランドに訊くかと思ったところで、ジェレミアが釘をさす。


「ヴィヴィアナさん、フェランドに訊いても無駄だよ。さすがに、あいつだって言わないよ。というか、言わせない」

「ええ……」

「とにかく、もうそれは忘れたほうがいいよ」

「男子ってずるい……」

「ずるくない。そういう問題じゃないから」

「……仕方ないから、諦めるわ」

「そうしてくれ」


 これ以上困らせるのも意地悪だなとヴィヴィが引いたところで曲が終わった。

 ヴィヴィとジェレミアは礼儀正しく挨拶をして、一度フロアから出る。


「ジェレミア君、もうここでいいわよ。次に約束している子のところへ迎えにいってあげて」

「だが……」

「大丈夫。私はもうラストダンスまでは誰とも約束していないし、おとなしく何か飲んでいるから。さっきのことももう忘れたわ」

「……わかった」


 ジェレミアは迷っているようだったが、結局は足を止めた。

 そこでヴィヴィは謝罪の言葉を口にした。


「ジェレミア君、困らせてごめんね。でも、とても楽しいダンスだったわ。ありがとう」

「――いや、こちらこそ。ヴィヴィアナさんと一緒にいると飽きなくて楽しいよ。では、また」

「ええ、またね」


 ドリンクサービスのコーナーはすぐそこにあり、ヴィヴィはジェレミアを笑顔で見送ると、そちらに足を向けた。

 レモネードを頼んだところで、マリルが合流し、二人であれこれと新しいクラスのことを話して時間を潰したのだった。




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