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魔法学園72

 

 ただの一般生として参加した今年の新入生歓迎交流会は、やはり昨年とはまったく違った。

 参加しない生徒は六回生になると多かったが、ヴィヴィはマリルと開始時間に間に合うように会場に向かった。

 アルタは委員長として手伝いにかり出されている。


「ヴィヴィアナ先輩、マリル先輩、今年も僕と踊ってくれませんか?」

「僕もお願いします」

「喜んでお受けいたします。ジュスト君、アレン君」

「ええ、もちろん喜んで」


 会場に入るとジュストとアレンがやって来て、さっそくダンスを申し込んでくれた。

 その儀礼的な申し込みに、ヴィヴィとマリルも同じように儀礼的に受けて四人で笑う。

 それからヴィヴィはさり気なく本部席へ視線を向けると、ランデルトではなくジェレミアと目が合った。

 ジェレミアはヴィヴィに微笑みかけて小さく指さす。

 何だろうとヴィヴィがそちらを見ると、少し陰になったところにランデルトがいた。


 ランデルトはアンジェロと話していたが、ヴィヴィの視線に気付いたのか、ちらりとヴィヴィを見て微笑んだ。

 もちろんすぐに向き直ったが、しっかりアンジェロには気付かれたらしく、ヴィヴィはアンジェロからの無感動な視線も受けた。

 アンジェロは相変わらずのようだ。


 こっそり笑いながらヴィヴィはジェレミアに視線を戻したが、すでにジェレミアは俯いて何か書類を見ていた。

 ランデルトとのちょっとしたやり取りに、感謝の気持ちを目線だけとはいえ伝えたかったが、やはり忙しいのだろう。

 昨年はヴィヴィも最後まで何かとバタバタしていたなと思うと懐かしくなる。

 そしてアルタやリンダ、ジュストたちの友達も合流したところで、壇上にランデルトが上がった。


(先輩、やっぱりかっこいい……)


 ランデルトの姿を見ながらうっとりしていたヴィヴィだったが、ふと昨年とまた違うことに気付いた。

 ジュリオの時と違って、黄色い声が上がらないのだ。

 そのためか会場内にランデルトの明朗な声がしっかり響く。

 嬉しいような、そうでないような複雑な気持ちでヴィヴィは周囲をゆっくりと見回した。


 すると、何人かの女子生徒がランデルトへと熱い視線を向けている。

 女子生徒はヴィヴィが知っているだけでも一般出身の子たちばかりだ。

 そこでヴィヴィはミアの言葉を思い出した。――ランデルトはジュリオやアンジェロのように派手ではないが、一般生に人気があるのだと。


(そっか……。目立たないだけで、ランデルト先輩のことを好きな女子は他にもいるんだ……)


 そう思うと、ヴィヴィは浮かれていた今までの自分を反省した。

 もちろん恋愛においてはよくあることで、ヴィヴィも今さら身を引くつもりはないが、やはり失恋の痛手はとてもわかる。

 同時に、ランデルトはどうなのだろうと考えた。


 人気に関しては、ジュリオやアンジェロほどではない。それにジェレミアほどでも。

 今もジェレミアに対しては明らかなラブ光線が飛んでいるのがわかるほどだ。

 そんなふうに何人もの女子生徒から想いを――なかには軽い気持ちもあるだろうが、それでも好きだと思われて、一人だけを選ぶことがあるのだろうか。

 この世界では一夫多妻が認められているのに。


(てっきりランデルト先輩は私一人だけを選んでくれたと思っていたけれど、この先はどうなるかわからないわよね……)


 人の気持ちは変わる。

 それは前世のヴィヴィでさえも経験していることだ。

 何となくヴィヴィがフェランドへ視線を向けると、大勢の女子に囲まれていた。


(あれだけはっきりと示してくれたら――それでもいいと思えたら、楽なんだろうな……)


 ヴィヴィは小さくため息を吐いて、視線を上げた。

 ランデルトはちょうど挨拶を終えたところで、たくさんの拍手が起こる。

 壇上横に消えていくその姿を目で追い、次に出てくるであろう場所――本部席近くの扉へ視線を向けたヴィヴィは、その手前に座るジェレミアと目が合った。

 ジェレミアはどうしたのかと問うように首を傾げる。

 ただの気のせいかもしれないが、ヴィヴィは何でもないというように笑って返した。


 ランデルトはまだ裏で仕事をしているのかなかなか出てこない。

 諦めたヴィヴィは踊り始めた新入生のファーストダンスに視線を移した。


 今年の注目の新入生は何と言ってもジェレミアとジュストの弟であり第三王子のジャンルカである。

 ジャンルカは叔母であるジゼラとファーストダンスを踊っていた。


「僕は……ジャンルカの母君が嫌いです」

「ジュスト君?」

「だって、あの方は――」

「ジュスト君、今それを口にしてはダメよ。でもそうね、少しここは暑いから外に出ましょう?」


 きっとジュストには溜まっているものがあるのだろう。

 幸いにして小さな声だったことと、みんなダンスに気を取られて、聞いていたのはマリルとアレンだけのようだが、この二人は他に漏らすことはないはずだ。

 ヴィヴィはジュストと手を繋ぎ、気付かれないようさり気なく会場の外に出た。


「ジュスト君、ここなら誰も聞いていないと思うわ」


 会場となっている体育館を出ると、校舎へと向かい、歓迎会の準備室になっている部屋へと入った。

 そして誰もいないことを確認してヴィヴィは椅子に座ると、ジュストも座るようにと勧める。

 昨年、生徒会補助委員として準備に携わっていたから知っている部屋であり、ここなら今は誰もおらず、話を聞かれることもないだろう。

 おそらくジュストの護衛がどこかにいるのだろうが、万が一聞こえたとしても漏らすことはないはずだ。


 最近になって、ジェレミアがさり気なくではあるが、できる限り窓のない建物の陰になるような場所に立つことが多いことに、ヴィヴィは気付いた。

 今のジェレミアは王位継承者の中でも一番の候補であり、学園内でさえ命を狙われているのだろうかと同情したのは内緒である。

 また、ひょっとするとヴィヴィにもわからないように護衛がついているのかもしれないが、あえて父に確認はしていない。


「すみません、先輩。僕は軽率なことを言いました」

「そうね。確かにあの場で口にするには、軽率な言葉だったわね。でも、我慢できなかったのでしょう? それなら、今ここでなら吐き出しても大丈夫よ。聞いているのは私だけだから」


 しゅんとした様子で謝罪するジュストに、ヴィヴィは穏やかに微笑んで大丈夫だと伝えた。

 ジュストは小さく息を吐くと、ヴィヴィを真っ直ぐに見つめ、意を決したように口を開いた。




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