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魔法学園65

 

 気がつけば、ロングホームルームはクラスの各委員を決める時間になっていた。

 まずは先生が男女それぞれのクラス委員長の立候補を募る。

 すると、男子はお茶会で仲良くなった男子の一人が手を上げてすんなり決まり、女子はアルタともう一人が手を上げた。

 ヴィヴィは申し訳なく思いながらもアルタに投票し、結果は数票の差でアルタに決まった。


 次に生徒会執行部員を決めることになったのだが、補助委員の経験者はヴィヴィともう一人の男子――平民出身のドミニクだけである。

 そのためか、立候補を募った時には一人も手を上げず、誰か推薦してくれないかと先生が言うので、ヴィヴィは手を上げた。


「私はドミニク君を推薦したいと思います。昨年度に生徒会補助委員として、私はドミニク君と一緒に仕事をいたしましたので、その能力を十分に存じております。ですから、ドミニク君にお願いしたいです」


 ヴィヴィの言葉にドミニクは真っ赤になったものの、嫌がっているようではなかった。

 むしろほっとしているようだ。

 そして他の人を推薦する生徒はおらず、ドミニクに決定した。

 あとは魔法祭の実行委員だったが、これはお茶会で仲良くなった男子の一人と、先ほどクラス委員長に落選してしまった女子に決まる。


「ヴィヴィアナさん、よかったんですか?」

「何が?」

「えーっと、生徒会に入らなくて……」


 全ての委員が決まったところで休み時間になり、アルタがヴィヴィに問いかけてきた。

 ヴィヴィが笑顔で問い返すと、アルタは遠慮がちに答える。

 仲が良くなったが、まだまだ距離は遠い。


「ああ、そのことね。確かに生徒会の仕事はやりがいがあって面白かったけど、私よりもドミニク君のほうが能力的にかなり優れているもの。本人もやる気はあったみたいだし。それなのに私に遠慮しているんだったら申し訳ないと思って。むしろ、みんな私に遠慮していない? アルタさんともせっかく仲良くなれたのに、まだ敬語なんだもの」

「それは……」

「まあ、仕方ないわよね。でも私はもっとアルタさんと仲良くなりたいと思っているの。だから、これからアルタって呼んでもいい? 私のことはヴィヴィって呼んで」

「ええ! さすがにそれは――」

「この学園の原則よ。身分なんて関係ないの。ね? 名前の呼び方から変えれば、不思議と距離も縮まるものよ」

「……わかりました」

「んー、敬語もそのうちなくしてね」


 おそらくヴィヴィが考えている以上に、彼女たちにとって身分の差は大きいのだろう。

 今までに何度か寮でイジメらしきものを見かけ、割り込んだことはあるが、それからもイジメられていた子――平民出身の子とヴィヴィが仲良くなることはなかった。

 顔を合せれば、ぺこりとお辞儀をされる程度だ。

 友人と呼べる子たちはみんな貴族子女である。


(今さらだけど、学園の大原則では、みんなの心までは変えられないってことよね……)


 今も実はアルタに対して上からな態度で無理強いしてしまったような気がする。

 これからの課程説明を始めた先生の話を聞きながら、ヴィヴィは教室内を見回した。

 ざっと見てわかるだけでも、貴族子女は男子では数人――次男や三男の姿があったが、女子ではヴィヴィ一人だけ。


(これでは先生に何度も確認されたわけだわ……)


 五回生まではいつもヴィヴィはマリルとジェレミアとフェランドと過ごすことが多かった。

 ひょっとして、自分は今まで驕っていたのではないかという思いがしてくる。

 自分で得たものではない身分に。


(でも、ジェレミア君は――みんなは、私が自分で得た友人だわ)


 確かに、伯爵家出身という身分が後押ししてくれたお陰で、物怖じせずにいられたのかもしれない。

 それでも今朝、ジェレミアは感謝の言葉をくれたのだ。

 あの時の言葉を思い出すと、また勇気が湧いてきた。


(そうよ。人間関係なんて簡単に築けるものじゃないわ。これから、このクラスに馴染めるように、アルタさん――アルタとももっと親しくなれるように頑張ればいいのよ)


 ヴィヴィは強く決意して、先生の話に本気で耳を傾けた。

 そもそもこのクラスに進級したのは魔法の研究をしたいからだ。

 できれば治癒魔法を学びたい。

 それから、薬草と治癒魔法を組み合わせたりして、魔法薬なるものを開発できれば、一般の人たちだってもっと気軽に病気や怪我を治せるようになるかもしれない。

 そう考えると希望が湧いてきて、ヴィヴィはやる気がでてきた。


 お昼休みになって、アルタと一緒に食堂に向かう間、ヴィヴィはできる限り前世の自分のように振る舞ってみた。

 とはいえ、この十五年、伯爵令嬢として身についた言葉遣いや仕草を違和感ないように変えるのは難しい。

 それでも女子の共通の話題、甘いものの話にはアルタもかなり乗ってきた。

 放課後のデザートメニューの中で、一番おいしいと思うものは何かなど。


「ヴィヴィ、隣いいかしら?」

「ええ。もちろんよ、マリル」


 話が盛り上がっていたところに、マリルがリンダともう一人と一緒にやって来た。

 リンダはアルタの姿にほっとしているようだ。

 ヴィヴィが魔法科で疎外感をまだ覚えるように、リンダも家政科で居心地の悪い思いをしているのだろう。

 魔法科と違って家政科は貴族子女が大半を占めるので、平民出身者は肩身が狭いと聞いたことがある。


「ヴィヴィ、こちらは同じクラスのソニアさん。生徒会執行部員になったのよ。ソニアさん、こちらは魔法科のヴィヴィ……ヴィヴィアナさん」

「こんにちは、ソニアさん。マリル、無理しないでヴィヴィでいいから。ソニアさんも、リンダさんもヴィヴィってこれからは呼んでね」

「こ、こんにちは、ヴィヴィ……さん。ソニアです。どうか私もそのまま呼んでください」

「じゃあ、私もヴィヴィね。最初はぎこちないかもしれないけど、そのうち慣れると思うから」

「は、はい」


 どうやらソニアも平民出身らしい。

 結局は無理強いしてしまっているが、これは身分に関係なく意外と新しいクラスで友達になろうという時には、こんなぎこちないやり取りが前世でもあったことをヴィヴィは思い出した。


「それで、委員と言えば、私は何の委員にもならなかったんだけど、アルタはクラス委員長になったのよ。執行部員はドミニク君」

「やっぱりならなかったのね。家政科のクラス委員長はジゼラさんがなったわ。リンダさんは魔法祭の実行委員になったのよ」

「そうなの? マリルは?」

「私も何も。それよりも、他の三人も私のこともマリルって呼んでくれると嬉しいわ。私も呼び捨てにさせてもらっていい?」

「も、もちろん」


 ぎこちないながらも返事をしたのはアルタだった。

 その後は、ヴィヴィとマリルは三人に会話の主導権を譲り、たまに口を挟むだけにする。

 すると、徐々に五人の間に遠慮がなくなってきていた。


(うん、いい感じだわ)


 やがて食事も終わり、五人で教室に向かっていた時、前に行く三人に聞こえないようにマリルがヴィヴィにこっそり告げる。


「実はね、委員決めの時、ひと悶着あったの」

「ひと悶着?」

「ええ。ジゼラさんは自分で委員長に立候補しておきながら、次の時間になって、やっぱり執行部員がいいって言い出したのよ」

「何それ? 最低」

「でしょう? もちろん先生がもう名簿を提出したからって、却下されたけどね。ただ理由が……ジゼラさんは適当なことを言ってたけど、本当のところはジェレミア君が執行部員になったからだと思うわ」

「ジェレミア君が執行部員になったの?」

「委員長に推薦されたそうなんだけど、やるなら執行部がいいと言ったそうよ。ヴィヴィが執行部に入るつもりはなかったことは言ってなかったの?」


 ジェレミアが執行部員になったことに驚いたヴィヴィだったが、マリルの質問にも驚いた。

 だが口には出さず、素直に答える。


「言ったわよ。お茶会の時に訊かれたの。次のクラスで委員をするつもりはあるかって。だから適任者はたくさんいるから、するつもりはないって」

「……そうなんだ。あ、ちなみにフェランド君はまた実行委員らしいわ。ジェレミア君に推薦されて」


 その時のフェランドの態度が見えるようで、ヴィヴィは笑った。

 一緒にマリルも笑い、ちょっとした疑問も忘れて、ヴィヴィはマリルたちと別れ、アルタと魔法科のクラスに戻ったのだった。




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