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魔法学園57

 

 ランデルトとのデート前日。

 そのランデルトから一通の手紙が、実家に戻っていたヴィヴィの許に届けられた。

 ひょっとして、明日は急用ができて中止にしてほしいと書かれていたらどうしようと思いながら、恐る恐る手紙を読んだヴィヴィはほっと息を吐いた。

 だが次に、どういうことだろうと首を傾げる。

 手紙には、動きやすい服装で待っていてほしいとあったのだ。


「ミア、どうしよう!? 明日のお出かけには、動きやすい服装でって書いてあるわ!」

「まあ! どちらにいらっしゃる予定なのでしょうか?」

「わからないわ……。それ以外には特に……迎えにいらっしゃる時間しか書かれていないの」

「乗馬をなさるとか、何も?」

「何も」

「と、とにかく、急ぎいくつか見繕いますので、お嬢様はしばらくお待ちください」

「うん、ごめんね……」

「お嬢様が謝罪なさる必要はございませんわ。殿方というのは、いつも女性の都合など考えてくださらないのですから……。ですが、まだご連絡くださっただけ、ランデルト様は気が利いていらっしゃいます」

「そうね……」


 ヴィヴィの慌て様をミアは宥めることなく、同様に慌ててしまったが、すぐに気持ちを切り替えてできるだけ情報を引き出そうとした。

 しかし、まったく何もない。

 思わずミアは愚痴めいたことを言ってしまい、急ぎ取り繕った。


 そんなミアに気を悪くすることもなく、ヴィヴィは大きくため息を吐いた。

 ランデルトからデートに誘われた時、街へ出かけようと言われていたので、てっきりそのつもりでヴィヴィは準備を進めていたのだ。

 前回のジェレミアたちとのお出かけの時のように、目立たないように商家の娘ふうの服装でも、できるだけ可愛く見えるようにと実は大急ぎで仕立てたものを着るつもりだった。

 それが「動きやすい服装」となると、どこまでなのかがわからない。

 用意していた服装も普段のヴィヴィの装いからは十分に動きやすいものではあるが、わざわざ指定してくるくらいだ。


「乗馬するつもりなら、乗馬服を指定してくださるわよね? それとも横鞍の馬を用意してくださっているとか? ああ、それでもやはり、馬に乗られるおつもりならきっとおっしゃってくださるはず……」


 いっそのこと急ぎ使いを出し、クラーラに訊ねようかとして思いとどまった。

 きっとランデルトなら、直接訊いてほしいと思うだろう。

 だが、当日に見せて可愛いと思ってもらいたいのが乙女心である。


「お嬢様、お履物はブーツになされて、予定されていたお召し物のスカートの裾を少し縫い上げてみてはどうでしょうか? 腰のリボンも少し短めにされて、明日は解けないようにお召しになってから軽くしつけてしまいましょう」

「そうね! それはいいかも!」


 衣裳部屋から明日着る予定だった服とミドルブーツを持って出てきたミアの提案に、ヴィヴィも頷いた。

 ブーツなら動きやすく、スカートも少し丈を短くしても足が見えることはないだろう。


「それではお嬢様、一度お召しになってくださいませ。スカート丈を決めませんと」

「わかったわ。ごめんね、ミア。余計な仕事を増やしてしまって」

「何をおっしゃってるのですか。これくらい大した手間ではございませんわ」

「じゃあ、ありがとう」


 謝罪の言葉をお礼に変えると、ミアは微笑んで応えてくれた。

 それから二人でスカートの丈を決め、腰のリボンも少し短めにする。


「帽子はいるわよね? でもあまりつばの広いものは邪魔になるかしら……」

「ですが、屋外でしたら、あまり太陽に当たるのはお肌によくありませんし、つば広のほうが……風で飛ばされないようにリボンで結ばれるタイプにされてはどうでしょうか? それに、御髪はお帽子の邪魔にならないようになされたほうがよろしいですね」

「そうね。髪型は動きやすくするためにも、三つ編みでいいとおもうわ。そのほうが服にも合うし」


 ヴィヴィはミアとあれこれと明日のための相談をしてから夕食をとると、念入りに明日のためにマッサージをしてもらってベッドに入った。

 だが眠れない。

 まるで遠足前の子供のようで、わくわくすると同時に不安になるのだ。

 いつものように頭の中でランデルトと踊ったワルツを思い出すのだが、今回はますます眠れなくなってしまった。


(まさか、動きやすい服装って……踊るわけじゃないわよね?)


 一瞬、舞踏会にでもいくのかと――ランデルトなら踊る時のドレスを動きやすいと表現するのかと思ったが、さすがにそれはないかと息を吐く。

 迎えにきてくれる時間も午前中なのだから違うだろう。


(ダメだ……眠れない……)


 明日、ランデルトにくまのできた顔を見せるのは最悪である。

 寝なければと思えば思うほど眠れない。

 睡眠導入剤などといった便利なものはこの世界にはなく、あったとしても副作用が怖いので使えない。


(そういえば、この世界って魔法薬的なものってないわよね……)


 治癒魔法はあるが、ヴィヴィの前世で読んだような物語によく出てきた、魔法の草を煎じた云々というような薬は聞いたことがない。

 ただ普通に薬草が存在し、薬師がいるだけで、たいていは薬師に頼っている。

 治癒師は貴重なため、国家直属になるほどだ。


(意外と……そのあたりを研究するのもおもしろいかも。治癒魔法と薬草を組み合わせたリして……)


 なんどなくぼんやりしていた将来の目標が見えてきたような気がする。

 治癒魔法をヴィヴィが扱えるのかは別としても、やはり薬草と魔法の組み合わせは面白いかもしれない。


(ただ臨床試験が必要よね……。それって、ある意味怖い……)


 前世の製薬会社などはまずは動物実験をしていたようだが、ヴィヴィにそれができるだろうか。

 バイオハザードも怖い。

 そのあたりも本気で勉強すればどうにかなるのだろうかと考え、まずは新しい魔法を生み出す課程についても勉強しなければと決意する。


(って、ちがーう! 私は寝ないとダメなの!)


 本気で魔法薬について考え始めたヴィヴィは、眠らなければいけないことを忘れそうになっていた。

 ただどうしても、魔法薬という新しい可能性について考えてしまう。


(眠らないと、明日に影響してしまう……。ワルツはダメだったし……)


 そこでふと、先日の休みにジェレミアたちと街へ遊びに行った時のことを思い出す。

 純粋に友達と街へと行くのは楽しかった。

 フェランドもジェレミアもヴィヴィたちの知らない場所をたくさん案内してくれ、初めての経験をさせてくれたのだ。


(そうそう、あの熱帯魚ショップみたいな場所はすごく素敵だったな……)


 あの幻想的な空間に、ゆらりゆらりと色とりどりの魚が泳ぎ、聞こえるのは水中の空気の音だけ。

 頭の中には、あの観賞魚が――金魚のような赤い魚が優雅に泳ぎ、次第にリラックスできたヴィヴィは眠りについたのだった。




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