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魔法学園56

 

 卒業式が終わると、しばらく大きな行事がないため、生徒会活動もない。

 休日をジェレミアたちと楽しんだヴィヴィだったが、週明けから三日たってもランデルトと会うことはできず、少々憂鬱になっていた。

 先週から考えるともう八日も話をしていないのだ。


 一応は魔法学室から闘技場で訓練する姿を三回は眺めることができた。

 しかし、それはこっそり見ているだけなので、ある意味覗きである。

 家政科の先輩たちのように声をかけられればいいのだが、さすがにその勇気はヴィヴィにはない。

 もちろん魔法騎士科の教室に会いに行くこともできず、ランデルトが会いにきてくれることもなかった。


(これって……学園内遠距離恋愛……)


 六回生になれば、魔法科と魔法騎士科の教室は違う階だが同じ棟になるので、今よりも会える回数は増えるはずだ。

 だが、魔法科に進むからには、おそらく生徒会執行部には入れないだろう。


 もちろん希望すれば可能性はある。

 やる気だって十分だ。

 しかし、生徒会執行部やクラス委員長は魔法科や政経科では立候補者が多いらしい。

 それが卒業後の進路に直結するからだ。


 ヴィヴィなりに将来に不安を抱いてはいるが、一般出身の生徒たちのそれとは大きく違う。

 そんな彼らを押しのけてまで、やれるほどの実力があるのかといえば、ヴィヴィには自信がない。

 奨学金を得て懸命に努力をしている彼らのためにも、遠慮すべきだろう。


(そもそも、私がこのクラスで補助委員になったことが間違いなのよね……)


 始まりはジェレミアの推薦だったのだから。

 言い出せなくてもなりたかった生徒はいたはずだ。

 推薦者がフェランドならまた違った結果になっただろうが、ジェレミアはやはり特別なのだと思う。

 最近は特にカリスマ性が備わってきているとヴィヴィは感じていた。


(まあ、それで幸運にもランデルト先輩に出会えたんだから、ジェレミア君にはすごく感謝してるけど……)


 恋人同士――ではないが、父親公認の友達として、ランデルトとは生徒会を理由にしなくても会える。

 今はまだお互い慣れていないだけで。


(学生時代の付き合い初めの彼氏彼女って、こんな感じだったような気もするし、何より今週末にはデートだもの! その時にぐっと距離を縮められたらいいな)


 ただ縮め方がヴィヴィにはわからない。

 前世のように肉食系女子なんて都合のいい言葉もなく、積極的な女子ははしたないと思われる可能性が大いにあるのだ。

 実際、ランデルトの前のヴィヴィは借りてきた猫のようにとてもおとなしい。


(って、どうしよう!? 先輩が私のこと、おとなしいから好きになってくれてたのだとしたら!)


 次の授業の用意をしながら考えていたヴィヴィは、さあっと青ざめた。

 すると、その動揺に気付いたのか、ジェレミアが声をかけてくる。


「ヴィヴィアナさん、どうかした?」

「……ジェレミア君、私のここが好きってところはある?」

「は!?」


 ここぞとばかりにヴィヴィが問いかけると、ジェレミアは今までにないほど驚いた。

 そんな珍しい姿に気を取られることもなく、ヴィヴィは質問を言い換える。


「私の長所とでも言うべきところ」

「ヴィヴィアナさんの……」

「そんなに考えるほどにない?」

「おい、ヴィヴィ。いきなり訊かれてもとっさには出ないだろ。俺の長所は何だよ?」

「誰にでも気さくで明るいところ、かな?」


 呟いて黙り込むジェレミアに、ヴィヴィは不安になった。

 そこにフェランドが口を挟んできたので、すかさず答える。


「じゃあ、マリルは?」

「マリルは優しくて可愛くて素直で気遣い上手で手芸も上手くて、ちょっとドジなところ」

「多いな」

「ヴィヴィ、すごく嬉しいけど、ドジってところは長所じゃないと思う……」


 引き続きマリルのことを訊かれたので、ヴィヴィはすらすらと答えた。

 本当はもっとあるが、この辺でと止めたのに、フェランドは笑い、マリルは恥ずかしそうにしている。


「それで、ヴィヴィはジェレミアの長所はどこだと思うんだ?」

「そうね……ジェレミア君も色々とあるけど、一番は傍にいてくれると安心するところかしら」

「……安心?」


 ずっと黙ったままだったジェレミアが、自分のことを言われたからか、問い返す。

 その表情は訝しげで、ヴィヴィは言葉のチョイスを間違えたことに気付いた。

 いくら女友達に言われたとはいえ、「安心=いい人」のようで男子としては複雑な心境になるのかもしれない。


「要するに、頼りがいがあるってことなの。困った時には力になってくれるというか……。それに、たとえ根拠がないとしても、ジェレミア君に大丈夫って言ってもらえれば、大丈夫な気がするわ」

「そうか……ありがとう」

「お礼を言われるようなことは何も。本当のことだもの」


 柔らかく微笑むジェレミアに、ヴィヴィも笑って答えた。

 この一年で、ジェレミアはかなり変わったと思う。

 今まではどこか冷めていて、ヴィヴィから見て噓くさい笑みを浮かべて適当にやり過ごしていたのに、最近は誰に対しても真剣に接しているように感じていた。


「それで、ジェレミアはヴィヴィの長所は思いついたのか? 俺が思うに、ヴィヴィの長所は遠慮なくずばずばものを言うところだと思うぞ」

「それって長所なの?」

「フェランドの言い方は悪いけど、でも確かにヴィヴィアナさんは自分の意思をしっかりと持っていて、すごいと思うな」


 フェランドの言葉は褒められているように思えず、それをジェレミアが補ってくれる。

 そこにマリルも珍しく加わった。


「それにヴィヴィは、誰に対しても公平で親切だわ」

「ありがとう、みんな。なんだか照れくさいけど、自分がどういうふうに見られているかよくわかったわ。……ちなみに、おとなしい、とは思わない?」

「まったく」


 みんなの言葉は嬉しい。

 ただやはり〝おとなしい〟との評価は三人合わせてきっぱり否定されてしまった。

 予想通りの返答に気落ちしてしまったヴィヴィに、ジェレミアが問いかける。


「そもそも、どうしてそんな質問をしてきたのか知りたいんだけど?」

「それは……ランデルト先輩はどう思ってるのかなと……」

「いやいや、先輩だってさすがにヴィヴィのことを〝おとなしい〟なんて思ってるわけないって」

「そうかしら? 先輩の前だと緊張してしまって、自分の言動をよく覚えてないというか……。それで先輩が勘違いしていたらどうしようかと心配になったの」


 ヴィヴィが答えると、フェランドが笑い交じりに励ましてくれたが、それでもヴィヴィは半信半疑だった。

 前世ではヴィヴィだけでなく、友達の中にも「思ってたのと違う」との無神経な言葉で別れを切り出されたことがよくあった。

 そんな男、こちらから願い下げだと飲み会で愚痴って泣いて騒いだものだ。


 しかし、この世界では当然の如く、女性は慎ましくお淑やかな女性が好まれる。

 ヴィヴィもこの十五年間で人前での処世術は身に着けたが、やはり根本的には自己主張をはっきりとするタイプなので、一般的な男性には好まれないだろう。


「大丈夫だよ、ヴィヴィアナさん。ランデルト先輩は上辺だけ見て人を判断するような人じゃないはずだから。ヴィヴィアナさんだからこそ、先輩は惹かれたんだと思うよ」

「そ、そうかしら……?」

「うん。ヴィヴィアナさんは十分魅力的なんだから、自信を持ちなよ」

「――ありがとう、ジェレミア君」


 今度はジェレミアがはっきりと励ましてくれた。

 その言葉には説得力があり、ヴィヴィもようやく安堵して、ほっとした笑みを浮かべてお礼を口にした。

 やっぱりジェレミアは傍にいてくれると安心できる。

 ちょうど本鈴が鳴ったので、そこでおしゃべりは終了となったが、ヴィヴィの憂鬱な気分はいつの間にか晴れていたのだった。




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