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魔法学園35

 

 申し込み解禁日から二日目。

 ヴィヴィはパートナーの申し込みを受けることはなくなったが、今度はダンスを踊ってほしいと申し込まれるようになっていた。

 しかし、ランデルトとパートナーを組み、ジェレミアとも二回、ジュストとアレンとも踊る約束をしているために、これ以上は無理だと判断して断るばかりだった。


「マリルは受けているの?」

「ダンスの申し込み? みんな気が早いわよね。私は当日に誘ってくださいって言っているわ。今年の舞踏会の選曲によるから」

「ああ、それもそうよね。でもそれって実行委員で決めるんじゃないの? 生徒会ではないみたいよ」

「そういえばそうだったわ。うっかりしてた。じゃあ、苦手な曲は反対してみる」

「その意見が通ればいいわね」


 二人ともダンスはできるが、好きとまでは言えないので、できれば苦手なダンスの時は休憩したかった。

 当日はプログラムが渡されるので、何番目の曲を誰と踊るかは前もって決められるのだ。


 そして三日目になると、ダンスの申し込みもかなり減り、ヴィヴィもマリルも日常生活に戻っていた。

 同じようにダンスの申し込みはジェレミアにもあったようだが、全て断っていると噂になっている。

 またフェランドのパートナーが誰かというのも謎で、賭けの結果は舞踏会の翌日になるのかなどと一部で騒がれているらしい。


 ただヴィヴィはそんな噂よりも、もうすぐランデルトが帰ってくることが気になって落ち着かなかった。

 週明け早々、生徒会会議の予定が入っている。

 いったいどうやってランデルトに返事をすればいいのかがヴィヴィにはわからなかった。


(前世でも告白したことは数あれど、こういうシチュエーションは経験がないわ……)


 ヴィヴィは前世で肉食系女子を自称してはいたが、中学生までは告白する勇気もなく片想いで終わらせていたのだ。

 これではダメだと一念発起したのが高校に入学してから。

 イケメンの先輩をゲットするべく、自分磨きから始まり、偶然を装って話すチャンスを作ったりしたのだった。

 残念ながらその恋は実らなかったが、振られてすぐに気持ちを切り替え、イケメン同級生の彼女にはなれた。


(いくら前世の経験を覚えていても、私はまだ十四歳なのよね。今世での経験値が低すぎる……。せめてスマホがあればSNSで気軽にOKできるのに。直接会ってOKするのって恥ずかしすぎる。ああ、しかも時間経ちすぎ。まさかの冗談だったってオチは……いえ、ランデルト先輩に限ってそれはないわよね。しかも魔法騎士科は男子だけだから、この演習期間で心変わりなんてないだろうし……。いや、だから先輩はそんな軽薄な人じゃないから!)


 週末になると、ヴィヴィの脳内は焦りと緊張で混乱してしまっていた。

 あれやこれやと考えてしまい、何と返事をすればいいのかが思い浮かばない。


(でもまだ十四歳とはいえ、もうすぐ十五歳か……。この世界では十六歳で成人とみなされるから、早い子だと来年には結婚……結婚!?)


 ほとんどの生徒が卒業までいるとはいえ、お家の事情で結婚する子もいるのだ。

 もちろんヴィヴィは十八歳の卒業までいるつもりだが、ついついランデルトとの結婚を夢見てしまう。


(ランデルト先輩は二歳年上だし、私の卒業と同時に結婚するとすれば二十歳ね。魔法騎士は見習い期間が一年だから、結婚の時には正式に騎士に任命されているだろうし、贅沢をするつもりはないから、先輩の赴任先に小さな家を借りて、先輩のお給料だけで生活できるわよね。あ、でもお料理には自信がないから料理人は雇わないと。あとは魔法でどうにかなるかしらね。毎日いってらっしゃいのキスとおかえりなさいのキスでしょ。あとはあとは……って、きゃあああ! 何考えてるの! 妄想しすぎ!)


 いよいよ明日はランデルトに会えるというのに、妄想が暴走して頭が仕事しない。

 下手に前世の記憶があるだけに具体的に想像してしまい、ヴィヴィはベッドの中で恥ずかしさに悶えた。

 今のところ、前世の記憶があって便利だったのは、他人と程よい距離感を置いて付き合えていることぐらいだ。

 これまで何度となく考えたのは、前世の記憶がなければ、一夫多妻制のこの世界でも疑問に思うことなく恋をしたのだろうかということ。

 ひょっとして恵まれた立場の自分は傲慢なお嬢様に成長し、ジェレミアをジゼラと取り合っていたかもしれない。


(そう考えると、やっぱり前世の記憶があってよかったわよね。じゃないと、マリルともジェレミア君ともフェランドとも、友達にはなっていなかったはずだもの)


 三人の顔を思い浮かべれば、不思議と落ち着いてくる。

 今回の舞踏会は、ヴィヴィが今世で初めて好きになった人――ランデルトにパートナーを申し込まれ、ジェレミアが背中を押してくれているのだ。


(そうよ。私はランデルト先輩が好きなんだもの。それなのに、うだうだ悩むほうがおかしいわ)


 最近はどうにも、臆病になっていたような気がする。

 今世のヴィヴィは肉食系ではなくても、もっと前向きに生きてきたのだ。

 愛情深い家族に、支えてくれる友達、これほどに恵まれた環境にいながら、後ろ向きになるほうが間違っている。


(よし、決めた。かっこつける必要も気取る必要もないんだから。明日は素直にランデルト先輩に伝えよう!)


 そこまで考えると体もぽかぽかしてきて、ベッドに横になっていたヴィヴィは自然と眠りに落ちていた。

 それでも翌朝は緊張しながら登校した。

 会議は放課後からで、会議後に返事をしようと決めているのに、朝からどきどきが止まらない。

 マリルはもちろんのこと、ジェレミアもヴィヴィの異変には気付いていたが、その理由は十分に予想がついたので何も言わなかった。


 そして放課後――。

 生徒会執行部の中でこの一週間留守にしていたのはランデルトを含めて三人だったが、どうやら昼休みのうちにこれまでの経緯の説明を受けていたのか、会議は滞りなく進んだ。

 ランデルトとは一週間ぶりに顔を合せたのだが、会議前には挨拶さえする時間はなく、ヴィヴィはがっかりしているのかほっとしているのかわからず複雑な心境だった。


 ただ会議の間、ランデルトは厳つい顔をかすかに和ませてヴィヴィを見る。

 ヴィヴィにとってランデルトはもはや破壊神と化していた。

 一週間ぶりのランデルトの柔和な笑顔の威力は凄まじく、ヴィヴィの平常心と思考力を壊していく。

 これ以上はもう悶え死ぬと判断したヴィヴィは、ひたすら俯いて資料に目を通しているふりをした。

 するとランデルトの表情が徐々に曇っていく。


 その様子を完全にモブと化して見ていた生徒会執行部の者たちは、生暖かい視線を向けていたが二人とも気付かない。

 議長を務めるクラーラに至っては、初めて目にする幼馴染の気持ち悪い――初々しい態度に今すぐ会議を投げ出したほどだった。

 それを密かに宥め止めたのは恋人である会長のジュリオ。

 執行部の者たちの周囲には、生暖かいものから冷たい空気が漂い始め、魔法祭ももうすぐだというのに、生徒会会議はかつてないほど殺伐とした空気で終了した。

 また、普段は無駄の一切ない議事録が、この日に限ってはなぜか執行部員の様子まで、面白おかしく詳細に記録されていたのは余談である。




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