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魔法学園31

 

 今までにないほど猛ダッシュで寮へと戻ったヴィヴィは、侍女のミアに抱きついて興奮のままに先ほどのことを話した。

 するとミアは大喜びで、もう準備を始めようとして逆にヴィヴィが止めるほどだった。

 前もって舞踏会用のドレスは仕立ててもらっているのに、もう数着用意したほうが当日に選べるとミアは主張したのだ。

 ヴィヴィは今回のドレスはとても素敵に仕上がるはずだし、心配ならまだ袖を通していないドレスもあるのだから屋敷から取り寄せればいいと説得した。


 そしてミアが渋々引き下がる頃には、ヴィヴィも落ち着くことができ、ちょうど夕食の時間になっていた。

 食堂へ向かいながら、この嬉しい出来事をマリルに何て伝えようかと考えると、自然に顔がにやける。

 その時、前を行くジゼラの後姿を目にとめて、ヴィヴィは我に返った。


(そうだ。ジェレミア君はどうするのか確認しないと……)


 きっとマリルに伝えれば、ランデルトからの申し込みを優先すべきだと言うだろう。

 確かに他に好きな人がいるのにパートナーになるのは、ジェレミアに失礼だと思う。

 ただ、もしジェレミアがジゼラに好意を寄せているのなら、その気持ちを隠すためにはヴィヴィの協力が必要かもしれない。

 第三王子の叔母にあたるジゼラとジェレミアが付き合うとなると、ブルネッティ公爵の王宮での力はかなり強まる。

 またジェレミアの後見である正妃の実家――カンパニーレ公爵の怒りを買う可能性もあるのだ。


(とにかく、パートナーが決まり次第、お父さまに報告はしないと……)


 ヴィヴィも、父であるバンフィールド伯爵にはジェレミアとの関係は伝えてある。

 その時に、ヴィヴィは自由にしてかまわないと、むしろ家のことは考えなくていいので好きな相手ができれば遠慮することはないと、強く言い含められていた。

 だからヴィヴィがランデルトを選んだとすれば喜んでくれるだろう。


(私は、本当に家族に恵まれてるわ……)


 ヴィヴィは自分の幸運に、バンフィールド伯爵家に生まれることができた幸せに感謝しながら食堂へ向かった。

 前世では男運は悪かったが、家族と友達運は良かったのだ。


(今世では、男運だっていいはずだもの!)


 ランデルトのことを思い、両手を強く握る。

 そのままマリルと同じ席に着くと、わずかに悩んでから、ランデルトに誘われたことを正直に打ち明けた。


「すごいじゃない! おめでとう、ヴィヴィ!」


 マリルは自分のことのように喜んでくれたが、周囲のことを考えて、特定の名前は出さずにいてくれた。

 その気遣いに感謝しながら、ヴィヴィは声を潜めて続ける。


「ありがとう、マリル。あのね、でもまだ返事はしていないの」

「どうして?」

「それが……魔法騎士科は明日から演習で来週末まで学園を離れるんですって。先輩は期限を守らないのは卑怯だけど、自分も立候補することを知っていてほしかったっておっしゃって……。返事は待ってくださるって……」

「……さすがと言うか、何と言うか……。高潔な方ね」

「うん……」


 全てを話したわけではないが、嘘は言っていない。

 ちょっとだけ隠し事があることに後ろめたさを感じながらも、ヴィヴィは微笑んで頷いた。

 それからはどんなドレスを着るつもりかなどの話で盛り上がり、部屋へと戻ったのだった。


   * * *


 翌日の放課後。

 この日の会議は魔法祭合同会議だったため、実行委員はもちろんのこと、生徒会と各クラス委員長も集まって話し合うものだった。

 そしてヴィヴィは生徒会ということで、今回の会議では進行側であり、コの字に並べられた机の端に座り、中央に横並びにした机に座る委員たちを横から眺めていた。


(こうして見ると、みんなの様子がすごくわかるのね……)


 各クラス委員は男女それぞれ隣り合わせで座っており、何かとジゼラが話しかけ、ジェレミアが微笑んで答えている姿がよく見える。

 フェランドとマリルは隣同士だが、マリルは資料に集中していて、フェランドが周囲の女生徒たちと楽しそうに会話している中に入る気はないようだ。


 そこでヴィヴィは、昨日のランデルトへの熱視線は正面に座る三役には丸わかりだったのではないかと気付き、一人悶えた。

 おそらく会長やクラーラ、アンジェロは、ヴィヴィのランデルトへの気持ちに気付いているはずだ。


(うわー! は、恥ずかしい! やばい。それで会長もクラーラ先輩もあの生暖かい笑顔だったのかも……)


 今すぐ穴に隠れてしまいたい。

 それもできないなら、ジタバタ悶えたいくらいだがそれもできず、ヴィヴィは俯いて一人乱れた呼吸を整えるために深呼吸を繰り返した。

 今日から当分、ランデルトの姿を見ることができないのはかなり寂しいが、今に限ってはよかったと思う。

 ランデルトがいれば、この動悸が収まりそうにない。


(来週末か……)


 呼吸を整えたヴィヴィは、本来ならランデルトが座っているだろう空席をぼんやりと見つめた。

 他にも空席があるのは、魔法騎士科のクラス委員のものだ。

 ふうっと小さくため息を吐いて顔を上げると、ジェレミアとばっちり目が合ってしまった。

 すぐに会議開始の声がかかり、ジェレミアは正面を向いたが、ヴィヴィはまるで考えを見透かされていたような気がして、恥ずかしさに顔が赤くなっていた。


 それから始まった会議は昨日の打ち合わせのおかげか、思ったより早く終わることができた。

 委員たちは早々に帰っていく中で、ヴィヴィは黒板を消していく。

 執行部側の席に座りながらも、何もすることのなかったヴィヴィは、せめて片づけぐらいはしたかったのだ。


「――ヴィヴィアナさん、この後って何かまだ仕事が残ってる?」

「いいえ、これを消したら終わりよ」

 

 そこにジェレミアから声をかけられ、振り返って答えたヴィヴィは、ついジゼラを捜して視線をさまよわせた。


「ジゼラさんは先に帰ったよ」

「そう」


 それぞれ反対方向なのだから当然かもしれないが、ジゼラなら校舎を出るまで一緒にいたがったのではないかと思ったのだ。

 しかし、その考えはしっかり見抜かれていたらしい。

 ヴィヴィはそんなに自分はわかりやすかっただろうかと驚いた。

 それに比べて、最近のジェレミアは何を考えているのかさっぱりわからない。


「あ、ありがとう」

「いや、これくらい」


 二枚式になっている黒板の上段を下ろし、もう一つの黒板消しで一緒に消してくれるジェレミアにお礼を言う。

 相変わらずこういうところはスマートだなと思いつつ、ヴィヴィは素直に甘えて黒板を綺麗にすることに集中した。

 そして消し終わると、浄化魔法で手の汚れを取る。


「私、いつも思うんだけど、浄化魔法で黒板を綺麗にしたほうが早くない?」

「ああ、それ。僕も思ったんだけど、以前それをやった生徒が失敗して、黒板の表面も削ってしまったとかで禁止になったらしいよ。そもそも浄化魔法を扱える生徒も少ないしね」

「そっかー。それにしても、その生徒って怖いわね。浄化魔法の威力強すぎ」

「今は、魔法騎士の第三師団長をされてるけどね」

「第三師団って……魔物討伐専門の……」

「うん。魔物を浄化しまくってるみたい」

「適材適所だわ」


 お互い軽く笑い合って鞄を置いた机まで戻る。

 どうでもいい会話内容だったが、何だか久しぶりな気がしてヴィヴィは嬉しくなっていた。

 会議室内は片づけをしていた執行部の生徒もいなくなっており、二人きりの状況はまるで昨日のようだ。

 そう気付いた途端、ジェレミアに声をかけられたのは舞踏会の話だと思い当り、ヴィヴィは一気に緊張してしまった。


「……そんなに身構えなくても大丈夫だよ。例年の如く、舞踏会のパートナーの話だから」

「ええ、そうね……」


 同意しながらもうろたえるヴィヴィを見て、ジェレミアは苦笑しながら続ける。


「もう僕たちも五回生だからね。そろそろお互い将来を見据えたほうがいい。だから、僕に気を使わなくていいよ。ヴィヴィアナさんは好きな相手とパートナーを組めばいいんだ」


 予想はしていたのに予想外の言葉に、ヴィヴィはぽかんと口を開けることしかできなかったのだった。





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