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フェランド2

 

 ジェレミアとヴィヴィの二人を楽しく観察しているうちに、気がつけば四年が経っていた。

 先日、進級を前にした長期休みで実家に帰った時、父上からジェレミアに仕えるのかと問われた。

 四年も俺がジェレミアにつきまとっているために判断を下したと、父上は思ったのだろう。


 俺の答えは「まだわからない」だった。

 確かに、ジェレミアは王としての素質は十分で立派な王になると思う。

 それでも妃に誰を選ぶのか――選べるのかで、俺は仕えるべきかどうか判断するつもりだ。

 だから、父上には他の王子にも会ってみたいと伝えた。

 しかし――。


(何だ、あれは?)


 それは俺の第二王子に対する感想だった。

 入寮当初のジェレミアより酷い。かなり酷い。

 何をどう勘違いしているのか、第二王子は将来の腹心になるであろうボンガスト侯爵家のダミアーノを従え――いや、唆されていばり散らしている。


(どうしようもねえな……)


 そう思いながらも俺はしばらく放置することにした。

 ジェレミアに至っては、いっさい関知しようとしない。

 それで正解だろう。

 第二王子たちの言動に気付いてはいるようだが、ここでしゃしゃり出ても後見人同士の醜い争いに発展する可能性が大きい。

 ここは生徒会に任せておけば間違いないはずだ。


 ただ俺たちももう五回生になるのだから、そろそろ動いてもらわないと困る。

 色々な意味で。

 そこで、例年の如く魅了魔法でちょっとばかり先生にお願いして、俺たちを同じクラスにしてもらっていたが、もうひと押し。

 ジェレミアがどれだけの心積もりがあるのか判断するために、委員長に無理やり推薦した。

 意趣返しに俺まで魔法祭の実行委員にされるとは失敗だったが。


 さらにはマリルまで巻き込んだのは、俺も調子に乗りすぎていた。

 とある女の子から聞いた話では、マリルは俺のせいでブルネッティ公爵令嬢のジゼラたちに絡まれてしまったらしい。

 そこはヴィヴィが助けに入ったようだが、完全に俺の落ち度だ。


 ジゼラに関しては俺に惹かれるものはあっても、それ以上に権力志向が強く、ジェレミアに狙いを定めている。

 魅了魔法を使えばさすがに効果はあるだろうが、彼女には興味がないのでするつもりはない。

 あれはジェレミアがどうにかすればいい問題だ。

 ジゼラはヴィヴィにかなりの対抗心を燃やしているが、ヴィヴィが相手にしないためにマリルが標的にされたのだろう。


(ジゼラといつも一緒にいる女子――赤毛の子が俺に熱を上げているようだが、それでいて消極的というか、俺にどうにかしろと視線ばかり向けてくるんだよな……)


 そういうのは正直に言って鬱陶しい。

 積極的に動くわけでもないのに、受け身で待っているだけの人間はつまらないだけだ。

 今回のことだって、おそらくジゼラ主導で行ったのだろう。

 だから名前を覚える価値もない。


 同じ動くつもりがなくても、マリルとは違う。

 マリルはおそらく俺の本性を見抜いた上で、俺を選ばないと決めたのだと思う。

 賢い女性は好きだ。

 だから俺はこれ以上マリルに迷惑をかけないように、ちょっとばかり手を回すことにした。


 しかし、俺よりも酷い失敗をしたのは、ジェレミアだ。

 あんな顔をするくらいなら、早くに何らかの手を打つべきだったんだよ。

 ヴィヴィの周囲に男どもが近寄らないように牽制するだけでなく、気持ちを打ち明けることまではできなくても、もっと好意を見せるくらいはすればよかったんだ。


 ヴィヴィは生徒会補助委員だからか、第二王子たちの横暴に何らかの形で関わってしまったらしい。

 しかも、いったい何をしたのか、第二王子は――ジュストはすっかりおとなしくなり、さらにはヴィヴィに関してジェレミアに宣戦布告したのだ。

 自分の欲しいものを欲しいと言い、そのために動くジュストはなかなか見込みがある。


 交流会のダンスでは、ヴィヴィはジュストとファーストダンスを踊ったばかりか、被害者であった一回生――アレンとも踊った。

 何かと敏いヴィヴィも、このことに関しては鈍すぎる。


 会場がざわめく中、ジェレミアはヴィヴィに気を取られすぎて、一緒に踊るジゼラの動きを察するのが遅れたようだ。

 足を引っ掛けられそうになったアレンが転ばないようにと急ぎ庇ったせいで、逆にヴィヴィにぶつかり睨まれてしまうなど、間抜け以外の何なんだよ。

 近くで踊っている俺でさえ、ジゼラの悪意には勘づいたのに。


 そしてラストダンス。

 ヴィヴィに好きなやつができたのは、気付いていた。

 それがまさかランデルト先輩だったとは。

 今のヴィヴィの表情を見れば、誰だってわかるだろう。


 以前、俺はヴィヴィに理想の男性像なんて馬鹿な質問をしたことがある。

 ヴィヴィは迷うことなく「誠実で心が強く、優しい人」と答えた。

 確かにランデルト先輩はヴィヴィの理想にぴったりだ。


(ほんと、馬鹿なやつ……)


 敢えて見ないように目を逸らすなんて。

 今踊っているパートナー以外に目を向けるのはマナー違反だが、すでに心ここにあらずなら似たようなものだろう。


 だから俺は、やっぱり思う。

 積極的に動くわけでもないのに、受け身で待っているだけの人間はつまらないだけだ。

 俺もジェレミアも、どうしようもない。

 身動きすらできないこの状況は、自業自得なんだろうな。




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