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フェランド1

 

 入学前に父から強く言い含められていたのは、近づいてくる人物をよく見極めろということだった。

 その上で、どう付き合うかはお前に任せると。

 ただし、ジェレミア・インタルア――第一王子殿下だけは、自分から近づくようにと命じられた。

 そして判断を下せと。

 バレッツ侯爵家が仕えるに値する人物かどうかを。


「いいか、フェランド。もし殿下からお前に近づいてくるようなら、陛下はジェレミア殿下を後継に選ばれたということだ。好む好まざるに関係なく、義務を果たせ。もし殿下が何もご存じないようならば、お前の態度次第で陛下のお心が決まるやもしれん。よく考えて行動しなさい」

「わかりました、父上」


 バレッツ侯爵家の後継者として自信を持って返事をした俺は、入学三日前に入寮すると、すでに入寮していた第一王子を食堂で見かけ、さっそく挨拶をした。

 ところが返ってきたのは完全なる無視。

 いや、無視だから返ってきてもいないのか。視線さえもよこさなかったからな。


 それから三日間、観察を続けた結果、俺は早々に判断を下した。

 この王子はダメだ。

 俺が――次代のバレッツ侯爵が仕えるには値しないと。

 だからといって、第二王子や第三王子に王としての素質はあるのだろうか。


 現国王陛下は父上からの真の忠誠心を引き出していない。

 父上にあるのは国家への忠誠心だけだ。

 その理由は何となく思い当る。


 陛下のお妃様たちは仲が悪いと聞く。

 確かに国を平和に治めてはおられるが、ご自身のお妃様たちを制御できないようでは未熟としか言い様がない。

 お妃様たちの争いは国の争いにも発展しかねないのだから。


 そう考えれば、父上の忠誠を得られなくて当然なのだろう。

 俺の母上たちはとても仲が良く、それが父上の自慢でもある。

 妻が八人いる父上は、きちんとその素質を見抜いて女性たちを選び、さらに皆に気を配ることで今の状態を保っているのだ。

 だがそれも、父上だから――バレッツ侯爵だからできるだけかもしれない。

 バレッツ侯爵家の秘密の能力によって。


 おそらく他の上級貴族にも、全てとまではいかなくても有しているだろう秘密の能力。

 魔法使いたちが己の真の力を隠すように、貴族たちもそれぞれ切り札として隠しているはずだ。

 そして、バレッツの血統を継ぐ者以外にこの秘密を知っているのは、国王陛下のみ。

 だから、第一王子の俺に対する態度は、陛下から秘密を聞かされていない――要するにまだ後継者として認められていないということだ。


 王になるのならば、バレッツ侯爵家の能力は絶対に手に入れたいはずである。

 なぜならバレッツ侯爵家は魅了魔法を扱える能力を有しており、この力を使えば反抗的な家臣も服従させることができるからだ。

 ただし、この能力には縛りがある。


 第一の縛りは王族には効果がないこと。

 これは当然だが、たまに王族以外でも効かない相手がいる。

 そしてこの能力を取り入れようと王がバレッツ家の娘を娶っても受け継がれることはない。


 第二の縛りは子が生まれ難いこと。

 そのため、どうしても妻を何人も娶らなければならない。

 とは言っても、父上に限ってはただ単に女性が好きなんだと思う。

 過去に妻を八人も娶った先祖はいなかったはずだ。

 確か、多くても五人だったような気がする。

 そして八人の妻がいても、俺の兄弟は妹一人に最近生まれた弟が一人。


 魔力の強さはまだ二人ともわからないが、俺に関しては申し分ないらしい。

 それは自分でもわかっている。

 使う気もないのに漏れ出ているのか、たいていのやつは俺に引き寄せられるからだ。


(そう考えれば、第一王子は間違いなく王家直系だよな……)


 相変わらず一人で食事をしていた王子を思い出し、俺はベッドに横になってため息を吐いた。

 明日からいよいよ学園生活が始まる。

 第一王子があれでは、第二王子に期待するしかないが、あと四年待たなければならないのだから憂鬱だ。


 これが第三の縛り。

 バレッツ侯爵家は王国に忠誠を誓っている。

 そのために、自分たちが王家に成り代わろうなどという気はいっさい起こらない。

 それどころか、忠誠を誓える王家の誰かが現れることを待ち望んでいるのだ。

 おそらくこの能力を手に入れるにあたり、何かが先祖にあったのだろうが、興味がない。


(まあ、魅了魔法なんて、一歩間違えれば国家転覆、世界制覇もできるもんな。神様もよく考えたっていうか、そもそもこんな能力なんて必要なかったんじゃね?)


 そんなことを考え、ごろりと寝返りを打って目を閉じる。

 そして俺は、明日から始まる学園生活を面倒に感じながら眠りに落ちていった。


 しかし、目を覚ました俺は、かなり驚くことになった。

 正確には、侍従に無理やりベッドから引きはがされ、嫌々登校し、第一王子と同じクラスになったことを知っても大した感慨もなく教室に入った瞬間からだが。


(……誰だ、あれ?)


 俺が目にしたのは、昨日までほとんど誰とも話すこともなかった不愛想な第一王子の笑顔。

 数人の生徒に囲まれて、にこやかに微笑んでいる。


(いやいやいや、あり得ないだろ?)


 寮では俺だけでなく、他の生徒にも同様に無視していたのだ。

 しかも先輩にまで。

 この学園の大原則に反する行為に、さすがに王子でもまずいだろうと、俺は情けなさに落胆したのに。


(まさか、女子に気に入られたくてしているのか?)


 それはあまりにも愚策だと思ったが、それから数日観察して、俺の予想がまさかの正解だったと知った。

 一つ予想外だったのは、不特定多数の女子ではなく、たった一人の女子のためだけに自分を変えたらしいということだ。


(くそっ、初日にもっと早く登校すればよかった……)


 いったい何があったのかをすげえ知りたい。

 早く登校しただろう真面目タイプのクラスメイトに訊いても、わからないという答え。

 ただ確かなのは、第一王子がその一人の女子と何か言い合っていたらしいこと。


 その理由が知りたいあまり、本当は成人するまで使う気のなかった魅了魔法を彼女に放った。

 それなのに彼女は――バンフィールド伯爵家のヴィヴィアナには魔法が効かなかった。

 まさか彼女が魅了魔法を無効化できる数少ない人物とは、面白すぎる。


 それからは、スタンプラリーでも何でも、迷惑がられても二人につきまとった。

 そしてさらに気付いたのは、第一王子は――ジェレミアは彼女を意識しているのに、彼女にはまったくその気がないらしいこと。

 まだ恋と呼ぶには早いとは思うが、ジェレミアが落ちるのも時間の問題だろう。

 その時、ヴィヴィはどうするのだろうか。

 やはり面白すぎる。




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