魔法学園3
無事に入寮を果たしたヴィヴィは、最上級生である八回生の先輩に案内されて、校舎へと向かっていた。
いよいよ今日は入学式である。
この学園では一回生がまだ幼いということで、同性の八回生が一回生の学園での生活を何かと面倒見てくれるのだ。
基本的に一対一だが、八回生の人数が足りない時は一対二になることもあるらしい。
今年は八回生のほうが人数も多く、面倒をみる一回生を持たない八回生もいるようだった。
今のところ、前世での社会人スキルというものは何となくだが思い出せるので、八回生に話しかけられても臆することなく答えられている。
パートナーの先輩は「明るい子で嬉しいわ」なんて言うが、これも全てヴィヴィの前世の記憶を駆使して、受け答えしているのだ。
「じゃあ、ここがヴィヴィの教室よ。私の案内はここまでだから、教室に入ってまずあの演台の上にある箱からくじを引いて、黒板に書かれた座席の割り当て表を見て席に着いてね」
「はい、わかりました。先輩、ありがとうございました」
「どういたしまして。では、いい席に当たるといいわね」
先輩は生徒会役員でもあるらしく、式の準備のためにヴィヴィがくじを引くのを見届けることなく行ってしまった。
おそらく、ヴィヴィの受け答えから大丈夫だと判断したのだろう。
先輩の都合で他の生徒たちより早めに寮を出たので、廊下側の窓から見た教室内はかなり空席が多かった。
教室の造りは基本的に前世と同じなのに、前世での教室のような無機質な感じがしないのは石材と木材を組み合わせてできているからかもしれない。
(できれば後ろのほうで、四方に生徒がいればいいな……)
前後左右に生徒がいれば、誰か一人くらいとは話ができるだろう。
そう考え、ヴィヴィはどきどきしながら前のドアから入り、演台の上の箱に手を入れた。
これで最初の自分の立ち位置がある意味決まる。
掴んで持ち上げた紙は糊のようなもので閉じられていた。
それをぺりぺりとめくって開くと、書かれていたのは数字の二十四。
黒板で確認すれば、前から四番目の窓際から二番目。
(やった!)
クラス人数三十人のため、机は六列に配置されており、前後左右に生徒がいることは確保できた。
うきうきしながら、黒板から自分の席へと視線を移すと、窓際の席――ヴィヴィの左側の席にはもうすでに誰かが座っていた。
一人で座っていることから、まだ友達はいないのかもしれない。
(というか、すごい……。王子様みたい)
窓際に座る男子は頬杖をついて外を見ているのだが、差し込む光にキラキラと金色の髪の毛が輝き、綺麗な目鼻立ちが陰影を作っており、一つの芸術品のようだった。
うっかり見とれてしまってから、慌ててヴィヴィは自分の席へと向かい、机の上に鞄を置いた。
しかし、彼がこちらを振り向くことはない。
「あの、よろしくね? 私、ヴィヴィアナ・バンフィールドよ」
先ほどよりもどきどきしながら、それでも堂々とヴィヴィは挨拶をした。
しかし、彼は窓の外を眺めたままで振り向きもしない。
聞こえなかったのかと思ったヴィヴィは、先ほどよりも大きな声を出した。
「ねえ、聞こえてる? 私、隣の席になったヴィヴィアナ・バンフィールド。よろしくね?」
すると金髪の彼は、今度はちらりとヴィヴィを見たが、また外へと目を向けた。
これにはさすがにヴィヴィもカチンときてしまった。
前世の記憶があろうとも、所詮は十歳の女の子。
意地になったヴィヴィは彼の前の席にどすんと座り、ぐいっと身を乗り出して彼の顔をじっと見つめる。
「ねえ、あなたの名前は? ご両親か家庭教師に教わらなかったの? 挨拶されたら、きちんと挨拶を返しましょうって。無視するとか、どれだけ失礼かわかってる? そして、あなたがそんな態度だと、ご家族に迷惑がかかるってわからないの?」
「……ジェレミアだ」
「ジェレミア、何?」
「ジェレミア・インタルアだ。お前なんかと馴れ合うつもりはない」
「あら、失礼ね。ジェレミア・インタルア君。……ん? インタルアってこの国の名前じゃない!」
「……そうだな」
「ってことは、あなたって王族なの?」
「……第一王子だ」
「って、本物か!」
「は?」
「あ、いえ。何でもないわ」
王子様みたいだと思ったら本物だった。
それで思わず自分に突っ込んでしまったヴィヴィだったが、本物の王子様だからといって彼の態度は許せない。
馴れ合うつもりはないなどと失礼極まりないではないか。
前世の社会人スキル――スルースキルを発揮することなく、ヴィヴィは王子様に向けてにっこり笑顔を向けた。