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魔法学園23

 

 あらかたの案が決まったところで、会長が部屋に入ってきた。

 生徒会室にはクラーラとアンジェロ、他に何人かの執行部員がおり、作業をしていたが、会長が一人ではないことに全員の注目が集まる。


「あー、みんなそのまま作業を続けて。三役とヴィヴィアナさんはちょっとこっちに来てくれるかな」


 生徒会顧問の先生の言葉に、ヴィヴィアナとランデルト、クラーラとアンジェロは立ち上がった。

 他の者たちはさっさと作業に戻る。

 ヴィヴィアナまで呼ばれたことに興味はあるようだが、自分たちの関係しないことにこだわるより目の前の仕事といった雰囲気だ。


(さすが執行部の人たちね……)


 ヴィヴィはランデルトの後ろについていきながら感心していた。

 だが、やはりこの中に自分が入っていることが腑に落ちない。


(来年は抜けられるかな……。こういうのはジェレミア君のほうが絶対にはまっているのに)


 今まで皆が遠慮してジェレミアを委員長に推すことはなかったが、今年なったからには来年もまず間違いなく委員長になるだろう。

 それどころか、生徒会に推薦されるような気がする。


 おそらくこれから昨日の詳細を聴かれるのだろうが、ヴィヴィはそんなどうでもいいことを考えていた。

 そして案内されたのは会議室とは反対側にある部屋。

 どうやら応接室のようで、詰めれば六、七人は座れそうな大きな応接セットがあった。

 長椅子にはすでに二人の先生――生徒指導部の先生が座っており、ヴィヴィたちが入ると立ち上がる。


 ヴィヴィはその向かいの肘掛椅子を勧められ、クラーラが隣に座り、斜向かいの席には生徒会の先生が、もう片側には会長が座った。

 ランデルトは折り畳み式の椅子を会長とクラーラの席の間に置き、もう一つをヴィヴィと先生の間に置いて座る。

 アンジェロは部屋の隅にあるパーテーションの奥に入ってしまった。

 何か物音が聞こえるのは、どうやら飲み物を用意してくれているらしい。


 そこからは、先生たちが簡単な自己紹介を終え、本題に入った。

 ヴィヴィは昨日、ランデルトに説明した通りのことを伝え、さらにその後にジュストたちに学園の大原則について説教をしてしまったことまで話した。

 もちろん、あの嫌味な言い方は誤魔化し、最後にランデルトが来てくれて、その場を収めることができたのだと告げて締めくくる。

 その間、先生も会長たちもほとんど口を挟むことなく聞いてくれていた。


「うむ。昨日、ランデルト君から聞いた話とほとんど相違ないな。医務のロベルト先生からアレン君の診断書も出ている。暴力は許しがたき行為であり、やはりジュスト君たち四人には厳罰が必要だな」

「そうですね。ただまだ入学して間もない。そのあたりを考慮して……早朝の寮内掃除と放課後の教室掃除を担当させてはどうでしょうか?」

「期間は?」

「ひと月では甘いですよね。やはりここは三か月としましょう」

「では、彼らの世話役――確か、ジュリオ君もそうだったね?」

「はい」

「うむ。では、君たちも同様に彼らの掃除を手伝ってあげたまえ。我々はどうする?」

「同じく三か月の減給――二割ではどうでしょうか?」

「よし、それで学園長には報告しようか」


 ヴィヴィの説明が終わると始まった、先生同士の話し合い。

 その内容にヴィヴィは呆気に取られていた。

 加害者であるジュストたち四人が処罰を受けるのはわかる。

 だがそれだけでなく、世話役となっているジュリオ――会長たち八回生どころか、生徒指導部の先生方も処罰を受けるというのだ。

 いわゆる監督不行き届きというものなのだろうが、自分たちの処分を淡々と決めていくことに、ヴィヴィは驚きを隠せなかった。

 それと同時に、この学園に対して――学園の生徒であることがヴィヴィは誇らしくなっていた。


 その後はまた作業に戻り、原案を作り上げていく。

 北棟校舎を使っていた時は、ポイントは一階と二階に二か所あったのだが、今回はヴィヴィの提案通り一番奥の第二音楽室だけになったので、台紙は一か所をイラストで埋めて印刷することになった。

 ちなみにこの世界の印刷技術は複製魔法を応用したものである。

 クイズは四年前――ヴィヴィが一回生の時のものに変更を加えることにした。


「すごいな、ヴィヴィアナ君。まさか、もう片付くなんて……。見事な手際だよ」

「い、いえ……。こういうのは得意なので……」

「だから、それがすごいんだよ。ヴィヴィアナ君がスタンプラリーに立候補してくれて、本当に助かった。ありがとう」

「ど、どういたしまして?」

「そこはもっと堂々と言わないと!」


 OL時代に身に着いた仕事の要領でさくさく片付けただけなのだが、ランデルトはとても感心して褒めてくれる。

 謙遜しすぎても逆に失礼になると思い、素直に受け取ることにしたのだが、自信のない返答がランデルトのツボに入ったらしい。

 大声で笑い出し、会長から紙くずが飛んできた。


「うるさい、ランデルト。ヴィヴィアナ君がびっくりしてるだろう」

「ジュリオ、仕事が片付かないからって八つ当たりするなよ」


 そこからちょっとした口ゲンカが始まり、クラーラの一喝で終わった。

 アンジェロはくすくす笑っているだけで、他の執行部員は黙々と作業を続けている。

 どうやら日常の風景らしい。

 つい先ほどまで生徒会に抱いていた高潔なイメージが崩れていく。

 それでもヴィヴィはランデルトの新たな一面を知ることができて、また生徒会役員に対して親しみが持てたことで、とても満足していたのだった。





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