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魔法学園2

 

 この世界には魔法がある。

 そう考えた時、ヴィヴィは「この世界?」と疑問に思ったことを今でも覚えていた。

 成長するにつれて、自分には前世の記憶があって、その世界には魔法は物語だけの中にしか存在しなかったことに気がついたのだ。

 ただ、魔法のような科学が発達していて、魔力のない誰もが普通に便利な道具を使っていたことは羨ましいと思った。


「はあ、大丈夫かなあ」

「お嬢様のことですもの。きっと上手くなさるに決まってます」

「そうね。ありがとう、ミア」


 学園に向かう馬車に揺られながら、ため息交じりに弱音を吐きだすと、向かいに座った侍女のミアが励ましてくれた。

 貴族の子弟が多く通う王立魔法学園は全寮制のため、世話係を一人連れていくことができる。

 ミアは平民の出身でありながら魔力がそれなりに強く、生活に困らない魔法――明かりを灯したり、火を点けたり、簡単な浄化が行えたりとできたために、こうしてヴィヴィに侍女として付き添うために雇われたのだった。


 魔法とはやはり便利なもので、より強力な魔法が使える者――魔力の強い者が重宝される。

 この世界の摂理としては当然であり、各国の王家の者たちを筆頭に、貴族はとても強い魔力を有しているのだ。

 しかし、稀に平民でも強い魔力を有する者もいて、その才能を伸ばすためにも魔力の成長期である十一歳になる年齢から八年間、学園に通うことになるのだった。

 ちなみに魔力の潜在能力はだいたい八歳くらいまでにはわかるらしい。

 平民で魔力が強い子供は、その地域を治める領主から推薦され学園に入学する。

 その場合、学園にかかる費用は領主が支払い、無事に卒業を果たすと、推薦してくれた領主に仕えることになるらしい。


(要するに奨学金のようなものね。もちろん、悪徳領主にこき使われないように、そのあたりは原則に国が定めている決まりがあるみたいだし、特に優秀な人材はお城勤めとなるため、国が学費を立て替えることになるとか……。結局、どこの世界も学歴社会っていうか、魔力社会っていうか、大変だわ。ただ女子にはもう一つの選択肢もあるのよね……)


 名門伯爵家出身で奨学金など必要のないヴィヴィが不安を抱くには理由があった。

 なぜわざわざ成長期の、言い換えれば年頃の男女を同じ学園に通わせて魔法や学問を学ばせる必要があるのか。

 それは、ぶっちゃけて言うならば、学園が大型婚活センターのようなものだからである。


 魔力には相性があり、相性の合わない者が婚姻関係を結べば、子供が生まれ難く、生まれても魔力が弱い場合が多いのだ。

 そのため、ヴィヴィの前世で知っていたような上流階級の人間には幼い頃から婚約者がいる――なんてことはなく、この学園で魔力の相性の良い、なおかつ家柄が相応しい相手を見つけなければならない。


(そもそも相性がいいって言い方は、かなりオブラートに包んでるけど、要するに好きか嫌いかって、恋愛感情なのよね。特に女性側の気持ちが大きく関わるとかで、好きでもない人と無理に結婚させられる心配がないのはありがたいけど……)


 ヴィヴィがあまり乗り気でないのは、この国では一夫多妻制ではあるからだ。

 そして、平民の母親から生まれた子供でも嫡出子となるので、身分ある男性は魔力の強い平民女性も妻にしたりする。

 もちろん女性の気持ち次第だが。

 これが、魔法学園に入学できるほどの魔力を持った平民女性のもう一つの選択肢なのだ。


 要するに、モテる男性を好きになろうものなら、苦労は目に見えていた。

 しかも、ヴィヴィの前世を考えれば、ますます気が重くなる。

 ここ最近、前世での自分をよく思い出すのだが、どうにも男運が悪かったらしい。

 おそらくイケメン好きが災いしたのだろう。

 さらに今のヴィヴィは、顔は並みの上といったところで、学力魔力ともに貴族としては平均。

 幸い仲の良い両親と、兄二人は可愛いと誉めそやしてくれるが、前世の自分が冷静に分析してくるのだ。

 いや、調子に乗るなよ。それ、身内のひいき目だから。と。

 そのため、運命的な恋などは期待していない。


「今日は入寮して、学園が始まるのは明後日からだったわよね?」

「はい、ヴィヴィ様。ですが、お嬢様のお部屋は一昨日に私が参りまして、用意を整えておりますので、到着次第おくつろぎいただけると思います」

「ありがとう、ミア。本当に、あなたがいなかったら、私って何もできないわね」

「まあ、そのようなことは決してございません。お嬢様は私がお傍にいなくても何でもおできになりますもの。初めの頃は、必要ないと解雇されるのではないかと、私は恐れていたものです」

「そうなの?」

「はい」


 幼い頃の自分は人に世話をされるということに違和感を覚え始めていたために、何とか自分でしようと頑張っていたことがある。

 そのために使用人たちを困らせ、両親に怒られたのだが、ミアにそのような思いをさせていたなんて気付きもしなかった。


「それは……ごめん。でも、絶対にミアを解雇したりなんてしないからね! ずっと……ミアが結婚するまでは傍にいてね?」

「そのような有り難いお言葉を頂けるなんて……ありがとうございます。ですが、仮に私が結婚することがありましても、お嬢様のお傍を離れるつもりはございませんのでこの先もどうぞよろしくお願いいたします」

「えっと……うん、わかった。ミアが満足いくまで私の傍にいてね」

「はい」


 にこにこと笑うミアを見て、ヴィヴィも微笑んだ。

 正直なところ、ミアにはずっと傍にいてほしいが、きっと結婚すれば――子供ができればやめてしまうだろう。

 前世でも新人の女の子が「仕事一筋に頑張ります!」なんて言いながら、あっさり寿退社していく姿を何度も見ていたのだ。

 別にミアを疑っているわけではなく、今は一番に自分のことを考えてくれていることはヴィヴィにもわかっていた。

 ただ恋とは人を変えてしまう。

 いつかミアの一番が自分から、恋人に変わってしまうことを思えば、ヴィヴィはちょっとだけ寂しい気持ちになってしまった。


「お嬢様、どうやら学園に到着したようでございます」


 ミアの声に我に返れば、確かに馬車は止まっていた。

 車窓から様子見をしたミアの声に促されて、ヴィヴィも外を見ようとした時、再び馬車が動き始める。

 どうやら校門で一度止まっていたらしい。

 動く馬車の中でまだ子供であるヴィヴィが外を覗くのは大変だったが、ミアに助けられて車窓から顔を覗かせる。

 そして見えたのは、まるでギリシャ神殿のような荘厳な造りの正面玄関らしい場所とその背後にそびえるお城のような建物。

 ヴィヴィを溺愛する両親や兄からは、気に入る人がいなければ結婚相手なんて見つけなくていいとは言われている。

 それでも、これから待ち受ける学園生活を思うと緊張せずにはいられなかった。




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