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魔法学園14

 

 急いで会議室に向かっていたヴィヴィは、会議室が見えてきたところでゆっくりとした歩きに変えた。

 走っているところを見られるのも、息が切れているのも恥ずかしいからだ。

 呼吸を整えながら歩き、開いたままのドアから会議室に入る。

 どうやら早く来すぎてしまったようだが、ランデルトはすでに来ており、一人で資料を各机に配っていた。

 これはチャンスである。


「せ、先輩、あの、手伝います」

「ん? ああ、ヴィヴィアナ君か。ありがとう、助かるよ」

「いえ……」

「じゃあ、これをあちらの机に配っていってくれるかな?」

「はい」


 ランデルトは持っていた書類の半分をヴィヴィに渡した。

 それを受け取ったヴィヴィは指示された通り、ランデルトがいる机とは別の机の列へと向かいながら、顔がにやけそうになるのを必死に我慢していた。

 話ができただけでなく、名前を覚えてくれていたのだ。

 それだけでもうガッツポーズものである。


 この気持ちを今すぐ誰かに伝えたいが、ぐっと堪えて書類を名札の置いてある場所へと配っていく。

 その時、書類の内容がふと目に入った。

 どうやら新入生歓迎交流会で生徒会は役割分担を決めて動くらしい。


(これは……絶対に先輩と同じ役割にならなければ!)


 生徒会長は代表挨拶などあり、また柔軟に動けるように特に役割はないことになっている。

 副会長は……と配布する最後の冊子に目を通そうとしたところで、ランデルトに声をかけられた。


「ありがとう、ヴィヴィアナ君。もう大丈夫だから、席に着いてくれ」

「は、はい!」


 勢い余ってバンッと書類を机に置いてしまったヴィヴィは真っ赤になった。

 これでは落ち着きがない、はしたないと思われてしまう。

 ヴィヴィは恐る恐るランデルトを窺ったが、気にしていないのかさっさと自分の席に戻っていってしまった。

 ちらほらと他の生徒もやって来ている。


(ちょっと自意識過剰だったみたい……)


 何とも思われていないことにがっかりしながら、ヴィヴィはすごすごと自分の席に着いた。

 考えてみれば、顔見知りの多い生徒会メンバーの中で、新しく補助委員として入ったのはヴィヴィを入れて三人。

 名前も覚えられて当然である。

 自分の馬鹿さ加減にテンションが下がりつつ、ヴィヴィは書類をじっくり読んだ。――役割分担についての箇所を。


(あ、副会長は役割分担の中に入るんだ。しかも、役員同士一緒にならないようになってるみたい)


 生徒会の仕事が初めてになる補助委員同士も固まらないように配慮しているようだ。

 ヴィヴィは入ってきたばかりのクラーラと仲良く話し始めたランデルトを見た。


(あの二人、仲良いなあ……。でも家柄的に釣り合わないし、ひょっとしてそれで隠してるとか? またロミジュリ? いや、でも相性を理由にすれば、結婚できないわけじゃないし……)


 名門伯爵家の娘であるヴィヴィと、伯爵家とはいえ四男のランデルトとでも、あまり歓迎はされないのだが、ヴィヴィは自分についてはすっかり抜けていた。

 さらにはいつもの観察力もどこかで抜け落ちてしまったらしい。


(こちらには少なくとも二年分のハンデがあるんだもの。手段は選んでいられないわ。だからクラーラ先輩、ごめんなさい。私、ランデルト先輩と同じ役割分担になります!)


 勝手にクラーラをライバル認定して、役割決めの時間まで虎視眈々と獲物を――ランデルトと同じ役割を狙っていた。

 生徒会長以外の役員――特に三役は固まらないように副会長二人と書記一人が先に役割が決まる。

 そして後は立候補でとなった時に、ヴィヴィはすかさず手を上げた。

 それはもう早押しクイズ王もかるた女王も真っ青の反射神経で。


「私、五回生二組のヴィヴィアナですが、スタンプラリーを担当したいです!」

「え、いいの? ランデルトと一緒だよ?」

「は、はい!」

「おい、会長。俺のどこが悪い?」

「その態度だよ。ほら、そうやって凄むところ。とにかく、ヴィヴィアナ君は本当にいいの?」

「わ、私は、好きなので! くっ、クイズが!」


 意外そうな会長の問いかけに、思わず本音を漏らしそうになってしまったヴィヴィは真っ赤になった。

 それでもランデルトの新しい一面を見ることができて嬉しくなる。


「そうか。なら他に立候補者はいるかな? いないよねえ? じゃあ、スタンプラリーはランデルトとヴィヴィアナ君で決まりね」


 クイズが好きだと上手く誤魔化せたことにほっとする。

 そして他に立候補者がいなかったことで、あっさりヴィヴィはランデルトと組むことになった。


 スタンプラリーとは、新入生がまだ慣れない学園内を早く覚えられるようにと、スタンプ箇所を設けて学内を回るのだ。

 次のスタンプ箇所に行くためにはクイズを解かなければたどり着けない。

 ちなみに二回生も迷った一回生を助けるという名目で一緒に参加するので、二年連続で同じクイズは使えないのである。


 それから他の役割に次々と立候補が上がっていった。

 クラーラや書記のアンジェロが担当になっている役割は、熾烈な争いが繰り広げられているのだが、浮かれているヴィヴィは気付いていない。


(これから、放課後に残って一緒にクイズ考えたりするのかな? ああ、どうしよう……。初めての共同作業……)


 すっかり頭がお花畑なまま寮へ帰ったヴィヴィは、どれだけランデルトがかっこよかったかをミアに話して聞かせた。

 最初は喜んで聞いていたミアも、同じ話ばかりで次第にうんざりしてきていたのは内緒である。


 翌日はマリルと放課後に約束していたので、生徒会の仕事がないのは幸いだった。――ただし、ヴィヴィはちょっとだけ不満に思っていた。

 なぜなら、クイズはわざわざ考えなくても五年分くらいのものを使いまわしているので、それほどに大変ではないとランデルトに言われたのだ。


(そりゃ、もちろん今日さっそく仕事だと言われても、マリルとの約束を破るわけにはいかないからよかったんだけど。二人の共同作業日が少なすぎる……)


 一回生の時も二回生の時も、楽しかったスタンプラリーが手抜きだったと知って、がっかりする気持ちもあった。

 どちらもジェレミアと回ったのだが、一回生の時は途中で出会った何人もの女子が、ジェレミア目当てにヴィヴィに一緒に回ろうと言ってきたのでうんざりしたことも思い出す。

 あれも大人な前世の記憶があったから女子の下心に気付き、上手く断ることができたのだ。


(そういえば、私はともかくジェレミア君も、今考えればみんなの下心に気付いていたような……)


 あの時にはもうヴィヴィの余計なアドバイス通りに王子として振る舞っていたため、とても人気があった。

 男子にも誘われはしたが、それを断っていたのはジェレミアである。

 それでもめげずについて回ってきたのが、フェランドだった。

 あの日から今まで、三人の腐れ縁は続いているのだ。

 ちなみにマリルは王子であるジェレミアに対して緊張はしていたが下心はなく、しばらくすると慣れていた。

 フェランド狙いでもなく、好きになったのもここ最近だろう。


(特にあの交流会以降、ジェレミア君と一緒にいることが多くなったのよね……)


 それまではヴィヴィも女子と一緒にいることのほうが多かった。

 ただ、あの日から気がつけばジェレミアが傍にいたので、女子も気後れしてか敬遠されるようになったのだ。

 女友達は選択授業などで何人もいるので気にしていなかったが、男子生徒はフェランド以外はヴィヴィに近づいて来ない。


(これって、私もジェレミア君も視野を狭くしてたってことかな……)


 お互い異性の友達がいなかったために、今まで相性のいい人を見逃していたのかもしれない。

 今回、委員になったことで二人とも新しい出会いがあったのだ。


(まあ、ジェレミア君がジゼラさんをっていうのは、はっきりしないけど……。力になるって言っても、いつかお願いするかもしれないってことは、今は必要ないってことよね……)


 ヴィヴィは前世でも好きな人ができれば、あらゆる手段を使ってゲットしていた。

 恋をすると周りが見えなくなるのが悪い癖だと、友達にも注意されたことがある。

 だから、ダメ男に引っかかるのだと。


(いや、今は私のことじゃなくて……。うん、今世ではちゃんと周囲の忠告も受け入れるけど。とにかく、ジェレミア君のことは……ひとまず見守ろう)


 そう決意したところで授業終了のチャイムが鳴った。

 これからマリルと初の外出なのだ。

 ヴィヴィはマリルと微笑み合うと、浮かれ気分で帰り支度をしたのだった。




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