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魔法学園10

 

(問題は、ランデルト先輩に好きな人がいるかどうかなのよね……)


 翌朝、ヴィヴィは登校しながらため息を吐いた。

 すると、マリルが心配そうにヴィヴィを見上げる。


「ヴィヴィ、どうかしたの? ひょっとして、生徒会補助委員って大変そうなの?」

「あ、ううん。違う違う。ちょっと昨日は遅くまで起きていたから、寝不足で」

「そうなのね。明日はテストだし、その結果も含めて六回生からの進路を決めないといけないものね」

「うん……」


 マリルに相談しようかとも思ったが、まだ自分の気持ちを言葉にできなくて誤魔化した。

 実際、昨日の夜はどきどきが治まらず、なかなか寝付けなかったのだ。

 寝不足のせいで頭がぼうっとしている。

 テストが明日でよかったと思いながらも、校舎に近づくと、男子生徒の姿がちらほら見えてきた。


 この学園は大型婚活センターのようなものとはいえ、やはり貴族子女を預かる場所であり、同じ敷地内でも校舎を挟んで男子寮と女子寮は遠く離れている。

 そのため、侍女たちの情報網をもってしても、男子生徒の心の内まではわからないのだと、ミアは残念そうに言っていた。


 それは当たり前だとミアを慰めたが、では女子生徒の心の内はわかるのかと気付いたヴィヴィは、絶対に自分のことは誰にも言わないでほしいとお願いした。

 それについてはミアも当然のことだと了承した上で、侍女たちが主人の秘密を漏らすことはなく、他の女子生徒が女の勘で察して侍女に話すため皆に伝わってしまうのだと忠告してくれたのだ。

 また、たまに牽制のために自分から目当ての男子の名前を言いふらす女子もいるらしい。

 手段を選ばないのが婚活である。


(とにかく、態度でわからないようにしないとね。上手く隠せるかな……)


 もちろん、せっかく好きな人――魔力の相性が合う人を見つけたのだから、障害がないのならずっと秘めているつもりはない。

 だが、ヴィヴィはまだ芽生えたばかりの恋心に周囲から横やりを入れられたくなかった。


(そもそも、本当に好きかどうかもわからないもの……)


 前世の自分の好みとランデルトは大きくかけ離れている。

 入学当初からイケメンお断りと決め、結婚相手はフツメンに限るとは思っていたが、果たしてランデルトはフツメンなのだろうかと、ヴィヴィは考えた。

 女子生徒がカッコいいと騒いでいる男子はヴィヴィも確かにカッコいいと思う。

 他にも女子に人気のある男子はいわゆる爽やか系だったりするのだが、ランデルトがそうかと問われれば違うと言える。


(魔法騎士になるだけあって、ぶっちゃけ……ごついわよね。それに、体毛が濃そう……って、何考えてるのよ! そういうのはまだ早いし! ってか、遅くてもダメだし!)


 自分の思考に突っ込みつつも、ヴィヴィは気付いた。

 前世でも今世でも、毛深い男性は苦手である。

 それでもランデルトなら受け入れられる気がするのだ。


(ひょっとして、これが相性? 自分の意思とは関係なく、魔力が惹かれるとか?)


 卵が先か云々はわからないが、もしこれが本当の恋ならば、やはり恋心よりも魔力の相性が先なのかもしれない。


(いや、でもそれなら片想いが――魔力の相性が一方通行になるのもおかしい気がする……。って、とにかく、ランデルト先輩が毛深いかどうか――じゃなくて! 好きな人がいるかどうかよ!)


「ヴィヴィ、どうかしたのか?」

「はうっ? な、何が?」


 一人悶々としていると、いきなり声をかけられて変な返事をしてしまった。

 すると、フェランドが一瞬驚いた顔をして、すぐににやりと笑う。


「何だ、恋でもしてるのか?」

「はあっ!? そん、んなわけないでしょ!」

「そうか? てっきり生徒会長にでも恋したかと思った」

「……生徒会長? どうして?」


 ずばり言い当てられて焦ったヴィヴィだったが、フェランドの勘もそこまでだったらしい。

 生徒会長と聞いて、ヴィヴィは落ち着いてきた。

 昨日、確かにランデルトの隣に座っていた会長はイケメンだった。

 ヴィヴィも噂で聞いたことがあるが、どこかの侯爵家の嫡子らしく女子の人気も高い。

 だが、ヴィヴィの眼中にはまったくなかったのだ。


「違うのか? じゃあ、書記のアンジェロ先輩とか?」

「だからどうしてそうなるの? 別に、恋なんてしてないし」


 書記の先輩には。と心の中で付け加える。

 ヴィヴィにとって書記の先輩は記憶にもない。


「でも、あえて言うならクラーラ先輩は気になる存在だわ」

「ああ、クラーラ先輩は素敵だよな……って、女子じゃねえか!」

「そうね。才色兼備というのは、あの方のための言葉よね」

「ヴィヴィ。お前、マリルといい、クラーラ先輩といい……」


 しつこいフェランドにこれ以上追及されないために、ヴィヴィはもう一人の副会長の名前を出した。

 そのせいで変な誤解を招いたかもしれないがどうでもいい。

 実際、昨日はランデルトと仲良さそうに話していたので、とても気になる存在なのだ。

 クラーラは女子の中でも憧れる子が多いほどに、美人で成績優秀でヴィヴィもよく知っている。


(確か八回生だから、ランデルト先輩よりも年上なのよね……)


 ランデルトが七回生であることは、昨日の会議の時の簡単な自己紹介で得た情報だった。

 また、クラーラはアクディ侯爵家出身で家政科に在籍しており、常に成績トップ。

 年齢さえ三歳も年上でなければジェレミアとお似合いだと誰かが噂していたのを聞いたこともある。

 その時のヴィヴィは三歳くらいの年齢差なんて大した問題じゃないのにと思ったので覚えていた。


(ランデルト先輩は魔法騎士科だから、来年追いかけていくわけにはさすがにできないし……。共通点は生徒会だけか……)


 この学園は六回生になると、将来を見据えたクラス分けがある。

 ランデルトの所属する魔法騎士科は今のところ男子のみで構成されており、魔法と剣の実力が伴っていないと入れない。

 クラーラの所属する家政科はいわゆる花嫁修業のようなクラスで、貴族の令嬢のほとんどがこのクラスに入る。

 他には政経科と魔法科があり、政経科は政治経済を学び将来の官僚として、魔法科は魔法使いになるために学ぶクラスである。

 ジェレミアとフェランドはおそらく政経科、マリルは家政科に進むのだろうが、ヴィヴィはちょっとだけ悩んでいた。

 家政科だとあまりにありきたりでつまらないな、と。

 ちなみに政経科と魔法科は平民出身の女子も多い。


「――で、結局、ヴィヴィアナさんは何に悩んでいるの?」

「え?」

「フェランドの言い分じゃないけど、今日のヴィヴィアナさんはいつもと違うよ?」

「まあ、ジェレミア様。女子には色々とありますもの。ヴィヴィアナさんも困っていらっしゃいますわ」


 今度はジェレミアに問いかけられ、再び考えに耽っていたヴィヴィは焦った。

 しかし、意外にも助け船を出してくれたのはジゼラだった。――本人はただ邪魔をしたつもりだろうが。

 そこに先生が入ってきたので、おしゃべりは終了。

 前に向き直る時に、ジゼラはヴィヴィにドヤ顔を向けてきた。


(いや、むしろ助かったんだけど。なぜいつも私にドヤ顔……)


 すぐ後ろの席であるジェレミアにその表情は見えなかったようだが、フェランドにはその表情が見えたらしい。

 肩を揺らして笑いを堪えている。

 そんなフェランドの背中をマリルは不安そうな表情で見ていた。

 フェランドの昨日の発言から、ジゼラのことを本気で思っているのかと心配なのだろう。


(そうか、そうだよね。好きな人ができれば、楽しいことだけじゃなくて、不安になったり嫉妬したりとか色々あるよね……)


 フェランドは特定の相手はまだ作っていないが、色々な女子と一緒にいるところをよく見かける。

 マリルとしては気が気ではないのかもしれない。

 前世ではイケメンだけどダメ男とばかり付き合っていたヴィヴィは、すっかり恋する気持ちを忘れてしまっていた。

 だがランデルトのことを想えば、どきどきしてくるのでやっぱり恋なのだと思う。


(そういえば、結局ジェレミア君はジゼラさんのこと、どう思っているのかな?)


 昨日の態度で、ジェレミアも恋に落ちたのではと思ったが、今日は至って普通だ。

 ただジェレミアは自分の感情を隠すのが上手い。

 アドバイスした身とはいえ、何となくヴィヴィは悔しかった。


(まあ、ジェレミア君のことは置いておいて。今までランデルト先輩に注目したことなかったけど、どうなんだろう?)


 昨日、仲良く話していたクラーラ先輩と付き合っているのなら必ず噂になるだろう。

 さらにミア情報で特定の相手はいないとすでにわかっているのだ。

 後は、やはり先輩に誰か好きな人がいるかどうかである。


 ヴィヴィはちらりとフェランドを見た。

 フェランドならきっとそのあたりの情報はすぐに掴んでくれるはずだ。

 しかし、その後のことを考えると絶対にからかわれるだろうし、周囲にばれてしまう可能性も大である。

 だが、今まで接点も何もなかったランデルトとの距離を詰めるにはどうすればいいのかと、ヴィヴィは悩んだ。


 次の会議は七日後。

 それまでは何もしなければ会うこともままならない。


(うーん。校舎も違うし、食堂で偶然会うくらいしか思いつかない……)


 今まで好きな人がいなかったので忘れていたが、どうやらヴィヴィは肉食な――積極的なタイプらしい。

 前世でも、いつも自分から告白していた覚えがある。


(できれば男子の協力者がほしいわよね)


 先ほども考えたが、フェランドではダメだ。

 そうなると、男子でそんなことを頼めるのは一人しかいない。

 今度はジェレミアにちらりと視線を向けると、真剣に授業を聞いている表情が目に入った。


(うん、やっぱりイケメンだな。でも目の保養にはなっても、ランデルト先輩のようにどきどきはしない。むしろ安心する)


 もう四年以上の腐れ縁が続いているのだから、当たり前なのかもしれない。

 そう考えると、頼れるのはジェレミアしかいない気がしてくる。

 ジェレミアなら口も堅いだろう。


(よし! 後でジェレミア君に時間を作ってもらおう!)


 そう決意したヴィヴィはようやく授業に集中することにしたのだった。





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