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魔法学園98

 

 あれから続けた実験で、切り取られた木片にも攻撃魔法が効かないことがわかった。

 また〝ジロの木〟の苗には、毎日朝晩、攻撃魔法、防御魔法、治癒魔法と二本ずつに施している。

 すると、その成長は著しく、何もしていない苗木よりもぐんぐん育っていた。


「うーん……。どうにかして〝ウルの木〟を使えないかなあ……」


 実験の合間にヴィヴィが課題を片づけていると、レンツォが机に向かって唸っていた。

 ここ数日間、色々な実験をした結果〝ジロの木〟はまだまだ未知数なのだが、〝ウルの木〟に関しては『魔法が効かない』という効果以外には目ぼしい発見はなかったのだ。

 もちろん様々な実験を繰り返せば、また違った結果は得られるかもしれないが、今のところ思いつく限りのことはやった。

 そして『魔法が効かない』ということは、魔法に対してしか使えないということなのだが、物理的な攻撃には弱いので、防具にはできないでいるのだ。


 もちろん分厚く切って盾にすれば、矢は防げるし、剣で斬りかかられてもある程度は防げる。

 重さも鉄ほどではないので、歩兵が持つには十分かもしれない。

 それでも考えたくはないが、戦争では斧を振り回す鉄人のような兵士もいるらしく、何より今一番必要とされている対・魔物に関しては斧どころの攻撃力ではないらしい。

 そこに攻撃魔法まで加わってくるのだから、魔物相手のほうが厄介なのである。

 ヴィヴィはその話を聞いた時には、かなり衝撃を受けた。


 王都では魔物被害がないので、本や授業で習っただけの、本当に遠い国での出来事――ヴィヴィにとっては物語の中の出来事のような気分だったのだ。

 だが実際、レンツォは先日まで現場にいて、その状況を目撃している。

 さらには魔物の攻撃で怪我を負った兵士や騎士たちを治療していたからこそ、その言葉には重みがあるのだ。

 ヴィヴィはランデルトのことが心配だったが、絶対に大丈夫だと自分に言い聞かせるしかなかった。


「レンツォ様、お嬢様、ご休憩なさいませんか?」


 ヴィヴィが課題に、レンツォが実験にと根を詰めすぎていると、いつもちょうどよくミアが休憩を促してくれる。

 そして休憩すると、頭がすっきりして再開した作業がはかどるのだ。

 ヴィヴィは密かに、ミアは何か不思議な魔法でも扱えるのではないかと思っていたりする。


「ミア、ありがとう」

「いつもすまないね、ミア」


 ヴィヴィとレンツォはお礼を言って、ソファに座った。

 それから二人の好みをしっかり把握しているミアが用意してくれたお茶とお菓子を口にする。

 今日、ミアが淹れてくれたお茶は少し濃い目なのに、ほんのり甘い。

 ミアはその時のヴィヴィの体調に合わせて少しずつ調整もしてくれるのだ。


「うん。今日も美味しい! ミア、いつもありがとう」

「本当だよね。どうしてミアはこんなに美味しくお茶を淹れられるんだ。ヴィヴィが羨ましいよ」

「お二人とも、私には身に余るお言葉をありがとうございます」


 ヴィヴィとレンツォの言葉にも、いつもミアは謙虚に答えて頭を下げる。

 時々、ヴィヴィはミアにずっと一緒にいてほしいと言いたくなるのだが、それは酷い我が儘だと自覚しているので、ぐっと堪えていた。

 きっと口にしたら、ミアは叶えてくれるからだ。

 いい加減に親離れならぬミア離れしないといけないだろう。

 そう思うだけでつらいので、ヴィヴィは深く息を吐くと、レンツォに話しかけた。


「それで〝ウルの木〟について、何かいい考えは思い浮かびましたか?」

「いい考え? 何それ、美味しいの?」


 にっこり笑って質問に質問で返してくるレンツォを見て、ヴィヴィは笑顔を引きつらせた。


(やばい……これ、かなり病んできてる?)


 そう思ったヴィヴィだったが、すぐにレンツォは笑いだして謝った。


「ごめん、ごめん。冗談だよ。で、質問の件だけど、答えは『まだ』だよ」

「びっくりしました。でも、そうですよね。簡単には答えなんて見つからないですよね、何事も」

「うん? なんだか意味深だね?」

「え? 特に深い意味はないですよ」


 意識したわけではなかったが、口から出た言葉は当たり前のようで意味があるように聞こえてしまったらしい。

 お互い笑って、またお茶を飲む。


「色々考えてはいるんだけどね……。一番単純で可能な方法は〝ウルの木〟を薄く切って盾に貼ることかなあ。鎧だと軽いとはいえ、かさばるし機敏性が落ちるだろうからね。ただ薄く切った状態だと、かなり防御性が落ちるんだよ。ヴィヴィ君も一緒に試したからわかってると思うけど、やっぱり生木のほうが防御性は高かっただろう? とはいえ、ないよりはあるほうがいいからね。力自慢は盾に貼る板を厚くすれば、それだけ防御性も上がるしね」

「盾にはどうやって貼るのですか? かなり頑丈に留めておかないと剥がれてしまいますよね?」

「それも問題だよねえ……」


 ヴィヴィの質問にレンツォはため息を吐いて答えた。

 この世界にも糊はあるが、強力接着剤はなかったと思う。

 釘で打つにも、鉄の盾にだと難しいだろう。

 盾の製造過程から変えなければならないかもしれない。


(超強力接着剤があればなあ……。そもそも〝ウルの木〟に粘着性があれば便利なんだけど……あれ? ウルの木と接着剤?)


 そこまで考えて、ヴィヴィは何かを思い出しそうになった。

 だが、喉まで出かかっているのに出てこない。

 焦ってはダメだと自分を落ち着かせるためにも、ゆっくりお茶を飲む。

 すると頭がはっきりした。


「ウルシ! 漆です!」

「ヴィヴィ?」

「お嬢様?」


 〝ウルの木〟だからウルシ。

 単純すぎる考えではあるが、別に本当に漆だとは思っていない。

 ただ、レンツォが頼んだ木片は綺麗に磨かれて届いていたのだが、一つだけ〝ウルの木〟の木片にべたっとしたものがついていたのだ。

 それに触った時『ああ、樹脂か』と簡単に流していた。

 しかし、樹脂にもし防御性があるのなら、漆のようにどうにかして天然塗料に加工して防具に塗れば、鎧にだって使える。

 きっと漆のように〝ウルの木〝も利用できると、なぜかヴィヴィには確信があった。




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