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魔法学園95

 

「……ごめんね」


 ヴィヴィは目の前の木に謝ってから、唯一知っている攻撃魔法の風呪文を詠唱し放った。

 しかし、攻撃魔法を受けた木には何も起こらない。

 魔法が失敗したわけではないことはわかった。

 体内の魔力の減少を感じ、実際に一迅の風が木を傷つけることなく、木の葉を揺らして消えていったのを目撃したのだ。


「ありがとう」


 ヴィヴィはまったく傷ついていないことを確かめると、攻撃魔法を仕掛けた木を撫でながらお礼を言った。

 そして、次に同じ種なのに成長速度がそれぞれ違う木の一本へ近づいた。

 この木は同種の木の中でも一番大きく成長しているのだが、周囲の別の種類の木は何度も傷つき、治癒魔法を受けている。

 おそらく、騎士科の生徒たちの癖か何かで、このあたりによく攻撃魔法が飛んでくるのだろう。


「少し試させてね」


 ほとんど確信を持ったヴィヴィは、今度は謝罪ではなく、ちょっとした断りを木に入れると、先ほどと同じ攻撃魔法を放った。

 すると不思議なことに、攻撃を受けた木は一瞬かすかに光り、風を吸い込んだのだ。

 しかも、風が吹いたというのに木の葉一枚揺れることもなかった。


「……ありがとう。また明日ね」


 ヴィヴィは一人呟いて、その場を去った。

 そろそろ寮に帰らなければミアが心配する。

 だがヴィヴィが走りだしたのは焦りからではなく、興奮のためだった。


 結果はどうなるかはわからない。

 ただ間違いなく新しい発見をしたのだ。

 すぐにでもこのことをレンツォに伝えたかったが、五日後に始まる長期休みで会える。

 その時に、もっと確かな結果を持っていけるよう願いながら、ヴィヴィは我慢することにした。


 翌日の放課後から、ヴィヴィは闘技場前広場に通い、他の自主練習の生徒に交じって軽く治癒魔法を施しながらも、こっそりとある作業をしていた。


 そして終業式の日。

 生徒会の仕事を終わらせると、ヴィヴィは広場に向かった。

 まだ確実ではないが、その兆候は出ているのだ。

 広場にはさすがに誰もいなかったが、ヴィヴィは持ってきたノートに記録すると、満足して寮へと戻った。


 これで明後日にはレンツォに報告ができる。

 そう考えると、長い休みもランデルトに会えなくても楽しみに思えた。

 さらには、休み明けにはランデルトに会えるというご褒美つきだ。


 残念なことといえば、生徒会執行部のために魔法祭は何かと忙しく、ランデルトと舞踏会以外に一緒に過ごせないことだった。

 しかもランデルトはたった一日しか王都に滞在できない。

 要するに、半年以上ぶりに会えるといういうのに、たった数刻しか一緒に過ごせないのだ。


(滅せよ、魔物。滅べ、遠距離恋愛)


 心の中で呪いの言葉を吐きながらヴィヴィは部屋に戻ると、ミアとともに一時帰宅の準備をした。

 とはいっても、ほとんどミアがしてくれているので、ヴィヴィのすることといえば、必要な勉強道具をまとめることである。

 今回は課題を忘れないようにとしっかり計画も立てていた。


(やっぱり……滅べ、課題。長期休暇に自由をプリーズ)


 前回以上に増えた課題の山を見つめながら、今度は呪いだか願いだかの言葉を心の中で唱えた。

 もちろんどんなに唱えても無駄だが。

 諦めつつ荷造りしたヴィヴィは、食堂でマリルたちに会い、一緒に食事しながらも、休暇の間の約束はしなかった。


 翌日、実家に戻ったヴィヴィはいつもの家族からの大歓迎を受けた。

 そして次の日には、午前中は課題をこなし、午後になってようやくレンツォの研究室へと向かった。

 きちんと説明できるように、頭の中では広場で気付いたことを整理する。


 レンツォがどう考えるかはわからないが、頭から否定はしないはずだ。

 おそらく一緒に調べてくれるだろう。

 それに、ひょっとしたらもう何か治癒魔法の保存方法を見つけているかもしれない。

 そこまで考えて、それならすぐに手紙ででも知らせてくれるだろうと思う。

 とにかくヴィヴィは興奮していて、王宮へと馬車が到着しても落ち着かず、そわそわしていた。


「やあ、ヴィヴィ、ミア。久しぶりだね」

「こんにちは、レンツォ様。これからまたしばらくお世話になります!」

「お久しぶりでございます、レンツォ様。さっそく片づけさせていただいてよろしいでしょうか?」

「あ、ああ。いつもすまないね、ミア」

「私はかまいませんので、どうかお嬢様のことをよろしくお願いいたします」


 元気よく挨拶したヴィヴィは、記録したノートを持って、ミアがレンツォに挨拶するのを待っていた。

 ミアはヴィヴィの逸る気持ちを察すると、早々に挨拶を切り上げて、研究室の片づけに移る。


「どうやらヴィヴィは、何か発見をしたようだね?」

「はい! あ、でも、まだ確実ではないのですが……」

「そんなことはかまわないよ。ぜひ、聞かせてくれないか?」

「もちろんです!」


 レンツォの問いかけに勢いよく答えたものの、ヴィヴィは顔を赤くした。

 さすがにもう十七歳になるのに、子供っぽすぎる。

 それでもレンツォはくすくす笑いながら、ヴィヴィにソファを勧め、自分も向かいに座った。

 以前よりは、研究室もそれほどには散らかっていない。

 そこで、ヴィヴィはテーブルに記録したノートを広げ、説明を始めた。


「実は先日、闘技場前の広場で治癒魔法の自主練習をしている時に、何度も治癒しなければならない木と、そうでない木があると気付いたんです。偶然かとも思ったのですが調べると、ある二種類の樹木に関しては、一度も傷ついた痕がありませんでした」

「ふむ。それは興味深いな。私はちっとも気付かなかったよ」


 ヴィヴィがきっかけを話し始めると、レンツォは思い出すように右手で顎をこすりながら答えた。

 レンツォが卒業してもう十年ほどになる。

 眉間にしわを寄せるレンツォを見ながら、ヴィヴィは説明を続けた。




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