ティナ=マニエル 3[挿し絵]
秘書のルシアより、依頼内容を聞いた二人は銀竜酒家へと戻ってきた。
「また、面倒そうな依頼ねぇ‥‥‥」
「仕事を選んでる場合じゃ無いですが、確かに」
珍しく依頼に関してティナがジュディに共感した。
「‥‥‥前から気になってたんですが‥‥‥」
客席に腰掛ける二人が注文したドリンクをテーブルに置きながら、ルーニアが二人に聞いた。
「何で、斡旋所とかで仕事探さないんですか? わざわざ市長さんから仕事受けるのは‥‥‥」
不思議そうに顔を捻るルーニア。
「あー、ルーニアの言いたい事は解る‥‥‥ただ、これはジュディさんのせいなんだよね」
頬杖をついてダレていたティナがルーニアに目線をやり答えた。
「え? そうなんですかジュディさん?」
急に話を振られたジュディは明後日の方角を向きながら、ドリンクのストローを吸うのを止めて言った。
「‥‥‥私のせいって言うか、根本的な原因はメイシンさんなのよ?」
「ほぅ、アタシが何だって? ジュディ?」
声が聞こえた方をジュディが慌てて振り返ると、ルーニアの横にボサボサのショートボブで、気だるげな目をしながらキセルを吹かせる、所謂チャイナドレスを着た残念美女が立っていた。
「め、メイシンさん‥‥‥」
顔色を真っ青にしたジュディが口許をひくつかせながら見つめる。
「アタシは、アンタの尻拭をしただけだと思ってたんだけどねぇ」
そう言うと、キセルから口を離してふわりと煙を吐いた。
「それで、何があったんです?」
ルーニアは好奇心に駆かられてメイシンに聞いた。
「あぁ、あれはコイツがまだフューゾルに来たばかりの時に‥‥‥」
気だるそうにキセルを一度 吹かせてメイシンが話始める。
「あーっ! あーっ! その話はまた今度! 私からルーニアちゃんに話すから! ねっ?」
慌ててメイシンの話を遮ぎるジュディ。
「えっ? ええと‥‥‥あの、はい‥‥‥」
余りの剣幕に相槌を打つ。
「まあいい、それよりアンタ等市長からどんな依頼を受けたんだい?」
ジュディは兎も角、ティナがあまり依頼に乗り気で無いことが珍しく、メイシンが聞いてきた。
「それが、実はですね‥‥‥」
ティナはメイシンとルーニアに依頼の内容を話した。
ーーーーー
メイシンとルーニアに依頼内容を話した明くる日、ティナはジュディと依頼先の、郊外にある洞窟に来ていた。
二人が洞窟に来てそろそろ六時間を越えようとしていた。
「ジュディさんも探してくださいよ! 爪ばっかり弄ってないで‥‥‥っ」
先程から、爪弄りを繰り返しその場から動かないジュディにティナが言う。
「ほら、私って繊細でか弱いじゃない?」
爪先をヒラヒラとさせ、それを見ながらジュディは言った。
「土いじりみたいな作業はティナちゃんがするべきだと思うの」
「あ!?」
こめかみに青筋をたてジュディを睨む。
「と、言うか何なのよこの依頼は‥‥‥」
ジュディは半眼になりながら、地面に散らばる石を眺めた。
「知りませんよそんなの!」
半ばヤケクソに叫ぶ。
「偉い人の子供が、遠足に来たときに落としたお気に入りの石を探せとか‥‥‥」
そう言うと、ティナは依頼書を取りだし絵の描かれている部分を見つめる。
「解るわけないでしょ! 何の苛めですかコレっ!? 大体、何で遠足でこんな洞窟にわざわざ入るんですか! どうなってるんですか最近の学校って!?」
半泣きになりながら石と絵を見比みくらべるティナ。
「あー、もうそこら辺の綺麗っぽい石持っていけば良いんじゃない?」
探しもしないジュディが面倒臭そうに言う。
「コレ! 絶対に悪意を持ったロゼッタさんの報復ですよね!?」
「私に聞かれても‥‥‥」
怒りをぶつけられたジュディが困惑する。
「間違えないです! ジュディさんが余りにも依頼をサボるから、始末書が山のようになってるってこの前言ってましたから! て、根本はジュディさんのせいじゃないですか、よく考えたら!?」
そう言って手元の石をジュディに投げ出した。
「ちょっ! ティナちゃん危なっ!?」
最小限の動きで何故か優雅にかわし続ける。
「ちっ! 当たれぇえぇ!」
全く当たらない石に、更に怒りを募らせて投石する。
「ティナちゃんキャラ崩壊してるからっ! ‥‥‥て、ちょっと待ってティナちゃん?」
「何ですか!?」
ジュディの制止に動きを止めるティナ。
「今手に持ってる石、もしかして‥‥‥」
「へ?」
そう言って、手元の石を依頼書の絵と見比べる。
「‥‥‥同じ形、ですね」
「だよね、やっぱり‥‥‥」
無理かと思われる物も案外見つかるものだ。
ーーーーー
依頼を達成した二人は、さっそく市庁舎へ来ていた。
「‥‥‥あったの?」
開口一番、ロゼッタはそう言った。
「普段は全く役に立たないのに、こんな訳の解らない依頼の時だけ‥‥‥」
「こんな訳の解らない依頼って‥‥‥」
ティナは、ロゼッタに対たいする自分の考えが強ち間違えていなかったことに驚愕した。
「まぁいいわ‥‥‥後で一階の受付で依頼料受け取っておいて」
どうでもいい、と言った風に手をヒラヒラとさせて言った。
「なんか釈然としないけど、お金が貰えるならまぁいいわ」
何故か疲れた雰囲気を纏うロゼッタに、ジュディが適当に答えた。
「それよりも、アンタ達にもう一つ追加で依頼をしたいんだけど時間ある?」
「面倒臭いからパスで」
即答するジュディ。
「ちょっ! ロゼッタさん、ジュディさんはスルーしてください!」
ティナが慌てて答えた。
「あー、うん、ティナちゃんに聞いてもらうわ‥‥‥」
呆れ顔でジュディを一瞥してから、ティナに向き直した。
「仲間はずれとか酷くない!?」
ジュディが喚めく。
そんなジュディを無視して、ロゼッタはティナに話始めた。
「隣の国のゴバ、あるじゃない? 最近あの国との国境で妙な二人組が出没するらしいのよ」
手元の資料から一枚の紙を取りだしヒラヒラとさせる。
「妙な二人組、ですか?」
ティナの質問に、紙をテーブルに置き直し答える。
「そう、変わった服を着た老人と神官衣を着た子供らしいんだけどね、国境を通る人達に変な質問をするらしいの」
そう言うと、ロゼッタはハーブティーを一口 含んだ。
「変な質問ですか、その二人組で他に実害とかはでてないんですか?」
眉根をしかめて聞く。
「んー、質問するだけらしいんだけど‥‥‥ほら、ゴバとフューゾルってあんまり友好的じゃないじゃない?」
「そうね」
ジュディが会話に割り込んできたが無視する二人。
「だから、あの辺りにあんまり妙なのが居ると色々と面倒でね」
はぁ、と溜め息をついて顔を手で覆うロゼッタ。
「何とかその二人組を排除出来ないかな?」
「‥‥‥平和的にって事ですか?」
ティナは余りにも少ない情報に、また陸でも無い依頼になりそうだと、顔をしかめながら聞いた。
「基本的にはそれで、面倒になりそうなら実力行使でいいから」
「ふぅん、ロゼッタがそう言うなんて珍しいわね?」
またジュディが割り込んできた。
「仕方ないでしょ‥‥‥只でさえ忙しいのに、そんな訳の解らない二人組の対処まで絡んできたら、私 発狂するよ?」
無視をしきれず、ジュディに返すロゼッタ。
「まぁ、良いんじゃないティナちゃん、私受けても良いわよ?」
「ジュディさんは実力行使が出来て楽そうだから乗り気なんですよね‥‥‥そうですよね?」
そう切り返したティナに、ジュディはニコニコと笑顔だけで返事を返す。
「はぁ‥‥‥解りました、その依頼引き受けます」
珍しくジュディが乗り気とあって、流石にティナも断れなかった。
「良かった! それじゃ今から向かってね! 乗り合い馬車手配しといたから、予約してある国境の宿場を拠点に解決してきてね!」
「なんか手際が良すぎません!?」
まるで引き受ける事を前提にしていたかの様にロゼッタがたたみ掛けた。
「まあまあ、良いじゃない、依頼料 弾むわよー?」
小さく嘆息して、ティナは「解りました」と小さく返事をした。