他国情勢
アルシーナ神聖王国王都にある中央神殿、王城も兼ねるこの建物の謁見の間に、一人の女性が荒々しい歩みでやってきた。
「どういう事だい! あの小娘達を戦線から退けるなんて!」
謁見の間に入る早々、開口一番に怒鳴り散らした。
「煩いぞバラクーダ、王の御前であるぞ」
「ハッ! アンタにゃ聞いてないよロイク! 大神官殿に聞いてるんだよ!」
バラクーダと呼ばれた女性が鼻息荒くロイクと言う名の男に怒鳴った。
「様、を付けなさいバラクーダ、不敬ですよ」
「アンタにも聞いてないよメルティナ!」
ロイクと呼ばれた男性、メルティナと呼ばれた女性を其々《それぞれ》左右に睨み、中央の先、国王ベイソリュート三世の隣に立つノートルダム大神官へと視線を向ける。
「‥あの者等には、勅命を与えた、例えこの国の他の騎士団だとしても内容を知る事は《能あた》わぬ」
ノートルダムが落ち着いた口調で告げる。
「そんな事聞いてんじゃ無いよ! アイツ等が抜けた穴を塞ふさいでたのはアタイ達だ! お陰で援軍を待っていたアタイ達の軍は総崩れだよ!」
憤りを隠しきれないバラクーダが吠える。
「‥‥‥これも天意である」
ベイソリュート三世が告げる。
「‥‥‥っ! 天意では無く人災だと思われますが! 国王陛下!」
流石のバラクーダも、ベイソリュートには言葉を正して反論する。
「小局では無く、大局を見よバラクーダ」
ノートルダムが嗜める。
「‥‥‥くっ! 失礼した!」
苦々しい表情で謁見の間を足音荒く立ち去るバラクーダ。
「‥‥‥ふざけやがってっ! アタイ達だってアイツ等白騎士団と同じ王国市民だろっ! アタイ達は捨て石じゃ無い!」
バラクーダの心に闇が宿った瞬間であった。
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大陸北東部に位置する軍事大国オルファノ連合。
その総司令部が在る総督府に、この国の大元帥であり現状国の頂点にいる女帝ソドリムは、部下の十神将が一人のフェイ=ウォンからある報告を受けていた。
「‥‥‥ふむ、ではやはり帝国側に未登録のナンバーズが渡っていたか‥」
「はっ! ルビィの影からの報告ではフューゾルにて使用を確認、交戦の後取り逃がしたと‥‥‥」
ソドリムは一考した後、フェイに告げた。
「この件に関してゾンダークには、これ以上手を出さなくて良よい」
「良いのですか?それではゾンダークの増長を見す見す‥‥‥」
フェイが、最近のゾンダークの増長ぶりを思い出しながら話をしていると、ソドリムが話を遮って告げる。
「代わりに、ルビィにはそのまま流出したナンバーズの追跡をしてもらう」
その言葉に、フェイは眉をしかめる。
「‥ゾンダークを泳がせる、と言う事ですか?」
「ああ、今はゾンダークの能力が必要だ、大局が決するまではゾンダークを泳がせておけ」
「では、ゾンダークを断罪するつもりはある‥‥‥と言う事ですね」
そこまで言い、ソドリムの言葉を待つフェイ。
「‥‥‥大局が決するまで待て」
「その言葉、了承の意と取らさせて頂きます‥これで我等十神将も身を粉にして働けると言うもの‥‥‥」
そう言うとフェイが片膝をつき、礼を示す。
「ルビィの元に、赤眼兄妹を送ってやれ」
「はっ!」
軍事大国オルファノ連合が、動き始めようとしていた。
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ロードグレイ帝国謁見の間に、獅子心皇と呼ばれる皇帝メシュケイアと大司教アルムスク、右大臣リーノス、左大臣、ガルネ、四大神官と十二使途長アノスが揃っていた。
「‥‥‥左大臣殿、シュバルツカッツェの者共を私用で動かしたと聞きましたが、あ奴等は貴方の私兵ではありませんぞ?」
「右大臣殿、私用と言いますが我が国を裏切った反逆者を撃つために送り込んだまでで、私心はありませんぞ」
リーノスの追求に、私用では無いと説明するガルネ。
「ふん、であるならば何故我等に何も話がきていないのか」
「ガルガロス、口を慎しめ」
「‥‥‥アイムザット神官長、申し訳ありません‥‥‥」
ガルガロスと呼ばれた巨体の男を、アイムザットと呼ばれた痩身の男が嗜める。
「しかし、ガルガロスの旦那の言葉にも一理あると思いますがねぇ‥‥‥どう思うイベリア?」
「私に振るな、D・J‥‥‥いや、ダルク‥‥‥」
長髪のダルクと呼ばれた男を冷たい目で見るイベリアと呼ばれた女性。
「‥‥‥この件に関しては、大司教様の摩天衆も関わっていたと聞いておりますが」
そう言うとリーノスがアルムスクに目を向ける。
「この件はメシュケイア様も了承されている、責められる謂いわれは無いと思うが?」
「それでしたら問題はありませんな‥‥‥しかし此れからは一言位は欲しいものですな」
「‥‥‥貴様等の好きにするが良よい」
リーノスの言葉に、メシュケイアが圧を乗せた言葉を放つ。
「では、私の側でもフューゾルに刺客を送らせてもらいましょう」
「別に構わぬよ‥‥‥」
リーノスがガルネに向けて言い、ガルネが眉尻を少しだけ動かして認める。
「狸と狐の化かし合いか、下らぬ‥‥‥」
アノスはそのやり取りを覚めた目で見ていた。
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十二カ国連合の元首、カイゼル=オルシュタインの住まう居城があるアイリッシュ国に、ある伝令が届いていた。
「ふむ、フューゾルに居るルシアから帝国とオルファノに妙な動きがあると書いてあるな」
「少し拝借します、カイゼル元首」
そう言うと、カイゼルから手紙を受けとる金色の髪の男。
「‥‥‥どうやら、こちらでも調べてフューゾルの市長に協力して欲しい様ですね」
「帝国とオルファノの動き、どう見るかね?カーマイン皇子?」
カーマインと呼ばれた男は、顎に手をあて暫し考えてから言った。
「解りかねますが‥‥‥もしかしたら帝国とオルファノの同盟に亀裂を生む一手となるやも知れません」
「ふむ、そこまでの出来事と思えるかね?」
「或いは、可能性はあるかと」
そこまで聞くと、カイゼルは人を呼んだ。
「誰か」
その言葉に、ドアの外で待機していた兵が部屋へと入る。
「はっ!お呼びで!」
「ルーン=ティノを此所へ」
「畏かしこまりました!」
兵が部屋を出るのを見計らい、カーマインが言葉を発する。
「何故ルーンを?」
「何、確かルーンはルシアとメイシンの二人と仲が良かったと思ってね、土産を持たせて久し振りに再会でもさせてあげようかとね」
「成る程‥‥‥」
カイゼルとカーマインはそう言うと、二人で窓の外へと目を向けていた。
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ゴバの貧民街の外れで、小さな少女が殴られていた。
「糞餓鬼が! 薬一つもマトモに捌さばけねぇのか! あぁ!?」
「ひぐっ‥‥‥許し、て‥‥‥」
その現場の近くを一人の男が通りかかった。
「おい、邪魔だテメェ」
「あぁん!? なんだオメェ?」
「‥‥‥まだこの街で俺様を知らねぇ奴が居るとはな」
そう言うと、無造作に男が二人に近づいて行く。
「やんのかゴラァ! ヒブゥッ!」
鳩尾に足の爪先が突き刺さる。
「俺様ぁクランキーってんだ、これから俺様を見掛けたらクランキー様って呼べ」
足元で踞まり蠢く男を見下ろして、クランキーが吐き捨てる。
「餓鬼、テメェも邪魔だ」
その先で同じ様に踞まり震える少女を見て言い捨てる。
少女が道を空け、震えながらクランキーを見詰める。
「‥‥‥なんだ餓鬼?」
こちらを見詰める少女に睨みを効かせる。
「あの‥‥‥あ‥‥‥あり‥‥‥ありが‥‥‥と‥‥‥」
「礼なんて言ってんじゃねぇ! ぶっ殺すぞ餓鬼が!」
そう言うと、ポケットに手を突っ込み歩き出す。
「あっ‥‥‥」
少女が倒れている男を一瞥した後、少し離れてクランキーの後を追う。
「‥‥‥なんだ餓鬼?まだなんかあんのか?あぁ!?」
「ネイア‥‥‥」
「あ? ねいあ?」
「ネイア‥‥‥私の、名前‥‥‥」
「チッ! 知るか餓鬼が!」
そう言うとまた歩き出すクランキー。
その後をついていくネイア。
「ついてくんじゃねぇ!」
「私、行く場所ない‥‥‥」
後ろで倒れる男を一瞥し、ネイアが言う。
「知るか!」
歩き出すクランキー、ついていくネイア。
「ついてくんじゃねぇつっただろ! あぁ!」
「私も‥‥‥向こうに‥‥‥用事があるの‥‥‥」
泣きそうな顔でネイア。
「あぁそうかよ!」
そう言いまた歩き出すクランキー。
このやり取りがクランキーの隠れ家まで続いた




