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幕魔その1:訓練

幕間なので読まなくっても大丈夫です。

「さて、準備は終わったから次は訓練をするわよ。

やつらは多分夕暮れから夜にかけて襲ってくるわ。吸血鬼だもの。

いい?段取りはこれから夕方まで訓練。その間も交代で見張りをする事。

敵が来たら塹壕に入って合図と共に撃ちまくる。

見張りは村の北と南に二箇所。

それだけ。理解できた?」

「あ、ああ……」

「訓練の内容は?」

「まず最初の一時間は銃を撃ってもらうわ。

一人20発ね。何も狙って当てろとまでは言わないわ。

とりあえず撃てればいいの。とにかく弾をばらまけば相手が当たるわ」

「で、他には?」

「次の一時間は魔術を教えるわ。むらおさのおじいちゃんも教えるだけならできるでしょ?」

「うむ」

「というわけで巻きでやるから全員銃を持って。

ああ、二人だけ見張りね。30分たったら別の人と交代して。さあ急ぐのよ!」


というわけで村の通りを即席の射撃場にして訓練が始まった。

通りの端にカカシを何個も立て、数メートル離れた場所に全員が集まっている。


「はい構えて。構え方はこう、肩幅に足を広げて……

で、ストック、ここね。ここに頬をつけて。で、銃の尻を右肩のくぼみに当てる事。

で、左手はハンドガード……ライフルの下辺りを持って。そう、そのへんね」


ヤソメは自身もライフルを持ち手本を見せながら身振り手振りで教える。


「狙い方はこう、照門、ここね。それと照星、ここの先っぽの部分がぴったり重なるようにする事。

あとは照星のある方向に弾は飛んでくから的を狙えばいいだけ。とりあえず構えてみて」


「あなたは脇が甘いわ。こういうかんじ。そっちはちゃんと肩にはまってない。こうよ。

そっちのあなたは……」


ヤソメは村人にライフルを構えさせては構え方を修正していく。


「はいおまちかね、実践の時間よ。教えたとおりに構えて……はい撃つ」


村人が何列にも規則正しく並び、銃声をとどろかせる。


「で、リロードの仕方はこう。このボルト部分を握って……こうして、こうして、こう。わかった?」


やはり手本を見せてリロードを教えるヤソメ。


「あとは実際にやってるところを見て教えていくわ。さあ順番に撃っていって」


そうして銃声が何発も轟き、村は無煙火薬の匂いに包まれた。



1時間と数十分後。銃の訓練を終えた村人達の目はギラギラとしていた。


「皆そこそこ撃てるようになったわね。とりあえずはこれでいいわ。

次は魔術の訓練をするわよ。むらおさ、あなたにも協力してもらうわ」

「うむ、かまわぬ」


むらおさは椅子に座りながら重々しくうなずいた。


「竜人である以上とりあえずは使えるはずだけど、体質的には問題ないのよね?」

「才はないがのう。故、こやつらは魔術を習わなんだ」


むらおさはため息をつく。


「でも、身体強化と火を噴くくらいはできるんでしょう?」

「身体強化は無意識にしとるだけじゃ。火はよくて火種程度じゃな。雨乞いはできて一人二人じゃろう」


むらおさが苦笑し、ヤソメが驚く。


「えっと、私が聞いた限りでは竜人は火を噴いて空を飛んで力は無双、邪眼を持ち致死の毒を吐く。

雨と水を操る大海の主……だったはずよね?」

「いかにも。じゃがこやつらにはその才が無かった。

才ある者は皆殺されたし、盗賊どもに雨乞いと火吹き以外は教える事を禁じられとったのじゃよ」


ヤソメは少し考えて話を切り出した。


「貴方達の祖は誰?」

「天竜八部衆が八大竜王、善女竜王・沙掲羅サーガラ……の眷属じゃ」

「呪文は覚えているわね?」

「うむ、忘れなんだ」

「じゃあ時間がないからとりあえず魔力の底上げと制御だけ教えるわ。

後はむらおさが呪文を教えて」

「わかった」


ヤソメは人々に手早く指示を出す。


「とりあえずこれからする事を説明するわ。

むらおさが魔力がないのは多分自分で生み出す量が足りないせい。

だからポーションを飲んで外から魔力を取り入れてもらうわ」

「それはありがたい」


むらおさが祈りと感謝の仕草をする。


「それと皆が才がないって思ってたのは……なんて言えばいいのかしら。

私達は皆、魔術を扱う器官を持っているのよ。

でもそれは水道と同じで使わなきゃ目詰まりするわ。ここまではいいかしら?」


ライズが元気よく手を上げた。


「質問!じゃあ俺達も父ちゃんや母ちゃんみたいなのが使えんの?」

「多分ね。で、そのためにむらおさから魔力を皆に流してもらうわ。

それで一気に魔力を流して器官を使えるようにするの」


むらおさが髭を撫でながら感心したようにつぶやいた。


「おはじめ式を今やるというんじゃな」

「ああ、ここではそう言うの?

子供に魔術を使えるようにするための最初に背中を押してあげる儀式みたいなのでしょ?

なきゃおかしいとは思ったわ」


ヤソメもすぐに納得して答える。ひょう、と熱い風が砂と共に吹いた。


「うむ、それを禁じられてしまってな。しかし成人した者にも効く物なんじゃな」

「とりあえず器官を再起動……えーっと手入れするための方法みたいなものなのよ。

なんどもやったらそれは体に負担があるけど、一回くらいなら問題ないはずよ」

「では、おはじめ式の呪文でよかろう」


ヤソメは地面に図を書きながら身振り手振りで説明した。


「ええ、皆手をつないで輪になってむらおさかがその輪に一気に魔力を流すわ。

さあさっさとはじめましょう。はい、むらおさこれがポーションね」


ヤソメは懐からアンプルに入った薬剤を取り出してみせる。


「これを飲めばわが力が一時的にでも蘇る、か。長生きはしてみるものじゃな」


そしてむらおさとヤソメが呪文の確認をしている間に皆が輪になった。


「ここをこういじって……はい、これでできるはずよ」

「遠い星でも使う呪文は同じ、か。縁は異な事よのう」

「まあ、私もいろんな所に行ってるからだいたいの術は知ってるのよ」

「なるほど、経験の賜物か。なんにしろ、助かるわい」


くいっとむらおさがアンプルを飲み干す。相当に苦いようだ。


「皆、準備はいい?」


竜人の村人たちは鱗の生えた腕を握り合ってうなずく。


「では、始めるかの」


すう、とむらおさが息を吸った。枯れ枝のような体に魔力がみなぎる。


「ナウマクサンマンダボダナンメイギャシャニエイソワカ」


それが始まりだった。


「天竜八部衆が八大竜王、善女竜王・沙掲羅が幾千万億の眷属、これ我が祖なり。

我が祖、霊鷲山にて釈尊により阿耨多羅三藐三菩提、無上正等正覚を得たり」


どくん、どくん、と鼓動のようなものを皆が感じる。


「我、この者らを八大竜王が眷属と認め、その末席に再び加わらせん。

我らの血を以って我が祖の業を使わしめたまえ」


やがて、一同を電撃のような力の奔流が襲った。


「お……おお!すげえ!こんなに俺は魔力が使えたのか!?」

「うおっ危ねえ!火を噴いたら屋根を焦がすところだったぜ」

「気をつけろよ!だけどこれならいける、やれるぜ!」

「おお、やってやる!ステンノ一家が何だ!」


人々は試しに火を噴いたり、軽々と宙返りをしてみせたりする。

皆、力が上がったのがわかった。人々の顔にはいまや明確になった希望があった。


「できたようね」


ヤソメが満足そうな笑顔でうなずいた。


「うむ。おそらくはな。ライズはこちらでやる。ついて来い」

「これが、おはじめ式。解ったよ、じいちゃん。オレもこれで一人前の大人になるんだな」


ライズはきらきらと目を輝かせながら誇らしげに言った。


「うむ、これでおんしも我等が一族となるのじゃ。我が一族が誇りを取り戻すめでたき日にの」

「うん、オレも戦うよ。だって、オレも大人の一人なんだろ?

だったら故郷を守らなきゃ」

「よい気構えじゃ。では用意ができたぞ。星の旅人よ。今しばらく席を外してくれ」

「いいわよ。最初のおはじめ式は特別なんでしょ?」

「うむ、そういうことじゃ」


10分もたたずにライズは出てきて外で大きく伸びをした。


「どう?魔法の世界って奴は」

「よくわかんねえ。でも、腕力が増したのは気分がいいぜ」

「それで多分10%くらいの強化率よ。まあ、今はその状態デフォルトで収めておいたほうがいいわ」


しばらく考えた後、ライズは得心したように言う。


「あー……いきなり力が強くなりすぎちまったらコントロールできないもんな」

「そういうこと。一つくらい術を試してみたら?やり方さえ合ってたらできるものだし」

「うん、そう思ってじいちゃんから一つだけ教えてもらった。姉ちゃん、ちょっと見ててくれよ」

「ええ、危なさそうだったら止めるわ」


ライズはすう、と息を吸うと呪文を書いたメモを見ながらたどたどしくしかし力強く叫ぶ。


「一切の諸仏に帰依し奉る。

万障一切を燃やし尽くす大蛇の竜王、火光味龍王よ!

その炎を持って一切障難を滅尽に滅尽したまえ!あなかしこ」


唱え終わるとライズは大きく息を吸い込み、炎と共に吐き出した。

その炎は火炎放射のように数メートル伸びると自然に消えていった。

丁度、スプレーに炎を翳した時のような感じだ。


「う、うわあ……本当に火が噴けたよ。やっべえ」

「やったじゃない。あなたの始めての魔法よ」


ヤソメが笑顔でライズの背中を押す。


「俺たち、勝てるのかな」

「勝てるかどうかじゃないわ。勝つの」

「ああ……そうだな」


自然と、笑みがこぼれていた。

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