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星空の用心棒その3


朝である。

この星の時間で朝9時ごろにヤソメは眼を覚ました。


窓を開け外を見てみる。

太陽はさんさんと降り注ぎ、砂混じりの乾いた風が吹き抜ける。

荒野は赤く赤く。一部の農地以外は岩と砂ばかりだ。

だが、雄大で美しい。


「この星は、美しいわね」


朝の空気を堪能した後、ヤソメは用意された服を着てみる。

清潔なウェスタン風の白いシャツに黒いジーンズ。

フリンジ(皮糸がわさっと櫛のようについているアレ)が胸元や肩、袖にたっぷりとついた明るいレンガ色のレザージャケット。

シャツにもジャケットにも花柄や文様柄の縁飾りの刺繍がこれでもかとついている。

とどめには皮のカウボーイレギングスとブーツ。そしてテンガロンハット。


荒野のハードな使用にも十分耐えられるタフなレザーだった。


「なかなかいい服じゃない」

<仕込み針や魔術の形跡はないよ。着ても大丈夫じゃないかな>


いそいそと着込む。

数分後には何処に出しても恥ずかしくないカウガールがそこに立っていた。

あるいは女ガンマンだ。


テンガロンハットを目深に被りポーズをとってみる。


「うん、なかなかサマになってるじゃない」


そこにドアが無遠慮に開く。


「おーい!姉ちゃん、早く起きてくれよ!

急がないと山賊共が来ちまうんだろ?皆朝から待ってるよ!」

「いい?坊や。レディの部屋に入るときはノックするものよ。

あと今見たのは忘れなさい」


ヤソメがライズのほっぺたをつねり上げる。だがその手は優しい。


「いででで、わかったよ。姉ちゃんがよくわかんないポーズとってたのは忘れる」

「口が減らないわねー。まあいいわ。急ぎましょう」

「オッケー。あとなかなか似合うんじゃね?そうしてると普通っぽいよ」

「ありがと」



「遅い朝じゃの、星の旅人よ」

「こっちは星の世界を旅してきてようやく休めたのよ。寝坊もするわ」

「それで、我等は何をすればよい?」


「おお!なんでもやってやるぜ!」

「俺達も戦うぞ!」


「そうね、まずこの札を村の端っこに10mごとに置いて。村をぐるっと取り囲むようにね。

それから札と札をつなぐ様に酒を撒いて。酒の種類は何でもいいわ」

「ふむ、儀式魔術か」

「そうよ。あとで儀式を行うから、その時まで楽しみに待ってて。

あとちょっと外に出るわよ。あまった人たちも全員出てきて」


ヤソメが酒場を歩くとモーセのように人垣は割れる。

出てきた先は太陽が照りつけ砂塵が舞う表通りだ。

ヤソメは通りの中央に立つとアーサーに話しかけた。


「アーサー、銃を出して。とりあえずスプリングフィールドM1903を200丁。

弾丸が通常の30‐03スプリングフィールド弾が2万発。聖句彫り銀弾が一千発」

<いいよ、でも君にも相応の負担になることは考慮してほしい>

「解ってるわ」


大通りがまばゆい光に包まれたかと思うと、数秒後には200丁の銃と二万一千発の銃弾が整然と置かれていた。

ヤソメは肩で息をしている。懐から小瓶を取り出すと一気飲みした。


「あー、相変わらずポーションは不味いわね……」


群集がおおお、と歓喜に沸いた。


「あんたたち、とりあえず一人一丁取りなさいな。

弾丸は一人100発、マガジンにすると20個ね。

それから一人一個赤いマガジンを取りなさい」


それぞれに獰猛な笑顔を見せながら蟻のように銃にむらがる群集たち。


「す、すっげえ……」

「ほらライズ、あんたも一丁とるのよ。一応「一人前の男」なんでしょ?」

「ああうん。今の魔法?それともレプリケーター?」

「秘密よ。すべて終わったら教えてあげる」


そうして全員がライフルを取った。


「この赤いマガジンは……?」

「ああ、それね。それはいわばあいつらにとって猛毒になる弾丸よ。

本番まで絶対取っておいて」


竜人の一人がヤソメに声をかける。


「札と酒、巻き終えましたぜ!」

「ありがとう。それじゃ、一つ派手にやるわよ!ついてきなさい!」


ヤソメを先頭に村の入り口までぞろぞろと皆ついてくる。


「撒いたお酒の残りは?」

「これです」

「そう、ちょっともらうわよ」


ヤソメは酒を一口、口に含むと地面にあぐらをかいて座る。

そうしてヤソメはまじないの呪文を唱え始めた。


「ひふみよいむなやここのたり。ふるへ、ゆらゆらとふるへ」


その瞬間、空気が変った。

昼なのに夜のように暗い感じがする。

ざわざわと、何かがざわめくような感じがする。

竜人である村人たちも皆残らず感じ取った。

むらおさが懐かしそうな笑みを浮かべる。


五馬姫いつまひめ、禰宜野の打猴うちさる頸猴うなさる

八田やた、國摩侶、網磯野あみしの小竹鹿奥しのかおさ小竹鹿臣しのかおみ、鼠の磐窟いわやの青・白。これ我が祖なり。

我、土蜘蛛八十女つちぐもやそめの連座に加わる者。

この血を以って我が祖の業を使わしめたまえ」


ヤソメは凜と研ぎ澄まされた表情で地面の一点を見つめる。


「この地に災い凶賊ばらば来たれば我八重垣、掘、土塁を以って打ち払い退けん。

さればこの地の土、磐石いわ、皆悉く、我が祖、我が血によりて我が意に沿うべし!

臨む兵、闘う者、皆、陣烈れて前に在り。急々如律令!」


その瞬間、土に潜む魔性が歓喜した。

ぼこぼこぼこ、という音と共に地面が村を中心とした二重同心円を描くように陥没した。

さらに等間隔に人の背の高さほどの岩が隆起する。


おお、と村人たちから畏怖の声が上がる。


そしてヤソメが手を一振りすると岩と岩の間に極細の糸が張り巡らされる。


「と、こんなもんかしら?」

「これが魔術……」


ライズが驚きと興奮に満ちた声でつぶやく。


「ああ、ライズ。お前の父ちゃんや母ちゃんもこうやってやってたっけな。

ツチグモの姉ちゃん、さすがだぜ」

「ありがと。お褒めに預かり光栄だわ」

「さて、旅人よ。準備は整ったようだが、そろそろ我らに何を行うか説明してくれるな?」

「ええ、いいわよ」


ヤソメは村人を集めると教師のようにライズに質問した。


「まず盗賊をなんとかするためにどうすればいいと思う?はいライズ答えて」

「えっと……攻めるか守るか?」

「そう、でも素人の貴方達にできるのは迎撃しかないわ。

攻めるためにはいろいろと専門的な知識がいるけど、守るためにはこうやって村を要塞化してしまえばいい」

「うんうん」


全員がうなずき、ヤソメは作戦を説明する。


「今彫った溝は塹壕っていうの。敵の馬は足を取られ前に進めないし、中に入って敵を射撃すればそうそうな事じゃ突破されないわ。

あと一番外側に切断糸を張り巡らせたからそこを馬で通ろうとすれば足か首を切られておだぶつよ。

今から誰かできるだけ高い建物に登って敵が来るかどうか見張って。

全員、一番内側の塹壕に入って待機。敵が近づいて来たら一斉射撃ね」


ライズが素朴な疑問をなげかけた。


「それで、一斉射撃した後はどうすんの?」

「撃って撃って撃ちまくるのよ!絶対に村の中に入らせちゃ駄目」

「もし入られたら?」

「入られないようにして。そのために糸と塹壕を掘ったのよ。

乗り越えるまで必ず時間がかかるわ。その間に撃ちまくるのよ」

「いやでも……」

「どうしても入られたときの事、聞きたい?」

「うん」

「そのときは終わりね。全員なんでもいいから武器を持って死ぬまで闘うしかないわ

もちろん、私も闘うけど」


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