1話
「これだから、先生ってのは」
「・・・え?」
「前は楽しかった。でも、今はお前といても楽しくない」
頭がくらくらする。何が起こってるの。何が。
さっきから考えることはそればかり。
遥一の目がぎらぎらとしていてとても怖いのに、離すことができない。
あんなに賑やかだった話し声も車やバイクの音も一切しない。聞こえるのは、遥一の吐く息の音と、私の心臓の音。
「そんなにいちいち子どものこと気にするんだったら、一生学校にいろよ」
「ちょっと、何馬鹿なこと・・・」
「付き合わされる俺の気持ちを考えろよ」
冗談であってほしい。きっと冗談なんでしょ。またまた、そう言って私を驚かそうとしているんだよね。分かってるんだから。・・・そうでしょ?そうなんだよね?ねえ。
そう言って笑おうとしたけれど、口の端がひくりと引きつって震えただけで、笑った顔にはきっとなっていない。
胸が痛い。心臓が痛い。叩かれたわけでも刺されたわけでもないのに、どうしてこんなにじくりじくりと痛みを感じるの。
遥一の顔は変わらない。口が開く。
嫌だ、聞きたくない。何を言うの。怖い。怖い、怖い、怖い!
耳をふさぎたいのに、体が動いてくれない。指先がピク、とかすかに動いただけ。
「別れよう」
涙は、流れなかった。