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料理人になろう  作者: 一樹(いつき)
酒場「跳ね鼠」
4/18

三食目・肉まん

上手い文章より美味い文章になってるかが気になる。

これを見て腹が減ってくれたら嬉しい。

 王都バルトグラムで作られる料理は、あまり種類が多くない。

 食材となる魔物がスタンプボアとホロ鳥くらいで、さらに川や海といった豊富な恵みからは少し離れているからだ。

 幸い湧き水が豊富だったため水の心配は無いが、色々な食材はほぼ川の近くにある村や、他国からの輸入に頼っていた。

 また近年になり、他国との同盟による食材の多様化には成功したが、まだ料理の多様化までには対応しきれてなかった。


 つまり


 「バルトグラムってあんまり凝った料理無いんですね」


 食材を生かしきれてなかった。


「そうだね、バルトグラムは冒険者が多いから。早く安く量が多いのが定番かな。チトセが作る料理みたいに凝ってるのはあんまりないよ。それに酒さえあれば味はあまり気にしないって人も多いし」

「そういや、見た目を気にした料理作っても、変な料理呼ばわりだもんなぁ」

「はは、でもハンバーグは大人気じゃないか」

「あれってがっつり肉ですからね。他にも胡瓜の浅漬けやら野菜の煮物風やら作っても誰も食わないじゃないですか」

「まあ食べてみると美味しいんだけどねぇ」


 皿を洗いながら雑談する二人。昼も終え、もうすぐ夜の営業時間に近づいていた。


「さて、もう洗い物も終わったし、休憩してきていいよ」

「んー、じゃあ散歩がてら市場見てきます。また新しい食材が見つかるかもしれないんで」


 新たな食材。料理人にとってそれは、黄金よりも価値が高いであろう。


「ゆっくりしておいで」

「はい」


 そこに


「チトセ市場行くの? 私も行っていい?」


 ひょっこりと厨房を覗きながら、ミーナが声をかけてくる。


「ああ、俺はいいよ」


 ちらりとギリムの方を見る。


「あまりチトセに迷惑かけるんじゃないよ」

「うん。わかってる」


 どうやらこちらも大丈夫なようだ。

 いそいそと準備のために二階へあがるミーナ。


「ミーナをよろしくチトセ」

「はい。暴走しないように見張ってます」


 どうやら相当信用されてないようだった。



「あれ何かなぁ? あっ! あっちも気になる」

「おいおい、走るなよ」


 市場には珍しい食材が揃っていた。

 また、朝に来る市場とは違い、屋台の数が全体的に増えており、そこかしこから肉の香りが漂ってくる。


「くんくん。チトセ、モーモーの串焼きだって!いいにおい。ねぇ、食べてみようよ」

「駄目。これから夕食だろ。買い食いは認めない」

「えー、チトセはよく屋台で食べてるじゃん」

「味の研究に食べてるの。あーあ、せっかく夕食には新しい料理作ろうかと思ったのにミーナは屋台で済ますんだ。じゃあ新作は俺とギリムさんで……」

「ミーナ我慢する!」


 目を爛々と輝かせて小さい子供のようになるミーナ。よほど楽しみらしい。


「ったく、現金なやつめ」


 あまりの変わり身の早さにチトセは思わず苦笑する。

 こと料理のこととなると、ミーナは素直だった。


「ねね、なに作るの!?」

「うん? ああ小麦……」

「あっ、やっぱりダメ! 言わないで! 今から考えさせないで!」


 答えようとした瞬間に手のひらを反すように止めるミーナ。今話してしまうと妄想が止まらなくなるようだ。


「じゃあ、見てのお楽しみだな」


 まずはそのための、材料調達から始めた。



「キノコはこれでよし。今の時期にタケノコはさすがに無いよな」

「ねね、タケノコって何?」

「あー、そもそもこっちでは無いのか。タケノコってのは、竹って植物が成長する前のことだ。竹の子供だから竹の子」

「美味しい?」

「ああ、美味いぞ」

「へー、食べてみたいなぁ」

「見つかったら買っといてやるから、今日は我慢」

「はーい」


 雑談しながら市場を回るチトセとミーナ。

 どうやら、本来ならキノコとタケノコを使う料理らしい。


 キノコとタケノコ。いや、この話はやめておこう。

 戦争を引き起こすわけにはいかないんだ。


 とにかく材料を買い揃えた二人は、酒場「跳ね鼠」と戻っていくのであった。



 今日もスタンプボアの肉を使う。

 まかないハンバーグ用にと取っておいたタネを使い、作っていく。


 まずは小麦粉。

 強力粉と薄力粉。一対一でお湯を使いこねる。

 ダマが出来ないように、時に大胆に、時に繊細に。その姿はまるで、小麦粉に語りかけているようだ。


 料理人と小麦粉。二人だけの語らい。


 それは、寂しくも小麦粉が一つに纏まると同時に終わった。


 瞬間の沈黙

 そして、発酵


 お湯で温めた布をボウルに被せる。ここでしばしの別れ。


 タネが取り出される。

 粘り気のあるその姿。そのまま焼けばハンバーグ。

 だが今日は違う。


 取り出すのはキノコ、そしてネギ。ショウガ。

 ああそうだ。

 今日のメニューは――


 肉まんだ


 紫色の椎茸に似たキノコとネギを粗微塵に切る。

 ショウガは微塵切りにしてタネと混ぜ合わせる。


 美味しくなりますように。


 祈りながらこねるその姿――

 聖書に出てくる聖人のように――


 そして調味料。

 塩、胡椒は少々。酒を入れれば香りの花が咲き、フォンを入れて大地に根付く。


 大地の恵みに感謝

 世界に感謝

 すべての食材に感謝


 ありがとう

 産まれてきてありがとう


 美味しくなってありがとう


 手早く混ぜると発酵させた生地を切る。そして円形に延ばす。

 薄すぎず厚すぎず。

 タネを包むために。

 タネを守るために。


 厚さ二ミリ。ベストなそれにタネを包む。

 円の中心に落としたそれを、外側から包み込むように閉じていく。

 崩れないように、美味しく見えるように。


 出来た姿はまるで蕾。

 美味さの花が開く前。


 出来た姿はまるで果実。

 瑞々しい果肉を守る壁。


 蒸す。


 白い蒸気が吹き上がる。

 湯気のカーテンを掻き分けて現れたその体。


 張りのある白い肌

 汗を纏うその姿は

 世界に一つだけの


 奇跡



「私は今、世界の真理を見た」


 恐る恐るその肌に伸ばされる手。


「熱っ!」


 慌てて引っ込める。

 ごくり

 焦ってはダメだ。焦っては負けだ。


 もう一度伸ばされる手。

 熱い。だが、耐えられる。


 両手で掴み直し、いざ!


「おいミーナ、中はかなり熱いぞ」

「んー! ふおー! ふんー! こおぉぉぉぉ!」


 よほど熱いのか、表情が七変化する。

 しかし、さすがと言って良いのか、ミーナに限って料理を吐き出すことは絶対に無かった。


「熱い! 美味しい! でも熱い!」


 熱と美味さの無限地獄。

 食べると熱い。だが美味い。

 食べると美味い。だが熱い。


 フォンと絡み合う肉汁が溢れだし、キノコの旨味が溶け出す。ネギの歯応えがアクセントとなり、ショウガが全体を調和する。


 新たなる誕生。

 新たなる出会い。

 おめでとう、肉まん。

 ありがとう、肉まん。


 君は、美味しい


「チトセ、もう一つ」

「そのうちミーナは食べ物で痛い目みるぞ」

「それこそ本望だよ」

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