07
視点は、フィールド中央の惨劇から外れ、その外縁部に広がる背の高い草むらへと移った。そこには、疲弊した表情を浮かべたシンジが立っていた。彼は頬についた砂埃を拭い、遠くで渦巻く赤い霊圧の塊をじっと見つめていた。
「まだ初日の最初の授業だってのに……」シンジは溜息をついた。その声は、エネルギー障壁が発する低い唸りにかき消されそうなほど微かだった。「どうして今、こんなことにならなきゃいけないんだ?」
彼の向かい側で草が分かれ、ミア・ロペスが姿を現した。彼女は歩いてはいなかった。自身の「ディジャ(Djinn)」の肩に、王者の如く鎮座していたのだ。そのディジャは、ローズゴールドの装甲と流れるような白絹を纏った、背の高い優美な姿をしていた。その存在からは、圧倒的なカリスマのオーラが放たれている。
「あら? シンジ君、もうあの転校生と接触したの?」ミアは、いたずらっぽい好奇心を滲ませた声で尋ねた。彼女は片手で顎を支え、赤い光の方へと目を向けた。「それで、彼はどんな感じ? 強いの?」
シンジに迷いはなかった。「ああ、強いよ。たとえ俺たち全員がディジャを持たず、素手だけで戦ったとしても……それでも勝つのは彼だ」
彼が思い描いていたのはタケルではなく、その内に潜む「アクマニ」だった。
ミアの瞳に、好戦的な輝きが宿る。「自信満々ね! じゃあ、その言葉が本当かどうか、確かめてみようかしら?」
彼女は自身のディジャの肩を叩き、乱戦の中央へ向かうよう合図を送った。だが、彼女が飛び立つ直前、シンジが手を挙げた。その声は、警告を告げる囁きへと落ちる。
「行く前に……言っておく。今の彼は、もう彼じゃない」
シンジはケンタ先生のやり方を熟知していた。教官が試合のルールを変更したのは、単にタケルの肉体的な限界を試すためではない。変化を察知したからだ。少年の「漏れ出した」エネルギーが、王の冷たく凝縮された真空に取って代わられた、その瞬間を。
ミアは足を止め、肩越しに振り返った。「どうして? 彼はエモい少年か何かなの? 悲劇的な過去でもあるとか? まぁ、どうでもいいわ! 行くわよ、アモール・コラソン(Amor Corazón)!」
ローズゴールドのディジャが前方へと突進する。その動きは踊り子のように優雅でありながら、貨物列車のような重量感を備えていた。
シンジは、彼女の背中が揺らめく霧の中に消えるまで見送った。「ったく」と、彼は独り言ちた。「警告はしたからな」
「顕現――『ステルス・エンピ(Suterusu Enpi)』」
シンジの背後の影から、滑らかで空気力学的な形状をした個体が現れた。それは光を飲み込むようなマットブラックの装甲と、結晶体のようなパーツで構成されていた。ディジャがその四肢をシンジに絡ませると、周囲の景色が波打ち始める。
数秒もしないうちに、シンジとそのディジャの姿は消失した。ただ透明になったのではない。彼らは「空気そのもの」と化し、肉眼では捉えられず、標準的な霊的センサーでも検知不可能な存在となったのだ。
シンジは宙へと跳ね上がった。その体重は、ステルス・エンピの静かな、目に見えぬ手によって支えられている。彼は戦場の中央へと滑空を開始した。ケンタによる「1対5」の試練という装置の中に紛れ込んだ、一羽の幽霊のように。
遥か前方、ミアたちが赤い輝きへと集結していくのが見えた。




