06
バトルロイヤル開始から二十分が経過し、DAAアカデミーの活気ある裏庭は、静寂に包まれた戦術的迷宮へと変貌していた。タケルは広大な樫の木の梢に身を潜め、浅い呼吸を繰り返していた。
「クソ、長すぎるだろ……みんな一体どこに隠れてやがる?」
葉の間から鋭い視線を送りながら、彼は低く呟いた。
その時、下の動きが彼の目を引いた。一人の生徒が、獲物を狙う獣のような足取りで背の高い草むらを歩いている。その手には二挺のセミオートマチック拳銃。ソルトアイアン製のスライドが午後の陽光を反射していた。
「二丁拳銃使い(デュアル・ガンスリンガー)か」
タケルの『適応の神』としての本能がうなりを上げる。「お手並み拝見といこうじゃねえか。まともに狙えるんならな」
タケルは奇襲を仕掛けた。枝から飛び降り、相手を地面に組み伏せようと音もなく撃ちかかる。――だが、無残に失敗した。
タケルが空中の半ばに達するより早く、その銃使い――天願サトルは、踵を軸に鋭く旋回した。その銃口は、すでに落下してくる標的を捉えている。
「なぜ、それほどまでにエネルギーを漏らしている?」
天願の声は冷徹で、分析的だった。
タケルは芝生の上を滑るようにして、荒々しく着地した。彼は困惑した様子で自分の手を見つめる。「……漏らしてるって、どういう意味だ?」
「エネルギーが垂れ流しだ」天願は冷ややかな眼差しで説明を続ける。「暗闇の中の灯台も同然。見つけるのは造作もないし、狙うのはもっと容易い」
天願の足元から影が剥がれ落ち、彼の構えを模した、多腕の霊的な実体が立ち上がる。
「顕現:虚弾」
ジン(魔神)の半透明の手が天願の手と重なり、安定した青い光を放つ。それは銃の精度を超自然的な次元まで増幅させた。天願は引き金を引き、銃口をタケルの眉間に真っ直ぐ向けた。
「では、大人しく『散って』くれ」
彼は無味乾燥に言い放った。
マズルフラッシュが弾ける。タケルは氷を突きつけられたような鋭いアドレナリンの奔流を感じた。空中で体をひねると、弾丸が熱を帯びて髪を焦がしながら耳元をかすめていった。
「うわっと! 今のは危なかったぜ!」
タケルは叫びながら、転がるように体勢を立て直す。
天願の表情は微塵も動かない。「後ろを見ろ」
タケルが振り向いた瞬間、本来なら木の幹に突き刺さっているはずの弾丸が、まるで追尾ミサイルのように空中で弧を描いた。彼は草むらへ飛び込んだが、弾丸は彼の肩をかすめていった。
「はあ!? なんで戻ってくるんだよ!」
「僕のジンは、弾丸を曲げることができる」天願は次弾を放ちながら歩み寄る。「標的に当たるまで、その軌道を書き換え続ける。……何があろうとな」
タケルは必死に動き回る残像となった。避け、潜り、転がる。だが、『適応の神』は物理法則を無視するシステムを前に苦戦を強いられていた。擦り傷は深い切り傷へと変わり、チャコールグレーの制服はボロボロになっていく。
「ハァ……ハァ……きついぜ!」タケルは肺を焼くような息を吐き、毒づいた。「どうすればいいんだよ……!」
「ここで終わりだ」
天願は両方のマガジンを同期した一斉射撃で空にした。十二発の弾丸が空を切り、カオスで逃げ場のないクモの巣を描きながら迫る。
「しまっ――!」
鈍い衝撃音が連続した。タケルの顔、首、そして胴体に深い切り傷が刻まれる。彼は膝をつき、鮮血が緑の芝生を染めた。そして最後の一発――『とどめの一撃』が、彼の胸に向かって這うように進む。時間は引き延ばされ、弾頭が心臓まであと一センチに迫ったその時、世界が糖蜜のように停滞した。
その瞬間、リングが弾けた。
タケルの手から盲目的な紅蓮の光が爆発し、精製されていない剥き出しの力の衝撃波が下の地面を粉砕した。塵と霊的なスモッグが巻き上がり、すべてを覆い隠す。
天願は銃を下ろし、息を吐いた。「ケンダ先生が、彼が死ぬ前に試合を止めたのか……」
彼は落胆した様子で背を向けた。「先生、なぜあんな奴を招いたんです? 彼は弱い――」
「……誰が、その『先生』だ?」
塵の雲から漂ってきたその声は、重く、古く、そして恐ろしいほどの愉悦に満ちていた。天願は凍りつき、彼のジンは突如としてパニックを起こして明滅する。「なに……? 誰だ――」
天願が思考を終える前に、その顔面を巨大な手が掴み、彼を沈黙させた。理解不能な速度。そこには――あるいは、彼を支配している『何か』は、禍々しく赤い瞳を燃やして立っていた。
「俺は貴様の先生ではない」
アクマニは低く笑い、骨を砕くような力で天願の顎に指を食い込ませた。「……そして、俺は弱くもない」
天願の心臓が肋骨を激しく叩く。(こいつ、正気か!?)彼は戦慄した。(漏れ出ていたエネルギーが止まった……。オーラが、まるでブラックホールだ……!)
裏庭を見下ろすバルコニーから、真月ケンタがポニーテールを揺らしながら手すりに身を乗り出し、クスクスと笑った。
「ショウタイムだ、魔神の大王」彼は囁いた。「『増幅の王』が、ようやく乗り気になってくれたね」
ケンタはタブレットのボタンをタップし、フィールドに潜む残りの四人の生徒に新たな命令を飛ばした。
「クラスのみんな、新目標だよ! 全員で転校生を取り囲んで。――これよりバトルロイヤルを終了し、共闘を開始する」
影が動いた。シンジと他の三人の生徒が潜伏場所から姿を現し、多種多様で致命的な形態のジンを顕現させる。
「さあ」ケンタは口角を吊り上げた。「5対1だ。王様が僕たちのカリキュラムに耐えられるか、見せてもらおうか」




