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芽吹き

ある日の訓練場

夕暮れ。

兵士たちが訓練場の修復を終え、静かに去っていく。

中央に残るのは、アピスとネクトリアだけ。


白銀のレイピアを、両手で静かに見つめる。

「……名前、つけるんだよね」

小さく呟くネクトリア。


武器に名を与えると、その本質が固定される。

魔力が応える。

刃に自らの在り方が宿るのだ。


アピスは静かに告げる。

「そうです。

姿は形であり、名は願いです。

あなたがどう在りたいか――その宣言」


風がそよぐ。

ネクトリアは目を閉じる。

重さではなく、貫くでもなく――

思い出す。

あの日の花畑。

守ってくれた姉の背中。

訓練の日々。

それでも立ったこと。

(わたしは……)


レイピアをゆっくりと地面に突き立てる。

ザクッ……乾いた音。

両手を柄に添え、目を閉じて魔力を流す。

(みんなを……この国を……守りたい――)


淡い光が足元に広がる。

兵士たちの知らない、柔らかな波動。

土が、ふわりと揺れる。

ネクトリアの声が静かに響く。

「あなたの名前は――」


一拍。

鼓動。

「――《リヴ・フロル》」


白銀の刃が優しく光り、その姿を変える。

ただのレイピアだった形は、一輪の花のように。

刀身は誇り高き雄蕊のように。

刺さった地面のひび割れから、ちいさな芽が出る。

くるり、と伸びる。


兵士たちのいない静かな訓練場で、一輪の小さな白い花が咲いた。

ネクトリアは目を開く。

「……え?」

足元を見る。

「お花……?」


自分の魔力が、土を温めた。

アピスの瞳が、わずかに見開かれる。

ほんの、わずかに。

「……なるほど」

小さく呟く。


“生命”

奪う力ではない。

貫くだけの力でもない。

通した先に、芽吹かせる力。


ネクトリアはしゃがみ込み、花に触れる。

温かい。

「わたし……」


まだ意味は分からない。

だが胸の奥が、確かに満たされている。

レイピアが、静かに共鳴する。

《リヴ・フロル》――今はただの小さな花。

だがいつか、戦場に咲き乱れる。

揺るがぬ光になる。


夕陽が沈む。

白い花が、風に揺れた。

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