流星
睨み合う、白と黒――
次の瞬間。
ネクトリアが、消えた。
兵士たちの視界から完全に。
「なっ――」
残像。
白銀の軌跡が、幾重にも走る。
地面を蹴る音すら置き去りにした踏み込み。
速い。
速すぎる。
ヴェスピナの黒槍を、横から弾く。
上から突く。
背後へ回る。
三方向同時攻撃のような錯覚。
ギンッ!
ギギンッ!!
火花が連続する。
ヴェスピナの表情が、わずかに歪む。
(速ぇ……!)
重さでは捉えきれない。
振り抜く前に、もういない。
懐に入られる。
外へ抜けられる。
翻弄。
完全に、スピードで制圧されている。
兵士たちはただ目を見開く。
「ネクトリア様が圧している…!?」
「どこだ……!?」
「見えない…!!」
白銀の閃光が、四方八方から襲う。
ヴェスピナの頬を、かすめる。
血が一筋、流れた。
静止。
一瞬。
そして。
ヴェスピナは笑った。
「……わかったよ」
黒槍を、地面に突き立てる。
ゴォンッ。
衝撃が走る。
次の瞬間。
黒槍が、霧散した。
消失。
「え……?」
ネクトリアの動きが、ほんの一拍だけ鈍る。
その瞬間。
空気が変わる。
ヴェスピナの周囲に、黒い光が集束する。
一点ではない。
無数。
パキパキ、と空間が軋む。
顕現。
一本。
二本。
十。
二十。
いや――それ以上。
一回り小さい、漆黒の槍が。
ヴェスピナの周囲に、円陣のように浮かぶ。
「……お前は強い、ネクトリア」
低く告げる。
指が、わずかに動く。
ビュンッ!!
一斉射出。
黒い雨。
いや、黒い流星群。
ネクトリアが地を蹴る。
避ける。
弾く。
だが。
今度は違う。
槍が、空中で軌道を変える。
追尾。
「っ!?」
背後。
側面。
死角。
三方向から迫る。
ギィン!
ギンッ!!
レイピアが閃く。
弾き返す。
だが次が来る。
息をつく暇もない。
(速いのは……わたしだけじゃない)
理解する。
これは“対応”。
姉は、追いついてきている。
ヴェスピナは動かない。
中心に立ったまま。
無数の槍を操る指揮官。
「止まったら死ぬぞ、ネクトリア!」
黒槍が足元を抉る。
跳ぶ。
空中。
その瞬間を狙って、四方から挟撃。
逃げ場なし。
兵士たちが息を呑む。
だが。
空中で。
ネクトリアの目が、澄んだ。
(もう……恐れない)
レイピアを、真っ直ぐ構える。
迫る槍の“隙間”。
ほんの僅かの空白。
そこへ――
踏み込む。
空中で。
バシュッ!!
白銀が、一直線に伸びる。
四本の槍を、同時にすり抜ける。
そして。
ヴェスピナの目前に、出現。
距離、ゼロ。
兵士たちが叫ぶ。
「入った!!」
ヴェスピナの瞳が、細まる。
「……上等」
黒槍群が一斉に帰還する。
間に合うか。
刺さるか。
次で、決まる――。




