絡土
ーー半月後・訓練場ーー
「はじめなさい」
アピスが扇を振るう。
先に動いたのは――なんとネクトリアだった。
ヴェスピナがニヤリと笑う。
単純ゆえに強力なネコジャラシの大ぶり。
最小の動きで躱すネクトリア。
次の大ぶり。
ネクトリアは地面を滑り込んで距離を取る。
「逃げんな!!」
さらなる地を這う大振り。
素早く宙を舞うネクトリア。
ヴェスピナはそれを逃さんとネコジャラシを構え直す。
その瞬間ーー
ヴェスピナに飛び掛かる一撃。
ヴェスピナ、とっさにネコジャラシで振り払う。
違和感。
ネコジャラシに、土の塊がこびり付いた。
身を交わし、跳び、滑りながら。
モウセンゴケの粘り気で作った泥団子。
その鬱陶しさを、ネクトリアは誰よりも知っていた。
ヴェスピナ、ネコジャラシを振い続ける。
モウセンゴケを軸に回るように、ネコジャラシを払うネクトリア。
アピスが驚く。
(受け流した…!?)
土埃が巻き上がる。
荒々しく。
獰猛に。
暴れ狂うネコジャラシを、
モウセンゴケの粘液で滑らせ、勢いを殺し続けるネクトリア。
そしてーー
ズシン。
地に落ちたネコジャラシ。
ーーーッ
ヴェスピナの目が鋭く光る。
大量の土煙を帯びたネコジャラシ。
モウセンゴケによる受け流しの結果、その粘液を大量に纏っていた。
絡みついた砂利土は、ネコジャラシの柔らかな茎では支えきれなくなっていた。
一撃は決められなかった。
しかし――
敵の武器を封じた。
到底倒せる相手ではない。
しかし――勝ったのだ。
アピスが口を開く。
「そこまでーー」
ヴェスピナは大声でケタケタと笑った。
「やるじゃねえか!!お前のやり方!!気に入ったぜ!!」
ネクトリアは緊張の糸が緩み、膝から落ちた。
「勝った…」
「バカ、勝ってねーよ」
アピスは言う。
「この勝負、引き分けとします」
「は!?」
ヴェスピナが目を丸くして言う。
「いやいや姉貴!ウチはまだ一撃ももらってないって!」
「お姉様!わたしはお姉ちゃんを倒したよ!!」
「ヴェスピナ…あなたはネクトリアに一撃も与えれていないのです」
「いや、それは姉貴が止めるからー」
「……何か…?」
「いえ…何も」
「そしてネクトリア…あなたが倒したのはネコジャラシです…」
「ぁ…」
しばしの沈黙の後、アピスが口を開いた。
「さて…次はわたくしがお相手いたします」
その場の全員の背中が凍りついた――。




