毛氈苔
――ネクトリアはむっと顔をしかめ、起き上がる――
「ネクトリア。あなたはこれを」
再び扇が振られる。
地面が裂けるように盛り上がり、
黒光りした小さなモウセンゴケが現れた。
「……何、これ」
細い茎。
先端に、粘る液体。
「―――重ッ!!」
腕が沈む。
小さい。だが異様な質量。
「それで、ヴェスピナに一撃を加えなさい」
「えぇ……」
「そんな訳わかんねぇ雑草、当たるかよッ!」
ヴェスピナが笑う。
アピスの扇がバッと開いた。
「それでは――始め!」
地面が爆ぜる。
「オラァ!! どうしたネクトリア!!」
巨大ネコジャラシが唸る。
ドンッ
バンッ
ゴオォォッ
土煙。
まるで嵐だ。
ネクトリアは避ける。
避ける。
避ける。
両手で持つだけで限界の歪な植物。
腕が震える。
太陽が真上に来た頃――
異変。
動きが、鈍い。
無傷。
だが――
モウセンゴケが、じとりと光る。
ネクトリアの腕。脚。
砂と土が貼り付いている。
動けば動くほど、絡む。
重く。
重く。
「……お、重い……」
膝が落ちた。
ドサッ。
「そこまで」
ヴェスピナが動きを止める。
小さく舌打ち。
「なんだよネクトリア。相変わらず避けてばっかで……」
「だって……」
思い返せば…避けることしか、学んでこなかった。
アピスが静かに告げる。
「お二人とも。明日も同じ時間に、お待ちしております」
沈黙。
風が吹く。
ネクトリア、泥と粘液に塗れてただ沈黙――
ヴェスピナが耐えかねる。
「と、とりあえず風呂入ってこいよっ!」
ネクトリアは俯いたまま。
「う……」
「うぅ……」
「うあぁぁぁあぁぁ!!」
堰が切れた。
「ひっどいよぉーーー!!」
ヴェスピナ、慌てる。
「いや、わかる! わかるけど!! 姉貴もさ、何か考えがあるんだって!」
「うごけない……」
「なに?」
「重たくて動けないの!!」
「……」
「しょうがねぇな……」
軽々と担ぎ上げる。
ネクトリアの手から、じとりと光る植物がぶら下がったまま。
初陣を越え、確かな活躍をした。
それでも――
悔しかった。
期待していた。
自分なら、もっとやれると。
だが――
理不尽。
納得できるはずがない。
夕日が、一つに重なる影を長く伸ばしていた。




