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傷と誓い

「――ネクトリア!!」


王妃の声。


同時に。


柔らかな光が、

金色の奔流へと静かに触れる。


荒れ狂っていた魔力が、

一瞬だけ、波打った。


ネクトリアの指先が、びくりと震える。


「戻りなさい……」


王妃の魔力は、責めない。

押さえつけない。


ただ――


包み込む。


まるで幼子をあやすような、

どこまでも穏やかな調和の波。


暴れていた金色の奔流が、

少しずつ、少しずつ、ほどけていく。


「……ぁ……」


ネクトリアの瞳に、

わずかに光が戻った。


そこへ重ねるように――


「拘束しますわ」


アピスの魔力鎖が走る。


バチィン!!


金の奔流を外側から固定。


王妃の“内側からの鎮静”と、

アピスの“外側からの封圧”。


二重の制御。


ようやく。


ようやく――


魔槍が、霧散した。


静寂。


荒い呼吸だけが残る。


ネクトリアの視線が、

震えながら持ち上がる。


そして――


ヴェスピナの左頬で止まった。


赤い線。


その縁に残る、黒い侵食痕。


ネクトリアの顔から、血の気が引いた。


ネクトリアの中で。


何かが、完全に刻まれた。


恐怖。

後悔。

自己嫌悪。


(……わたしが……)


小さな拳が、ぎゅっと握られる。


(……おねえちゃんを……傷つけた……)


「……わ……たし……」


声が、壊れる。


ヴェスピナは、数秒だけ黙り――


ぺろり、と親指で血を拭った。


「……浅ぇ浅ぇ」


だが。


その傷だけは。


6年経った今も――


消えていない。


――魔槍の暴走――


この出来事は二人の少女に、

文字通りの“大きな傷跡”を残した。


――その日を境に。


ヴェスピナは、戦場に出ることを許された。


そしてネクトリアは。


王妃の言いつけのうち、


ただ一つ。

ただ一つだけ。


「魔槍の顕現は禁止」


それだけは――


必死に守ると誓った。


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